第07話 情報共有
とりあえず、休憩です。
「また休憩ですか?」
はい。また休憩です。疲れたんです。休みたいんです。お酒が飲みたいんです。ってことで、なにを飲みましょうかね~? 疲れてますから甘いのと行きますか。ん~~おっ。アップルワインですか。久しく飲んでないですし、これにしますか。
しかし、ポイントなしでグレードのいいセーフティールームを選んだのですが、不思議とお酒が充実してますよね。わたしに合わせてくれたんでしょうか?
「産地が不明なのが若干安ですけど、高級と言うだけで許されるのがお酒。無問題です」
でも、謎の空間でお酒を選んだの失敗だったのでは? とか思いませんよ。お酒はいくらあっても困りませんからね。あると言うだけここはパラダイスなのです!
「さくら子さんも如何ですか?」
コップを無理矢理渡してアップルワインを注いだ。
「わたしを酔わしてどうするつもりです?」
膝に乗せてモフモフしたいと思います! と言ったらさせてくれるでしょうか? まあ、蔑む目に堪えられないので言わないですけどね。
「まあ、いいです。いただきます」
「よっ! いい飲みっぷり!」
ささ、もう一杯。と空のコップに注いだ。
コクコクとアップルワインを飲むさくら子さんが可愛いです。
にしても、よくその口で飲めますね? 喉につっかえたりしないんでしょうか? 不思議です。
まあ、生命は神秘。お酒は最高。わたしもいただきましょう。
「ピヨピヨ!」
膝の上の……って、そう言えばこの子の名前をつけてなかったですね。なににしましょうか?
「……うん! 風子。風子さんにしましょう」
「ピヨー! ピヨー!」
おっ。気に入ってくれたようで大はしゃぎです。名付けた方も嬉しいですよ。
「風子さん。仲良くしていきましょうね~」
「ピヨピヨピヨ~!」
うんうん。そんなに喜んでもらえると思わず涙が出て来ます。長いこと独り身だと癒しに弱くなっちゃうんですよね……。
風子さんのモフモフした胸を堪能してると、さくら子さんが隣にやって来ました。どうしました?
「なんでもありません。お気になさらず」
あ、いや、気になる距離なんですが?
はっ! もしやさくら子さんもモフモフされたいのですか? ふふ。ツンデレさんですね、さくら子さんは。ほ~ら、頭撫で撫でですよ~。
ゴロゴロと喉を鳴らすさくら子さん。完全に猫になってますよ?
なんて幸せに浸かっている場合でもないんでした。まずはボーナスを消化しませんと。
「さくら子さん。そろそろ次のボーナスにいきましょうか」
「ふにゃん!? ――おほん。そうですね」
取り繕うさくら子さんもまた可愛いや。また今度酔わせてモフモフしましょう。
「では、迷宮獣を召喚しますか?」
「いえ。もう一つのボーナスをいただきたいと思います」
「もう一つのボーナス、ですか?」
不思議そうに首を傾げるさくら子さん。やはり、タブレットの劣化版でしたね、α世界での説明書は……。
いや、劣化版と言うよりは情報を意図的に排除された簡易版ってところでしょうか。謎の空間で説明書を読まなかった者への救済措置……いや、そんな訳ありませんね。あの悪辣非道では。
「脱落者にかける情はなし。速やかに消え去れ、ってところですね」
ダンジョンマスターがなんたるかを知った者なら、まさに知恵と勇気で乗り越えられるでしょうが、説明書も読まず、読んでも悪意しかない説明。ただでさえ不利な状況でα世界に来て、情報が欠落した説明書でどうやって生き残れと言うんです。激運の持ち主でもない限り、解放されたとたん、ジ・エンドですよ。
「サポートキャラ、もしくはサポートシステムには、マスターとの情報共有ができましたよね?」
「え、はい。情報共有機能はありますが、それが?」
それがあるためにあのタブレットを持ってくることができなかったのです。が、情報だけなら持ち込めるとか、普通は考えませんよ。気づきもしません。
わたしもあの悪辣非道にさらされてなければ裏読みしなかったでしょう。もうここは、自分以外信じるな、の世界ですよ。
まあ、だからと言って裏読み過ぎるのも問題。引っ掛けもたくさんありますからね、あの説明書は……。
「では、わたしの情報を共有してください」
さくら子さんの手(プニプニ感が最高!)をつかんで、思い出すスキルを発動させた。
「――――」
さくら子さんの細い目が大きく見開かれた。
謎の空間で仕入れた情報量は凄まじいものでしょう。スキルだけでも万はあり、今後必要となるだろうスキルも創造しましたからね。
他にもこのα世界を隅から隅まで見て、そこに生息する人、獣、モンスター、植物、鉱石と、見られる限りは見ました。お陰で思い出すスキルが予想以上にポイントを取られましたっけ。
でも、後悔はしません。この世界の情報があるかないかでは更に苛酷な状況に追い込まれてしまいます。あのタブレット、他のダンジョンマスターがいる位置まで載ってるんですよ、居場所を知られてダンジョン製作なんてする勇気はわたしにはありませんよ。先に来ているダンジョンマスターのいい餌じゃないですか!
まあ、それはあくまでも一年後。ダンジョンが解放されてからのことだから、今から準備すれば対抗策も考えられますし、罠にかけることも可能です。怖いですが、パニックを起こすほどではありません。今はやるべきことをやれ、です。
「……わたしにある情報とマスターが持つ情報に誤差や改竄、保護されたものがあります……」
でしょうね。サポートキャラやサポートシステムには、タブレットほどではありませんが、敵に対抗できるだけの情報は持っています。ただ、その情報を得るにはそれ相応のレベルに達しなければ開示されないし、修正もされないのです。
これを悪辣非道と言わずなにを悪辣非道と言うのです? 誰も気づきませんよ。わたしが説明書は必ず隅々まで読むタイプじゃなかったら絶対に見過ごしてましたよ。
「そうですか。では、どうします?」
なんて聞かずともわかってます。整合性を求める場合、より真実に近い方に合わせるもの。ましてやサポートキャラやサポートシステムにウソは言えない。精々できることは沈黙。もしくは情報規制。でなければサポートの存在意義が消えてしまいますからね。
「マスターの情報に統合します。それにより情報開示の規制がレベル39まで開放されました」
う? あれだけ見たのにレベル39ですか? どんだけ情報が眠っているんですか!? 考えるだけで胃が痛くなって来ましたよ! 心が折れそうですよ、もーっ!!
まったく、どんだけ悪辣なんですか、これを始めた馬鹿野郎はっ!
「……まあ、それも今さらでしたね……」
これは絶対強制。わたしに拒否権はない。ならは、抗ってやるまでです!
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