ACT 3

  次の日は大忙しだった。私とナージャ様が別れて近隣の集落や町の結界の補修に回り、ラヴィさんが3人を住んでる場所へと送っていった。途中から土星のクランの王と騎士の皆さんが来てくれて、終わる頃には日が暮れ始めていた。


「ナージャ様ここにいらしたんですね。」

「あぁ今日はさすがに疲れてね。ぼーっとする時間が欲しかったんだ。」

「夜通し魔力網を張っていましたものね。」

「うん。全く引っかからなかったけどね。もうこの辺りに居ないか魔界に逃げ帰ったのかのどちらだろうね。可能性としては逃げ帰った方が高いけどね。」


コツコツと足音が聞こえてきて、振り返ると土星のクランの王。ジャック様だ。屈強な体に自分の体ほどの大剣を背中に担いでいた。腰には三本の小さな短剣をぶらさげていた。その後ろからひょこっと土を司る精霊。ジャック様の守護精霊のマルアイ様が顔を見せた。2人並ぶと大人と子供のようだ。

「やー!ナージャこの前の依頼の時ぶりー。イーリスは英剣会議以来だっけ?元気だった?」

「マルアイ少しうるさい。久しぶりだなイーリス殿。かわりないか?そしてナージャ探したぞ。」

「あぁすまない。少し外の風に当たりたくてね。それでどうなった?」

「今、捜索中だ。魔力網も我らの班の反応しかないから居ないか逃げたかのどっちかだろう。まぁ後者の方だと思うがな。しかし王と言えど一晩中魔力網張りっぱなしとはさすがだな。」

「さすがに疲れたよ。休む間もなく結界の補修にも行ったしね。久しぶりにこんなに魔力使ったよ。」

「にゃはは。王の鑑だね。ナージャは。でも無理すると死んじゃうよ?体は大事にしなきゃ〜」

「善処するよ。」

「あ、それと儀式に関してなんだと思う?」

「んー、さしずめ何かの復活だろ。魔界対戦の時に天界の奴らと組んで何体か封じたしな。」

「やっぱりお前もそう思うか。三界協定とは名ばかりだな。」

「魔界の奴らだからな。返り討ちにあってもめげやしねぇ。程々呆れるよ。」

「このことは太陽のクランに話を上げておくよ。」

「よろしく頼む。」

「しかしすごいなお前の弟子はお前がいるにしてもたったの2人で壊滅か。」

「だろう?自慢の弟子さ。」

「思い残すこともなさそうだな。」


 あぁとだけ言って遠くを見つめるナージャ様。その横顔は少しだけ安心しているようだった。世間話を出来るだけの雰囲気は戻ってきた。ラヴィさんは3人を送り届け私たちと合流して、補修作業の手伝いをした後緊張の糸が切れたのか今眠ってしまった。しかし、ラヴィさんと似てるなマルアイ様。いつ見ても思う。性格は違うのだが見た目がもう瓜二つなのだ。違うところは髪の色と身長と目くらいであとは双子のように似ている。世界には自分と同じ人が3人いると言うが、本当らしい。

現状を伝えたあと何かとあるのかジャック様とマルアイ様は持ち場に戻られた。私たちも今日のことに疲れたので、休むことにした。


「いってきまーす」

「はーい。気をつけてくださいね」

「気をつけてな。」

「はーい」


今日からラヴィさんは学校だ。転校初日たくさん友達できるといいな。


「よし!イーリス僕たちも準備しようか」

「準備ですか?今日は特に依頼などはきていなかったと思いますけど…」

 時は少し進み。というか

「これは流石に過保護すぎでは?」

「何を言うイーリス。心配じゃないのか?イーリスは?」

「心配ですよ!ですけど、学校に侵入するのはどうかと思いますよ!?」


 そうなのだ。私たちは今ラヴィさんの学校に来ている。目立たぬように色付きメガネをかけて手には茂みに隠れられるように葉っぱのついた枝を持っている。今ラヴィさんは外で魔法の実技授業を受けている。それを遠くから見ている。学校の人にばれたら、何と言い訳すればいいのやら…。


「ラヴィはイジメられたりしていないだろうか仲間外れになんてされていないだろうかどうしよう学校行きたくないって言わないだろうか。」

「大丈夫ですよ!ほらあんなに楽しそうにしているじゃないですか!それよりも私たちの今の状況の方がまずいですって学校の人に見られたらどうするんですか!!」

「大丈夫だイーリス。学長の許可はとっている。安心していい。王権限でな。」

「そんなことで王の権限使わないでください。しかし許可とっているなら安心ですね。」


 授業の終わりを告げる鐘がなる。鐘につられるように道具の片付けを始める生徒たち。見ている限りではもう仲良くなった子もちらほらと見受けられる。よかった。馴染めていないなんてことはなさそうだ。ごねるナージャ様を引きずりながら学校を立ち去ろうとしていた時、


「あら。ナージャにイーリスちゃんじゃない。どうしたの?こんなところで。」

「こ、こんにちはクリス様。ご機嫌よう。」

「ご機嫌よう。今日金星のクランに授業依頼していたかしら?それにそんなヘンテコな格好してまで。」


 彼女はクリス・ウォラー。火星のクランの王でこの国の学校を管理しており、理事長的な立ち位置にいながら全ての学校で様々な授業をしている。常に修道服を着ておりなんと元シスターらしい。というか


「ナージャ様!許可取られているのではなかったのですか!?」

「とったさ!心の中で!」

「それは取られていないのと変わりません!申し訳ありませんクリス様!すぐに学校から出ていきます。」

「あらなそうなの?ゆっくりしていけばいいのに。そういえば今日からだったけ?ヴィーナさんの入学の日は。なるほどね。心配で覗きにきたわけだ。イーリスちゃんは連れてこられたとしてナージャ流石に過保護すぎない?嫌われるぞ?」


 グゥの音も出ないのかナージャ様は黙られてしまった。その姿を見てクリス様はケラケラと笑っていた。忙しようでクリス様はすぐにご自分の仕事に戻られた。


「忙しそうでしたねクリス様。それにグラファイト様の姿も見られませんでしたね。」

「この国を1日単位で移動しているからな本当に仕事大好きなやつだよ。それにグラファイトのやつも何かと教えるのがうまいからなぁ今ごろ授業でもしていたんじゃないか?」

「そうですね。」


 そこまで話して次の授業を見に行った。次の時間は座学のようで元気に発表している様子を見て安心したのか学校を後にした。学校からの帰り道。私たちは太陽のクランに呼ばれていたため太陽のクランのある王宮へ寄った。太陽のクランはこの国の政治を統括しており太陽のクランの王がこの国の国王でもある。その国王様からこの前の北の洞窟の件について聞きたいことがあるようだった。王宮に着くとすぐに国王の部屋へと通された。


「ひさしいなナージャ。元気にしとったかの?わしゃー最近腰が痛くてのどうにも敵わんわい。」

「あんたワイトキングだろうが痛がる腰なんて持っていないだろう。それにこの前の件で聞きたいことがあるんだろ?」

「ナージャひどいのぅジジイのジョークだろうがい。優しくしてくれてもバチは当たらんだろう。そうそう。Sランクの死体が見つかったという報告を受けてな。しかし妙なのだ。食い荒さておってなそのことについてお前の意見を聞きたいと思ってな。どう思う?」

「食い荒らされていた?仮にもSランクだろ?この世界にいる魔物にはまず無理だ。可能性があるなら儀式が成功して封印が解けた後そいつのエサになったってところか?」

「やはりそう考えるのが自然か。しかしその後の消息が不明でな。魔力網にも巨大な魔力が当たりもせん。調査が難航していてな他になんか思いつくかの?」

「んー魔界に帰ったくらいかな。帰っていないならもう被害の報告が上がってきてもおかしくないからな。儀式跡から特定はできなかったのか?」

「初動がよかったからな。杯に血を集めていたことくらいしかわからんくてな。血を代償に蘇らせるのなんてごまんといるからな。特定できなくてな。もしこれから被害が確認されたら金星、土星、木星の3クランに協力を要請するからいつでも対応できるようにしといてくれ。話は以上じゃ。すまんのぅ時間をとらせて。」

「かまわないよ。それに調査後からは仕事が無くて暇だったから。」

「そうかそうか、そんなに暇ならこのジジイの相手してくれても良いのだぞ?」

「遠慮するよ。介護するような性格じゃないしな」

「自分でトイレも飯も食べれるぞ?話し相手くらいなものだぞ?」

「話し相手はモルチェにでも頼んでくれ。」

「モルチェ最近ワシに冷たいんだもん。この前なんか鉄拳くらったわい。」

「どうせモルチェにセクハラまがいのことしたんだろ?同情するよモルチェに。」

「味方はゼロか。悲しいのぅ。ワシ国王なのに。」

「しょうがないな自分の行動を省みるんだな。それじゃ僕はこれくらいで帰るよ。」


 そう言ってきびつを返すナージャ様の後を国王バルド様に一礼して追いかける。その背中に国王が声をかける。


「ナージャよ歳をとったな。」

「あんたは変わらないな。人の魂はあんまり見るもんじゃないよ?」

「弟子はどうだ?ワシ以外の王には寿命のことは話してはいないようだな。」

「僕の自慢の弟子さ。それになんとなくみんな気付いているさ。本当に時間がなくなってきたら話すさ。時間があるうちはまだね。」

「そうか。お前がそういうならそれでかまわないさ。またなナージャよ」

「あぁ暇になったらまた来るよ。」


 そう言って国王の間を後にした。この国でナージャ様に寿命が迫っていることを知っているのは私と国王、そしてその守護聖霊であるモルチェ様だけだ。ナージャ様と国王様の間柄はなんとも珍しい。他の王たちはこんなに砕けた口調では会話しない。それだけ信頼を置いているということなのだと思っているが本当のところはわからない。それに国王様が本当は魔族のワイトキングということも王らの機密事項だ。普段は魔法で人間の頃の見た目になっているが、王自ら戦うことになった場合はワイトキング、骸骨の姿になられる。国王自ら前線に立つことはないからバレる心配はない。それにここ百年は平和そのもので魔族の大量発生なんかもない。それだけ軍の魔物管理や警備、質なんかがいいのである。いい国だと思う。帰り際街が一望できる高台の公園に寄った。


「綺麗ですね。」

「そうだな。」

「次は三人で来ましょうね。お弁当なんか持ってきて。」

「それは楽しみにしとくよ。」


 少し眺めて帰路についた。このまま平和な毎日が続くことを願って。

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