ACT2

 街へのお出かけは太陽が昇り町が活気付き始めた時間に出発した。

「見てみてイーリス魚がこんなにたくさん売られているよ!」

「ほんとですね!それにどれも新鮮ですね!」

 街は、様々な声で溢れている。魚を売る声、野菜を買う人の声。顔見知り同士の世間話や挨拶。ここ王都バルドザールには人口1億人を超える人が住んでおり、漁業やギルドによるハンターなどの様々な人がいる。街はレンガ造りの建物が多く、道もレンガや石によって補正されている。

「ねぇねぇイーリスあれは何している人?」

「あれは大道芸師の方ですね子供や道行く人を楽しませてくれるひとですね。少し見て行きますか?」

「うん!」

 そう言って我1番というように駆け寄っていく。私もそれに続き、ラヴィさんの後ろから芸を見る。バルーンをプクゥーっとふくらませるとそれを器用にねじ曲げたり編み込んだりして何かを作っていく。あっという間にそれはウサギの形になり、拍手に包まれた。はいどうぞというようにラヴィさんに手渡される。ラヴィさんはウサギのバルーンに目を輝かせ、何度も大道芸師さんにお礼を言っていた。フヨフヨと浮かぶバルーンを引きながら私たちは次の目的地まだ歩いた。巷で噂のクレープ屋さんだ。目的地に着くとまるで大蛇のような行列が出来ていた。その最後尾の並び自分たちの番になるのを今か今かと待つ。自分たちの番になり2つ1番人気のクレープとニンジン味のクレープを頼み、出来上がるのを待つ。薄い生地を半円の形に折り、その上にバナナやイチゴといった果物をその上に置いていく。ニンジンのクレープはニンジン風味の生クリームにイチゴのソースを乗せたものだった。できた物を受け取り近くのベンチに座り食べ始める。

「おいしー!生クリームがふわふわしててすぐに口の中から消える!」

「ほんとですね!さすが王都1のクレープ屋さんと名高いお店ですね。」

「キュイキュー」

 3人ともペロリと食べてしまい幸せな気分に浸った。次はティラミン大聖堂だ。ティラミン大聖堂までは今いる場所から少し遠回りになるが海沿いを歩いて向かった。遊歩道から見える灯台は若い子たちの間では有名でそこで愛の告白をして結ばれたものは生涯を添い遂げるなんて言われている。私たちが通った時も若いカップルたちが多く訪れていた。

「ここの灯台縁結びの噂があるんですよ。」

「そうなの?そういえば確かにカップルが多いね憂の憂のぉ〜」

「ラヴィさんはいったい何歳なんですか!」

 冗談を言って笑いあった。こんな風に笑えるようになってくれてよかった。ここにきた当初は自分のしてきたことに対する恐怖や自責の念によって暗かった。こんな風に街を見て回ることもしなかった。これもあれもナージャ様のおかげなのかもしれない。

「そういえば師匠は今日どこにいったんだろうね。こんなに楽しいんだからくればよかったのに。」

「そうですねなにかとお忙しいんだと思いますよ。なんと言っても金星のクランの王なのですから」

「金星のクランって他のクランみたいに何か仕事決まってないよね。どうしてなの?」

「んー詳しくは聞いたことはないですけどクランを立ち上げる時ナージャ様が便利やみたいな立ち位置のものがいるだろうって太陽のクランの王様現国王のガルド様に申したからって言っていましたね。現に金星のクランの仕事は騎士見習いの剣術指導や各地にある対魔物用の結界補修なんかですからね。」

「意外とあるんだね知らなかった。でも私剣術指導や結界補修なんて出来ないよ?教えてくれるのかな」

「そうですねそのうち教えてくれると思いますよそれに結界補修は私も行えますし急がなくても大丈夫ですよ。」

「そのうちかーその前に明日からの修行に早く合格できるように頑張る。」

「頑張ってください私も微力ながらもお手伝いします。」

「ありがとうってあの見えているのティラミン大聖堂じゃない?早く早く。」

「待ってくださいそんなに急がれては転んでしまいますよ」

 とスタスタと早足になるラヴィさんを追いかける。遠くではカラスが鳴いており、陽が陰る時間になってきた。

「ただいまー」

「おかえりなさいってラヴィさんちゃんと帰ってきたら手洗いうがいしてください風邪ひきますよ」

「はーい、ってなんだかイーリスってばお母さんみたいだね。」

「お母さんでもなんでも結構です。風邪を侮ってはなりません。そこからさらに恐ろしい病気にかかるかもしれませんよ?」

「はーいイーリスお母さん」

「全くもう」

「おかえりイーリス早かったね、ラヴィもおかえり」

「がらひま」

「ナージャ様もおかえりなさいませ。いつお戻りになったんですか?」

「ただいま、僕も今さっき帰ったところだよ。」

「そうなんですね。今日はどちらに?」

「ちょっとねそのことで話したいことがあるから少し良いかな?」

「はい。構いませんが、もしかして新たな依頼でも来たのですか?」

「そうそう。北の洞窟に魔物の巣ができ始めているらしくてな、その巣の駆除を今度土星のクランが行うらしい。だが、どういった状況なのかわからないみたいだから状況の調査をしてきて欲しいそうだ。この調査にラヴィも同行させようと思ってね。どう思う?」

「そうですね大丈夫だと思いますよ。手合わせを見ている限り中型モンスター程度なら相手しても問題ない実力です。同行することによって経験を積む良い機会かと思います。」

「ありがとうそういてくれると心強いよ調査の日は3日後だ。僕からラヴィには伝えておくよ。」

「わかりました。しかし北の方は小さな集落が多いと聞きます。対魔物結界が心配ですね。」

「調査ついでに見て回ろうかとも思っている。これもラヴィに教えるのに良い機会だしね。」

「そうですね。そのほうが良いかと思います。」

「うん。ならラヴィに伝えてくるね。あっそうだラヴィの学校の件だけど申請がこの前通ったから来週ぐらいを目処に編入させようと思っている。それでかまわないかい?」

「申請通ったのですね。良かった。はいそれで大丈夫です。」

「わかった。ならそのこともついでに話してくるよ。来週の週初めからって。」

「お願いします。」

 そう言ってナージャ様とは別れ、私は部屋に戻った。同行の件に関しては、彼女は物覚えがいいから結界の張り方や補修のこともすぐに覚えるだろう。これからの成長が楽しみだ。

 日は流れ調査の日がやってきた。私たちは、馬車を使い2時間ほどかけて北の洞窟が近いラシェトという村にやってきた。洞窟はこの村から30分ほど歩いたところにある。ついてすぐに宿をとり調査に必要な道具だけを持ち、洞窟へと向かった。道中、全くと言っていいほど魔物と出会わなかった。このことに違和感を持った私はナージャ様に疑問を投げかける。

「ナージャ様魔物の気配が全くありません。これはもしかして」

「ああ確かにこれはまずいことになっているかもしれないな。」

「どうしてまずいことなんですか?それだけ平和ってことにならないんですか?」

「確かにそう考えることもできるんだがな。もし、ここら一帯の魔物が集まり一個のグループになっているとしたら国家レベルの案件になってしまう案だよ。ラヴィ魔物たちのクラス分けは知っているかな?」

「確かAが1番危険度が高くてCが1番低いんですよね?どういう風に振り分けているのかはわからないですけど。」

「そうか。ならこの機会に教えておこう。Cは中等学部の生徒が3〜4人でグループを組めば簡単に倒すことができるくらいの力。Bはギルドのハンターや騎士団なんかの経験を積んだ者が3〜4人のグループで倒すことができるくらいの力。Aはギルドや騎士団のひと支部の人たちで倒すことができるくらいの力。という風に分けられている。もちろん大まかな分け方なので差はそれぞれ出てくるけどこんな感じだ。そしてもう一つ知っていてほしいことなんだけど魔物は基本同族以外とは群れない。なんでかわかるかい?」

「なんでだろう気が合わないからとか?」

「ははは。確かにその通りなんだけど少し違うかな。魔物に同族以外は仲間なんて意識がないからなんだ。魔物たちは食べた。物から魔力を蓄える。故に同族以外は食べ物にしか見えていない。ただし例外も存在する。その前に問題だ。魔物はどこに住んでいると思う?」

「それは人間界じゃないんですか?騎士団やギルドの人たちの装備は魔物の素材から作られていますし。」

「それが違うんだ本来魔物は魔界にいる。この人間界にいる魔物はその魔界で住む場所がない低ランクの魔物達だ。それにこいつらは本能しかなく知能なんかもまるでない。」

「そうだったんですか!!初めて知りました!ん?ならなんで問題なんですか?魔界でも居場所なくてこの人間界でも脅威なっていないなら複数の魔物が手を結んだところでなんの問題ないのでは?」

「そこで出てくるのが例外なんだよ。一般的には知られていないがSランクというのがある。これは魔界に住んでいる魔物につけられるランクだ。こいつの強さは最大で僕たちクランの王1人分と同じくらいなんだ。でも、そんな奴は滅多にいない。Sランクの厄介なところは配下を作れるだけの知能がある。これがどういうことかわかるかい?」

「さぁ全くわかりません。」

「つまり人間と同じように意思を持ち、行動できるようになる。同族以外と群れない魔物が手を組んでるという事はそのSランクの魔物がこの人間界にいるかもしれないんだ。」

「えっ…」

 ラヴィさんの動きが止まる。無理もない。彼女はナージャ様の本気を見たことがない。それでもナージャ様の強さが自分の思っている以上だという事は知っている。その強さと同じ魔物がいるかと考えたのだろう。ことの重大さがわかったようだ。

「ナージャ様いかがいたしますか?一度土星の王に連絡し、指示を待ちますか?」

「んー。Sランクの魔物が出現している可能性有りとだけ報告して調査自体はこのまま続行しよう。それにラヴィ安心しなさい。何があっても君たちだけは絶対に助けるから。僕に任せてくれ。」

「師匠は?どうするの?」

「え?」

「師匠死んじゃうかもしれないんでしょ!?そんなの嫌だ!いなくなったら嫌だよ師匠」

「ラヴィさん落ち着いてください。ナージャ様なら大丈夫ですからだってナージャ様は…」

 この先の言葉に詰まる。絶対に死なない保証などない。それにナージャ様は不老長寿。不死ではない。致命傷を受ければ死んでしまう。確かにナージャ様はお強い。それに王クラスのSランクなんてそうそうこない。その強さがあるなれば魔界で高い地位にいるはずだ。なんといえばいいか迷っているとナージャ様が

「不老不死だから大丈夫だよラヴィ。そういえばラヴィには言っていなかったね。僕は昔人魚の肉を口にしたことがあってね。死ぬことが出来ないんだ。だから大丈夫。君を残して死んだりしないよ。」

「し…師匠。うわーん」

 そうして勢いよくナージャ様に抱きつくと良かったと何度も言いながらひとしきり泣いた。私はお強いとあのとき言うつもりだった。安心させるためとはいえ嘘をつかせてしまった。寿命があまりないこともラヴィさんに話していない。この先も言わないつもりだろう。私は真実を知っているためこのときひどい顔をしていただろう。その証拠にナージャ様と目があった時、まるで気を使わせてしまったねといういうような顔をさせてしまった。強くならなければならないとこのとき思った。ナージャ様に安心して任せてもらえるように。

 再出発はラヴィさんが落ち着くまで待った。落ち着いてからナージャ様からこの後の流れの説明があった。

「調査するにあたって使う道具がある、それがこの道具『道化の道衣』と呼ばれる物だ。これは周りの景色と同化する能力があるからこれを着ておくこと。ただ息を止めてないと魔物たちは匂いでわかってしまうからちゃんと考えて使うこといいね?それで潜入しつつ魔物はこれでやり過ごしながら調査だ。イーリスは一旦剣に戻ってもらって僕が担ぐ。先頭で僕が進むからついてくるように。以上だ。何か質問はあるかい?」

「師匠ー今知ったのですが、イーリスって剣だったの!?」

「そういえばラヴィさんは知りませんでしたね。はい剣なんです。実は。私たち王のもとに仕えている精霊はみな剣の精霊。本来は剣の姿なんです。なので王たちを時に『7英剣』と呼んだりするのですよ。では戻りますねナージャ様。」

 そう言って私は剣の姿に戻る大きさはナージャ様の背丈ほどの大剣だ。

「イーリスかっこいい!」

「ありがとうございます。なんだか恥ずかしいですね。」

「その状態で喋れるんだ。」

「はい喋れるし周りの景色もバッチリ見えますよ。索敵なんかもバッチリです。」

「なんかシュールだな2人のやりとりは。さぁ洞窟はもうすぐだ気を引き締めていくよ!」

「「はい!」」

 洞窟まで時間にして10分くらい。ナージャ様に担がれて道を進んで行った。

 洞窟に着くと近くの茂みに隠れ入り口の様子を見る。最悪の状態のようだ。入り口に門番がいる。手には武器と見れるものを持っている。

「最悪だな。Sランクがここにいるらしい。もんばんなんて立ててご丁寧なこった。とりあえず他に入口がないかさがそう。」

 ラヴィさんは緊張のせいかコクリとうなずくだけだった。グルリと洞窟の周りを回ってみたが入り口は門番が立っているところだけのようだった。作戦というほどのものではないが『道化の道衣』の能力を使い正面突破することにした。突入まえに大きく息を吸い込み、息を止める。そうしてスタスタと洞窟に侵入する。岩影になっているところに隠れるとフードを取り呼吸を整エル。洞窟の中は松明で照らされており、見て回るのになんの支障はなかった。

「ここから先、魔物と出会ったら戦わず隠れたり道衣でやり過ごすこといいね?」

「はい了解です!。」

 そうして探索が始まった。洞窟内は台所、広間、などの部屋に分かれておりまるで城のような作りになっていた。魔物たちが増築したのだろう。進んでいくとどこからか人のような声がする。

「ナージャ様聞こえましたか?」

「ああ確かに聞こえた。人がいる。まさか人を拐って餌にでもしているのか?そうなってくるとますますまずいなぁ」

 駆け足気味に探していると牢屋のような場所を見つけた。ここにも番が立っており、岩影に隠れて様子を伺った。

「うるせーぞ!!大人しくしやがれ」

「助けてくださいお願いします!!この子だけでもおねがいします!!」

「ダメだねお前らはあのお方の儀式の贄に選ばれたのだ光栄に思うんだな。」

「へぇーそいつは内容を詳しく聞きたいものだね」

 ナージャ様の素早く繰り出した剣は、門番2人の首をはねる。

「大丈夫かい?助けに来たからもう大丈夫だよ。」

「あなたたちは?」

「金星のクランの王のナージャだ。弟子のラヴィに剣霊のイーリスだ。君たちはここらの集落の子かな?」

「ここがどこだかわからなくて、ウィップという村に住んでいました。この子はリーガで私の弟で私はキリアと言います。あとおねちゃんがいるんです!!助けてください!!」

「落ち着いてお姉さんはどこに連れていかれたわかるかい?」

「わかりません…昨日連れて行かれて…。」

「そうか。わかった。君たちを置いていく事は出来ないから僕たちと一緒に行こうか。イーリス。2人のことを頼めるかな?」

「はい。かしこまりました。キリアさん、リーガさん2人には私の加護魔法をかけておきます。2人とも私の近くから離れないでくださいね。」

「よしそれなら行こう。」

 前衛にラヴィさんとナージャ様、その後ろにキリアさんとリーガさん。後衛に私という形で並んで行動を開始した。2人にはナージャ様の道化の道衣に身を包んでもらった。しばらく探索していると一際大きな声が聞こえるところがあった。そこの様子を伺うと何やら儀式めいたことをしていた。真ん中の方には磔にされている人いた。

「おねいちゃん!!」

「しっ!!あれがお姉さんかい?」

「そうです。早くおねいちゃんを助けてください!」

「わかった。イーリスはここで2人を守っていてくれ。ラヴィは僕と2人で魔物を倒す。調査が今回の依頼だがやむをえん。ここで殲滅する。見たところSランクはいなさそうだ。だが、油断するな。いいね?ラヴィ」

「はい!」

  合図とともに2人が飛び出す。何体か倒れた時に魔物たちは気付き戦闘態勢となる。しかし、気づくのが遅すぎたため、何も出来ずにバッタバッタと倒されていく。真ん中の磔台にナージャ様がたどり着き、磔にされている女の子の救質に成功した。その子をもらい受けると私はすぐさま容体を確認した。気を失っているようだが怪我なんかはしていないようだった。魔物に磔にされていた時間はそんなに長くはなかったようだ。この子にも加護魔法をかけてあげ、一応治癒魔法をかけておく。しかしさすがはナージャ様。低級な魔物は何も出来ずに斬り伏せられていく。そして、ラヴィさんもこんなに成長していたなんて、低級と言ってもSランクによって知能やレベルなんかも上がっており並みのギルドハンターでも手を焼くはずなのに。次々と増援してくるがお構いなしに倒していく。

「かかれ!!敵は2人だ!さっさと倒してしまえ!!」

「ぐぁ!!」

「ラヴィ!僕の後ろに来てくれ!一掃する!」

「はい!」

 ナージャ様は後ろに隠れたことを確認すると、一回剣を鞘に納め、腰を低く落とし、構える。

「『雷閃』」

 そう呟くと前方の魔物たちの動きが止まるり、当たりが光に包まれる。目を閉じ、目を開けた次の瞬間には魔物たちは目の前から消えていた。

「あー支給品の剣じゃ一回が限界か。壊れちゃった。」

 その台詞を残すように轟音が響き渡る。魔物は後数匹残っている。次は私の番だと言わんばかりにラヴィさんがまえに出る。

「『紫電雷光・8連舞』」

 目で追えない速度で飛び出すと、1匹、2匹と雷の閃光が弾ける。雷音がする頃には魔物はプスプスと音を立て、皆倒れていた。

「これで全部かな?」

 魔物、百体近くを立ったの2人で倒してしまった。

「ラヴィ今の技いつのまに覚えたんだ?すごくよかったぞ!」

「えへへこの前の手合わせの時をヒントに開発したんです。フェイントも混ぜやすかったので。」

 場の雰囲気が達成感に包まれ、和やかなムードの中次の指示を待った。

「よし!救助者も助け出したし、とりあえずこの場から逃げよう。多分巣そのものは壊滅させたと思うが肝心のSランクの魔物の姿が見えん。もしかしたら逃げたかもしれん。ひとまずこの子たちを近くの集落に連れて行き、連絡しようと思う。話はラシェトに着いた後にしよう。気を抜くなよ。」

「「はい」」

 そうして私たちはラシェトまで急いだ。道中魔物に襲われることもなく無事ついたのだった。

 時は遡り、Sランクの魔物の話。

「はぁはぁ。何なんだあの人間たちはこんなはずではなかった。何とか私とこの剣だけは持ってこれたが。」

 そういう力がこの剣にはある。この剣を見つけたのは魔界の王に仕えていて時だ。私は魔王城の武器この門番だった。ある時書物の整理をしている時この剣に関する書物を読んだ。かの有名な『魔界大戦』の引き金の剣。伝承程度のお伽話にしか思っていなかった。そいつは生き物の血肉を食い、悪意ある者の前に現れる。天災のような振る舞いに何もできずに散るだろうと書いてあった。本当にこんなものあるものかと馬鹿にしていたがそいつは急に現れた。私が書物整理している時に後ろでカランと音が立った。振り返ると剣が落ちており、よく見ると書物の剣そっくりなのだ。私は剣に選ばれたのだ。そこでこの剣について調べ始めた。こいつは恐怖や悪意と言った負の感情に反応して目覚めるとその時知った。私だけの悪意だけでは足りんと考えた私は人の感情に目をつけた。人間は私よりも弱い。恐怖不信などを煽るにはちょうど良いと考えた。なのに。

「くそっ!折角作り上げた魔物の軍勢も無駄になってしまったでは無いか。儀式のために人の子までさらってきたというのに。やはり人間界の魔物ではダメということか。まぁ良いこの剣さえあればどうとでもなる。溢れんばかりのこの魔力を私に取り込めば、私は魔界、いや人間界、天界までもをこの手に納めることが出来る。」

「うるさいやつだ。」

「だ、誰だ」

「オレだよオレ貴様の持っている剣だ。目覚めさせたのはお前か?何ともチンケな悪意だ。少し面白そうな悪意を見つけたと思ったが思い過ごしだったらしい。」

「まさかお目覚めになられたのですか?」

「ああ。うまい感情をたくさん食べられたしなぁ目覚めるのにちょうど良いくらいのな」

 そうか。あの人間に倒されていった雑魚どもの感情か。思わぬところで役に立ったな。

「しかし剣の姿のままでな何かと不便だな。」

「ならばすぐに貴方様の手足となるような肉体を用意いたしましょう。」

「いや必要ない。もう見つかった。」

「と申されますと?」

「貴様だ魔力も申し分ない俺が具現化できるだけの魔力でいいのだからな」

「や、やめr」

「この姿になるのはいつぶりかなぁ。300年ぶりぐらいかそういえばさっきのやつの記憶に久しぶりに見た奴がいたな。ナージャ次はどんなことをして遊ぼうか。くっくっくっ。」

 怪物。そう呼ぶのが好ましほどの巨体に銀色の髪をなびかせ、怪物は消えていった。高笑いを残しながら。

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