第08話 もう一つのボーナス
おほん。気を取り直して話を進めましょうか。
謎の空間で知り得た情報の中に、初日ボーナスなるものがありました。
一つは、ガチャガチャ十回回せると言うもの。
まあ、やる前もやってからもなにがボーナスなのかわかりませんでしたが、損をしなかっただけでもよしとしましょう。もう少し落ち着いたらなにか利用法でも思いつくでしょうしね。たぶん……。
で、一つは、好きなフィールド、もしくは階、部屋でも可と言うものでした。
これを知ったとき、これと言った感慨はなく、しょぼいボーナスだと思うくらい。階層が深く、もしくは高く、高度なものになるとポイント消費量は多くなりますが、一年間の準備期間でどう頑張っても十階が精々。中級の迷宮獣を三十体も用意できればよく頑張った方です。たかだか一フィールド、一階層もらっても一年後にはさほど差は生まれません。三度、シミュレーションしましたが結果は同じでしたしね。
でも、謎のイギリス紳士や悪辣非道としか言えない情報隠し。他の方へのアドバイスをしてて、ふと思いました。本当に違いはないのか? と……。
ガチャガチャの事は早々に考えるのを放棄しましたが、よくよく考えたらこれは引っかけではないかと思い至りました。
好きなフィールド、もしくは階。部屋でも可。
何度も何度も読み返し、ようやく理解しました。引っかけがなんなのかを見つけました。いや、思い至らないわたしがバカなだけ。ちゃんと『好きな』と書いてあるのに見落とすんですから。
本当に自分はバカです。いや、これを考えた方が悪辣なだけですね。言葉の裏、引っかけ、質問にしか回答しない。気づかなければ、知らなければ、流される。そうやって視野を奪われていくんですから……。
広い視野で見れば、好きなフィールド、もしくは階。部屋でも可は、最高級のボーナスです。
迷宮獣を生み出せるフィールド。侵入者を確実に葬られる階。無限に収納できる部屋。夢は広がり、想像は尽きない。まあ、それすらも罠と言うこともありますが、目的の一つと割り切れば十二分にボーナスでしょうよ。
「さくら子さん。外の様子を見せてください」
「外、ですか? 開放されるまで外には出れませんが?」
情報は共有されようですが、思考までは共有してないようですね。
「いえ。外に出たいわけではありません。外を見たいので見せてくださいと申しているんですよ」
開放されるのは一年後。それは確かで、それまでは外には出れません。ですが、隠し技と言うのか、裏技と言うのか、見ることは可能なんですよ。ほんと、聞かないと教えてくれない説明書とか、説明書としての体をなしているんでしょうかね?
「……マスターは、なぜそんなことを知っているのですか? それは情報封印されたもののはずですが?」
それはなに気ないさくら子さんの疑問。ですが、悪辣非道を知っている者にしたら重要情報です。封印はされているがさくら子さんの中にあると言うこと。封印を解くことができるとことを示唆しています。
まあ、ダンジョンマスターとしてのレベルが上がれば情報は開示されるでしょうが、他のダンジョンマスターを倒した際にわたしの知らない情報を得ることが出来るはず。ってまあ、それは先のことなので今は横に置いておきましょうか。
「それを答える前に、さくら子さんは封印されている情報を解くことができますか? さくら子さんの権限で」
返って来たのは沈黙。想定通りですね。
「たぶん、さくら子さんを通している見ているだろう黒幕さん。人間を、いや、もう人間じゃなくなりましたっけね……」
肉は人間の形はしていても、わたしはもうダンジョンマスターと言う生き物。いや、生き物と定義していいのかもわからない存在です。ですが、心は人です。ちっぽけな存在です。ですが、可能性を秘めた生き物です。
「あなたの法に従えと言うのなら従いましょう。あなたの法で戦ってと言うのなら戦ってあげますよ。拒否権はないのですから。ですが、わたしはわたしの意志で生き残ります。ちっぽけな存在にもプライドはあるんですよ。覚えておけ、悪辣非道のクソ野郎が!」
元の世界に未練はありません。それどころか大好きなお酒を飲める環境にしてくれてありがとうと言いたいくらいです。
ですが、他は最悪です。ダンジョンマスターになれ? 礎になれ? 殺し合え? ふざけんな! わたしは、自分の意思で生きて来たわたしの矜持を踏みにじってんじゃねーよ!
って、熱くなってしまいましたが、わたしはここに宣誓しましょう。
「テメーのルールで、テメーが用意した戦場で、テメーの企みをおれが踏みにじってやるよ!」
と、地が出てしまいました。失敬失敬。今のは忘れてください。
「おほん。さくら子さんや。外を見せておくれ」
思わず年寄り口調になってしまいましたが、場を変えるためのわたしなりの気遣い。わかってくれるかな~?
「わかりました」
ウン。わかってくれなかったようです。しょぼん……。
「これが外の様子です」
と、四十インチのテレビに外の様子を映し出した。うん。突っ込んだりはしないヨ。
テレビを観る前に冷蔵庫から缶ビールを二缶持ってソファーへと腰を下ろし、まずは一杯。ぷっはー! うめ~!
「マスター」
缶ビールより冷えたさくら子さんの声に姿勢を正してテレビを拝見します。
「砂漠ですね」
言葉にしなくても砂漠なのはわかっていますが、そうとしか言えない風景なんですよ。
「辺りを見回せますか?」
はいとテレビの中の景色が右に流れた。えーと。カメラで映してるんですか?
思わず問い質そうとしたら、映し出されたものに意識を奪われてしまいました。
「……グランドワーム。ソレイラ……」
この砂漠に住むモンスター、ソレイラ。全長一キロ。太さは直径五十メートルの化け物ミミズ。やはり実物は迫力がありますね。
主な食べ物はグランドワーム。つまり、共食いで生きている謎の生命体。その中でもテレビの中のソレイラは、最大級のもので、ここら辺を縄張りにしているものです。
「こんなのがいたら誰も来ませんよね」
基本、共食いなだけで、他に食べ物があればそれを食べたりもします。資料によれば休憩で下りたドラゴンさえ食べちゃったようですよ。怖いです。
「まあ、だからこそここを選んだんですけどね」
そして、好きなフィールド、もしくは階。部屋でも可があったからこそ、でもあります。
「さくら子さん。初日ボーナスの好きなフィールド、もしくは階。部屋でも可。の中でわたしが選ぶのはフィールド。半径五百メートル。深さ百メートルの岩石地帯を選びます」
まずは、ソレイラが襲って来ない環境を造ります。
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