ACT4

 緊張するな。私は師匠に習った緊張のほぐし方実践しながら教室の前で待っていた。転校初日。嫌な記憶が蘇る。ここ王都に来る前にいた村の出来事だ。

 私は他の人と違って目が赤い。そのことで村の人から忌み子として扱われていた。両親もおらず多分この目のせいで捨てられたんだろうと思う。でもそんな日常から師匠が救ってくれた。それに相棒とも言える存在もできた。


「ミラ。緊張するね。」


 嫌な記憶を止めるためミラ。私の相棒とも言える。ウサギに話しかける。ミラは捨てられていた時に一緒に置かれていた短剣に宿る精霊だ。ミラは私の方を見て首を傾げている。


「それでは入ってきてください。」


 先生の声に合わせて教室に入る。クラスの生徒の注目が私に集まる。先生が黒板に私の名前を書いていく。書き終わったところで自己紹介をするように私に言った。大きく深呼吸をして自己紹介をする。


「はじめまして。ヴィーナ・ラクルと言います。この子は私の短剣に宿っている精霊のミラです。よろしくお願いします。」


 静寂に包まれた。この静寂に私は不安感に襲われる。しかし不安感は一瞬で驚きに変わってしまった。聞こえてきたのは歓声だった。


「可愛い!!」

「やったぜ!女の子だ!!」


 戸惑いを隠せなかった。どうやら受け入れられているようだ。よかった。席は後ろの方の窓からひとつ隣の席だった。そして朝の学活の時間は過ぎていき。次の授業の準備時間になった。クラスの人たちから質問攻めに合うことになった。それは授業が始まるまで続き準備時間、休み時間になるまで続いた。帰りの時間になる頃には疲れがどっと出てきた。隣の席のフレアちゃんと仲良くなった。フレアちゃんは可愛い。それに活発な子でクラスのリーダみたいな人らしい。帰りも一緒に帰ろうと約束を取り付けたくらいだ。


「ヴィーナちゃん帰ろう。」

「うん。」

「質問攻め大変そうだったね。」

「疲れちゃったけどすごく嬉しかった。こんなに歓迎してくれるなんて思わなかったから。」

「そうだね。それにみんな楽しみにしていたんだよね。そんな子が来るかなって。男子なんて女子って聞いた時お祭り騒ぎしていて本当男子って馬鹿だよね。」

「そうなんだ。」

「そうだよ。全くだよね。」


 会話は尽きることなく、分かれ道まで続いた。別れた後私は嬉しさを噛みしめた。クラスの人たちはいい人ばかりで私の目をきみ悪がる人なんて一人もいなかった。


「ただいま!」


 家に帰るとイーリスが迎えてくれた。お菓子を作っていたようで部屋の中にはお菓子の焼いたいい匂いが広がっていた。


「お帰りなさい。ラヴィさん学校どうでした?」

「楽しかった!フレアちゃんってこと仲良くなったよ。それにみんないい人で、すっごく楽しかった。」

「それならよかったです。ナージャ様。ラヴィさんが帰ってきましたよ。」

「おーお帰り。どうだった?」

「楽しかったよ。みんないい人だったし。」

「そうか、それならよかった。今日は疲れただろう?修行は今日休みにするから体をやすめなさい。」

「わかった。ありがとうね師匠。」


 私は自分の部屋に鞄を置きにいき、イーリスの作ったクッキーを食べた。イーリスの作るクッキーは最高でどのお店のものよりも美味しかった。

 それからの学校生活はすごく楽しかった。みんなとどんどん仲良くなっていった。休みの日にはいろんなところに連れて行ってもらったし、たくさん遊んだ。

 それから月日は流れ、3ヶ月くらい経った頃事件は起こった。野外に魔物の討伐訓練に出ていた時だった。そいつは音もなく気付いた時にはそこにいた。本能が危険だと告げていた。現れた瞬間大きな爆発がそいつを中心に起こった。先生の防御の魔法もなんとか間に合ったのか被害は最小に食い止められていた。しかし先生は生徒を守るのに精一杯だったのかその場に倒れ込んだ。そいつの姿はいなくなっていた。


「先生!!」


クラスメイトが駆け寄る。


「大丈夫だ。怪我はないか?みんな授業は中止だ。すぐに他の先生を呼んできてくれ。そして騎士団に連絡も入れてくれ。」


 先生の介抱するもの。他の先生を呼びにいくもので分かれて行動する。私は他の先生が来るまでみんなを守らなければという使命に駆られた。すぐにミラをその身に宿し、戦闘態勢の入る。周りを確認するがやはりそいつはいないしかし。そう思ったのも束の間で後ろから声をかけられる。


「ナージャの匂いがするな。どこにいるのか知っているか?」


 背筋が一瞬でこわばる。振り向きざまそいつ目掛けて短剣を突き刺そうとしたが躱されてしまう。そいつと向き合うか形になる。距離はあるが緊張が走る。


「おまえなんなだ。どういう目的だ。」


 答えてくれるかはわからなかったが質問を投げかける。それに師匠のことを知っていた。出したらまずいと思ったのでそいつの質問には答えなかった。


「質問しているのは俺なんだがな。答える気ないか?」

「答える義理はない。」

「そうか。しかし関心するな。手が震えているぞ。怖いのだろう?無理はしないほうがいい。」


 図星だった。そいつからは圧倒的な戦力の差を感じていた。師匠たち王クラスの魔力を感じる。私ではどうしようもない。でも私は剣英の弟子。そう思い起こし私は折れかかっていた心を奮い立たせる。私がみんなをも守らなければ。私は握っている短剣を強く握りしめ向き直る。相手を真っ直ぐ見据えて。

 声を荒げ、相手に飛びかかる。最初からランのスピードで。雷属性を纏った剣を突き立てる。躱されてしまうが何度何度も飛びついていく。


「ははは切り掛かって来るとはやるな。しかし。うっとしいな。ほれ。」


 横に躱され、脇腹に激痛が走り、空中に蹴り飛ばされる。


「ラヴィちゃん!!」


フレアちゃんの声が聞こえる。ゴロゴロと地面を転がりその勢いで立ち上がり、体制をなおし、再度飛びかかる。

 『紫電雷光』。雷を纏いジグザグに飛んで加速していく。一撃目が入り、そいつは飛び上がる。何回も攻撃を入れて回数を重ねていく。最後の一撃を入れ込み距離を取る。肩で息をしている。どうだ。砂煙が晴れる前に聞こえてきたのはそいつの高笑いだった。


「はっはっは。よかったぞ今のは。」


むくりとそいつは全くきいていないようだった。絶望が私を襲う。


「出し尽くしたかな?次は俺の番かな?」


 ニタニタと笑いながらそいつは一歩一歩近づいて来る。私はもう無我夢中で攻撃を重ねた。しかしそいつは躱しながら虫でも払うように攻撃される。地面に叩きつけられたり。蹴り飛ばされたりボコボコにやられた。しかもそいつは遊ぶような攻撃のしかただった。


「そこまでだ!!」


 学校の先生が到着した。私から攻撃の的が変わり私は助けられた。しかし、先生たちですら赤子の手をひねるようにやられていく。地獄絵図ような有様だった。生徒の避難が完了していたのが不幸中の幸いだった。

 助けて師匠。

 私は強く願った。その願いは届くことはないだろう。遠退いていく意識の中その願いだけを心の中で何回も何回も願った。



 知らせが入ったのは依頼の話をまとめている時だった。ラヴィさんの通う学校が何者かの襲撃を受けているともことだった。この話を受けてナージャ様と一緒に学校へと向かう。学校を管理している火星のクランの王クリス様は今日地方の学校の視察に行っていて不在。そのために対応が遅れてしまっている。報告のあった課外授業の場所からは煙が見える。ここまでかなりの魔力が伝わってくる。王クラスか?なんてことだ王クラスの魔力を持つものなんてこの国にはいない。魔界の進軍か?魔界のものがこちらにくる時は一帯の魔力値が高くなるため発見が遅くなるなんてことはない。それだけ土星のクランの警備は完璧だ。ならばこの敵はなんだ?この未知の敵のことを考えるのは止まらない。ナージャ様の顔にも緊張が走っている。どんどんと近づいていく。確認できる位置に着いた時は煙と倒れる人が目に入った。戦闘の音も聞こえて来る。誰が戦っているのかはすぐにわかった。ラヴィさんだ。しかし、全くと言っていいほどに一方的だった。今までにないほどの怒りの顔をしたナージャ様によって戦闘が中断される。


「師匠?」


 かすれかすれの声でラヴィさんが言う。


「よくここまで耐えた。もう大丈夫だ。」

「ラヴィさんこちらに。」


 歩けなくなっている。ラヴィさんに肩を貸しながら安全な場所まで連れて行く。騎士団の治療魔法が使えるものを探してまかせてからさっきの場所まで戻る。敵の姿はいまだに視認できていなかった。ナージャ様は誰かもうわかっているようだった。


「なんでお前がここにいる。」

「つれないじゃないかナージャ。久しい再会だぞ?会いたかったぞ。どれほどお前に会えるのを待ち望んだか。」

「ふざけるな。」

「ふざける?心からの言葉だよ。」


 私も視認できた時驚きが隠せなかった。そいつは魔界大戦の時の元凶。『天災の剣』に宿った精霊だった。魔界大戦の最終決戦の時私とナージャ様、そして国王バルド様と一緒に倒したはずだった。なのにそいつは私たちの前にまた現れた。


「どうしてこいつがここにいるんですか!倒したはずなのに!」

「こいつは悪意さえあればいつでも蘇る存在だ。そうかこの前の魔物の巣の件はお前の復活のためか。」

「みたいだな。いい魔力だったよ。復活できるには十分だったよ。」

「何が目的だ。」

「目的なんて一つだ。お前と遊びたいがためだよ。お前は出会うたびに強くなる。最高だよ。」

「黙れ。てめぇとの因縁なんてこっちからは願い下げだ。」


 口調が変わった。怒りが募っているのがわかる。その言葉とともに私は剣へと姿を変える。切りかかったナージャ様の攻撃をそいつは剣へと変えた右手で受け止める。鍔迫り合いの間に蹴りを脇腹に入れるしかしそいつは楽しそうな声を上げて真似っこする様に同じ行動をとった。苦悶の表情を浮かべたナージャ様は後ろに飛んだ。そいつは追撃してきた。これを躱し、剣をなぎ払う。そいつの背中に切創ができるがすぐに塞がる。異常な回復速度だ。蹴りを入れて飛び上がったナージャ様は空中で構えると『雷閃』繰り出す。一帯が光に包まれ地面が削れた。その後に雷鳴が轟く。続けて砂煙な晴れないところに追撃の雷を放つ。砂煙が晴れてきてみるとそいつはむくりと立ち上がり高笑いを上げる。


「弱くなったか?ナージャなんだその攻撃は。」


 ものともしていなかった。


「こちらから今度は行くぞ。」


 ゆらりと陽炎のようにそいつの姿が揺らめくと何体かに分裂した

一斉にそいつらが襲いかかって来る一人また一人となぎ倒していくが何発か攻撃をくらっていた。応戦しているがそいつの分裂体は何体も出てくる。後ろに飛んで距離を開けて『雷閃』で一掃してしまう。残った本体を叩くため。一気に距離を縮めて斬りかかる。躱され蹴り飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がり止まった時には足で踏まれていた。その足に力を込められ、悲痛な声を上げる。


「俺を失望させないでくれ。ナージャ。」

「けっ。勝手にしとけ。ただの時間稼ぎだよ。」


 後ろにはすでに到着していた。土星の王ジャック様がが後ろから切り掛かっていた。これも躱されるが距離が離れる。


「ナージャ大丈夫か?」

「なんとかね。回復には時間がかかりそうだけど。」

「お前ほどの手練れがここまでやられるとはな。クレアが来てるから回復魔法してもらってこい。」

「いや、いい。こいつとは因縁があってな。俺もやる。」

「そうか。なら止めん。合わせろ。」

「了解。」


 王二人がかりの戦闘。有利に進めるはずだ。息の合った攻撃に流石に躱すことだけに精一杯なようだ。しかし、決め手にかけていた。距離を開けられそいつは分裂した。


「楽しくなってきた。これならどうだ?」


分断され、個人になってしまう。しかし二人は視線を送り、挟み撃ちのような体制にした。しかしこれも躱されてしまう。攻撃の手を二人とも緩めずに、攻めていく。決め手に欠けたまま。


「これを防いでみろナージャ!!」


 その声とともにそいつは小さく身を丸め、バッと体を広げた。その瞬間あたりは閃光に包まれ大爆発が起こった。二人とも避けずに防御の魔法を張って後ろの負傷者たちまで被害がいかないようにしていたが直撃をくらってしまっていた。ゴフっと血を吐き、二人ともその場に倒れる。私たち精霊も人の姿に戻り駆け寄る。息をしているが危ない状態だ。


「なんだもう終わりか。つまらない。ここのものみな消してしまおうか。」

「させるものか!!」


 私とマルアイ様で結界魔法を張りそいつを中に閉じ込める。誰でもいい早く来て。

しかしその結界もいとも簡単に破られてしまう。なす術がもうない。一瞬で飛ばされ進軍を許してしまう。私の意識はそこで途切れた。



 私が意識を取り戻した時仮説のテントの貼られたテントの中だった。横にはナージャ様が寝ていた。重症のようだ。知らせの声に耳を傾けるとそいつはもう街で猛威を振るっていたようだ。この王都にいる王は7人中4人。そのうち2人はここで意識不明の重体。月のクランの王はここで治療に専念していて戦いには参加できないもう一つの騎士団で主に治安維持が役目の木星のクランの王ラッド様がいる。王2人掛かりでも止められなかったそいつをカバーできるかと言うとできないと言うのが目に見えている。国王は三世界会議という魔界、天界、人間界のトップの会議のため不在。ギルドを統括している水星のクランの王ピーター様は護衛のため不在。学校を統括している火星の王クリス様も視察のために不在。連絡も入っていないだろう。入っていたとしても来るまでにどれほど時間がかかるか。最悪の状態だ。火星と木星のクランの騎士団の人たちによってなんとか王都に住んでいる人たちの避難をさせているがまだ完了していないようだ。

 たった1体のそいつに壊滅まで追い込まれてしまいそうな勢いだった。


「起きましたか。」


 月のクランの王。クレア様が話しかけて来る。


「私も街の防衛に参加します。」

「やめなさい。今ここの2人は魔力欠乏症の症状が出ていて、リンクしているあなたたちもおんなじ症状が出ているから今行っても足手まといにしかならないわよ。」

「そんな。どうして。」


 魔力欠乏症。人間は魔力を貯蔵するタンクのようなものを持っており、その中のタンクが空になってしまうと死に至ってしまう。なので一定値を下回ると動けなくなってしまったり魔法が使えなくなってしまったりする。しかしこの魔力欠乏症はそう簡単にはならない。人のタンクの量が100とすると一つの魔法で減るのは0・1くらいなものでそれに時間とともに回復していく。回復の値の方が多いのでまずなることがない。それに王の魔力というのも一般の人と比べるとタンクの量も値も桁違いだ。


「多分持っていかれた。」


 私の質問に答えるようにそう答えた。そうかあいつに持っていかれたのか。となるとますますまずい。あいつはいま王2人分の魔力を持っていることになる。そうなってしまうと手がつけられない。

 横をみるとラヴィさんも寝ていた。こちらも重症だ。


「彼女もひどい怪我だ。魔力は持っていかれてないのが救いかな。弟子だったけ?立派だよ彼女のおかげで生徒たちの怪我はなかったよ。」

「ラヴィさんがんばったんですね。」

「んっ。イーリス?」

「ラヴィさん気が付きましたか!!クレア様目を覚ましましたよ!」

「本当か!容態を見るからどいてくれ!!」


 容態は峠を超えていたらしく安静なら問題はないようだった。


「あいつは!?イーリス、あいつはどうなったの?」

「ラヴィさん落ち着いてください。今土星と木星のクランの人たちとギルドの人たちがなんとか対応しています。今は治療に専念してください。」

「師匠は?」


 ここでの説明も迷ったが隠せそうにもないので正直に話すことにした。


「そこのベットで横になっています。」

「そんな師匠まで…。」


 重苦しい雰囲気がテントの中に充満してしまう。しかしここでナージャ様が目を覚ました。


「ナージャ目が覚めたか。魔力がまだ安定してない。寝ておけ。」

「どれくらいたった?」

「3時間くらい経ったよ。」

「まずい。あいつは時間が経てば立つほど魔力が上がる。このままでは手がつけられなくなる。」

「お前どうしてそこまで詳しいんだ?」

「あいつは魔界大戦の時よりも前に合っていてこれで3回目だ。会うのは。だから知ってるんだよ。」

「お前怪我だけじゃないんだぞ。魔力欠乏症まで引き起こしているんだぞ。無理だ。足手まといにしかならん。」

「奥の手はある。でも1人じゃ無理だ。他の王はどうだ?」

「今王はラッドだけだ。でも現状どうなっているのかはわからん。」

「この時間なら今交戦中か。間に合うかもしれない。すぐにいく。」


 しかし力が入らないのかその場に倒れ込む。


「師匠!私も行きます!連れて行ってください。」

「だめだ。ここにいなさい。」

「師匠だって満身創痍じゃん!心配だよ。私も絶対行くからね。」


 何を言っても聞かない雰囲気だった。折れたのか連れて行くことを決めていた。

最終局面を迎えようとしていた。


 街についた時にはどこもかしこも火の手が上がっていた。中央に行くに連れて被害は大きくなっていた。どこで戦闘が行われているのかすぐに分かった。そこに行くと騎士団の人たちが倒れており戦えるものは数えられるくらいしかいない。中心ではラッド様を交えて交戦中だった。そこに私たちも混ざる。


「ナージャ!!やはりお前は最高だ!」


 そいつは喜びの声を上げる。私たちが混ざったところで現状は変わらなかった。さらに押され立てるものはラッド様とナージャ様、ラヴィさんの3人になってしまった。もうダメなのか。


「よく聞きなさいラヴィ。」


 ナージャ様は優しい声で話し始めた。息も絶え絶えになりながら続ける。


「もう君は金星の王を名乗っていい。生徒たちを守ったらしいじゃないか。すごいことだよ。誇っていい。」

「どうしたの。師匠。そんな最後にみたいなこと言わないでよ。」

「最後まで聞いてほしい。そしてイーリス今ここで契約をラヴィに譲渡する。」

「そんなどうしたんですか。やめてください。それに一方的な契約破棄はできませんよ。」

「僕が2年前にいつ死んでもいいようにその瞬間は決めていい約束をしたよね。それを今使う。」


 初めて寿命の件を聞かされた時だった。自分がいつ死ぬかもわからないからその時にすぐに公認も者に譲渡できるようにしてほしいと頼まれていた。


「師匠やめてよ。死なないで。私まだ一緒にいたいよ。」

「ごめんねラヴィ。でもあいつは僕のせいでこんなにも驚異的になってしまったところもあるんだよ。幕引きは僕の役目だ。そして君たちは絶対に守るから。」

 

 ナージャ様の突然の言葉に私たちは戸惑いを隠せなかった。どうして魔力もないのに私との契約を破棄してしまったら死んでしまう。しかし私の思いとは裏腹に契約がラヴィさんに譲渡されてしまうのがわかった。ラヴィさんはその場に泣き崩れてしまった。

 ナージャ様はそんな彼女を優しく抱きしめてまるで子でもあやすように頭を撫でている。こちらに視線を向けてきて優しく微笑んだ。どうして。


「さぁ。決着といこうか。」

「奥の手を隠していたのかナージャ。それでこそお前だ。私を存分に楽しませてくれ。」


 ナージャ様が構えて『コントラト』と一言呟きながらその場に落ちていた剣で手首の血管を切る。するとさっきまでないに近かった魔力がぐんぐんと回復していった。それにいつもの倍以上の魔力を感じる。

 そいつと最後の決戦が始まった。そして決着はすぐについた。そいつの腹あたりに剣を差し込んでその場で膠着状態になる。2人の周りで光が帯び始める。


「貴様何をした!!」


 そいつの咆哮のような声が響き渡る。


「存在そのものを消す魔法さ。普段の僕の魔力では足りないほどの魔力を使うけど、『コントラト』っていう僕の一族に伝わる代償を払えば魔力を倍以上にできるものがあってね。それを使えば可能なんだよね。これでお前は消えていく。逃れられないさ。1人は寂しいだろうから僕も一緒に死んであげる。」

「ふざけるな!!そんな終わりがあるか!もっと血肉湧き上がるような闘いをしようではないか!!」

「生憎それに付き合ったあげるほど僕は優しくないんだよね。」


 そいつからナージャ様が離れるとどんどんとそいつの体は崩壊していった。消滅を見届けるとナージャ様はその場に倒れ込んだ。すぐに駆け寄り抱き起こす。ナージャ様の体も崩壊している。


「師匠!!しっかりして!死なないで!!」

「ラヴィ泣かないで。僕はね君たちを守れて嬉しいんだ。」

「すぐに医療班の方がつきます!!それまでどうか。」

「もう無理だよ『コントラト』の代償は僕の命だからね。最後に僕の頼みを聞いてほしい。僕の部屋の机の中に貝殻がある。それをアトランティスまでどうか届けてほしい。これをイーリスと2人で。お願いできるかな?」

「する!するからお願い師匠!死なないで!」

「ごめんねラヴィ。どうか泣かないで。僕はいつでもみ…まもって…る…から。」


 握っていた手の力がなくなってしまいだらりと下がる。


「師匠!ねぇ師匠ってば!」


 その声に応えることはもうなかった。ナージャ様の体は完全に崩壊してしまい服だけがその場に残っていた。いつまでもラヴィさんの泣き声だけがこだましていた。

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