第2話 幼馴染の特権
中学は秋野と共に私立へ進み、内部受験を選択して、今まで一緒にいる事になる。
幼馴染であり、共に長い時間を過ごした。
つまり俺が体験した事は、ほとんど秋野も体験している事になる。
「中学の時の再来だ」
「中学を卒業したらもう終わりかと思っていたのに。
なんなの、一年に一回、必ず出会うような決まりでもあるの?」
中学一年生の時に初めてその現象に出会い、毎年一回。
合計三回の経験を持つ俺が判断するに……、
今回も巻き込まれた種類としては同じものだろうと思う。
不思議現象……『異能力』。
俺が巻き込まれた異能力の原因が誰なのかは、既に分かっている。
「
「ふーん。じゃあ、その女をどうにかすれば解決するって事ね」
「おい、暴力的な事はするなよ。あくまでも巻き込まれた現象に正攻法で解決するんだ」
「なんでそんな真正面から……正直過ぎるわよ。
それに、能力者に気を遣い過ぎ。
悪いのは向こうなんだから、井丸が無理をする事はないのよ」
「いつも言っているだろ? 無理はしていないんだ。助けられる状況下にいて、向こうが助けてと願えば、俺はどんな困難にでも足を突っ込める。そうしたいと思ったからだ。それに、異能力に巻き込まれたからと言っても、能力者が悪いわけじゃないんだぞ?」
「どうだか。今回もそうだとは限らないわけだし。あと、誰にでも手を差し伸べる癖、いい加減に直した方がいいわよ。そのせいで『困ったら井丸に言えばいい』なんて噂が立つんだから」
「そんな噂があるらしいのは知っているが……あれ? お前もその噂、知っているのか」
そりゃそうでしょうよ、当たり前と言わんばかりに秋野は腕を組む。
須和映絵について、不登校である秋野に話を聞きに来たのだ。
出所は分からないが、秋野のその情報力を頼りにしていたのだから、俺の噂を知っていてもおかしくはなかった。
「秋野に相談というのは、能力者の事……『須和映絵』について、知りたいんだ」
「…………」
「頼むよ秋野。調べるのが大変な事だってのは分かっているし、お前の勉強を邪魔した事もちゃんと謝る。後日、埋め合わせも絶対にするから。――須和を助けたいんだ、どうしても。あれに巻き込まれた俺としては、見て見ぬ振りなんて、できないんだよ」
「(私が大変だとか、勉強の邪魔をしちゃっただとか、そういう事で沈黙したわけじゃないのに……)」
秋野は口を動かさずになにかを呟いた。
問うよりも先に、強い瞳を俺に向ける。
「ああそう。じゃあ、向こうが、たとえば拒絶したらどうするのよ。それでもずけずけと踏み込んでいくの? あんたの好意が逆に相手を追い詰めてしまっているとしても?」
「そうならないために、須和映絵の事を知ろうと思ったんだ。俺なりに調べたりもした。足を使って聞き込みをしたんだ。
でも、受け取った情報の真偽を確かめる術を、俺は持ち合わせていない」
「……井丸が危険な目に遭っているのならばまだしも、知らない女のために働きたくないわよ。私が盛大なフリみたいじゃない。踏み台にされるのは不愉快よ」
「それでも、俺には、秋野しかいないんだよ」
腕を組んだ秋野の指先が、自分の服を掴んでしわを作る。
強い瞳が泳ぎながら、再びを俺を捉えた。
「私しか、いないの?」
「秋野しかいないよ。こんな事、秋野にしか頼めない」
「……しょうがないわね。調べてあげる。ちょっと待ってて」
秋野はくるりと椅子を回転させて(なんだかノリ気だ)、モニターに向き直る。
デスクの上の問題集を腕を使ってどかし、スペースを空ける。
操作して出した画面を俺には見せてくれなかったが、須和映絵について、秋野が音読をしてくれた。
「学校側が処理した事案でかなりの問題児なのが分かるわね。
昼休みに女生徒を木刀で殴りつける暴行事件。同じく昼休みにガラスを割る器物破損。ガラスだけじゃなくて、扉を数枚、タックルでもしたのか、蝶番ごと破壊してる。
スライド式の扉は真ん中から真っ二つね。飛び蹴りでもしたのかしらってくらいの傷跡よ。
授業を無断欠席する頻度は多く、しかし学校自体を欠席する事はないらしいわ。皆勤賞一歩手前の出席率よ。クラス委員の方が病気での欠席の方が多いわ。
見境なく暴力を振るうのかと思いきや、クラスメイトを見て悲鳴を上げたり、廊下を駆け回っていたり。これを見ているだけでもかなり変人だって分かるわよ。
関わらない方が身のためだと思うけど……、どうせ諦めないんでしょ?」
「まあな」
驚きはあまりなかった。
俺からすれば、これで聞くのは何度目か分からない。
これで、秋野から聞いた事により、確証を得られた。
「心の病気……だって診断されているらしいけど……原因はこれなんじゃ……?」
「原因の一つではあるかもな。なんにせよ、もう一度会わないと。
今度は自分から巻き込まれにいかないと、救い方も分かりゃしない」
「それで。今度はどんな異能力に巻き込まれたわけ?」
「気づけばゲームの世界だった、って感じだな」
うへえ、と、秋野は満腹そうな表情を浮かべた。
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