第06話 ガチャガチャ
──って、いやいやいや、落ち着きなさいわたし。ガチャガチャなんてそんなもんでしょう。子どものお遊び。熱くなる……もんですね。思い起こせばわたしも小さい頃、おおまりして親に叱られたもんです。
「……にしても一日三グラムの塩って微妙ですよね」
人は一日三グラムの塩が必要とかなんとか聞いたことはありますが、だからって三グラムしか出せないってどうなんです? それ、どこに需要があるんです?
「しかも一ダースとか意味わかりません」
だったらいっきに三十六グラムもらった方が嬉しいですよ。いやまあ、備え付けの塩が一キロあるから嬉しくはありませんか。足りなくなったら手のひらの創造で作ればいいんですしね……。
ま、まあ、考え様によってはサバイバルグッズだと思えばそれほど悪い品ではないでしょう。そう強く思いましょう。うん。
気を取り直して、二回目を回しますか。
ガチャガチャポンっと。
「……剣ですか?」
「はい。剣ですよ」
カプセルを開けたら一メートル二十センチほどの剣が現れる謎は横に置いとくとして、鞘に入った剣を抜いてみる。
「えーと、剣なんですが?」
「はい。剣ですね。それがなにか?」
さも当然に返すさくら子さん。クールです。
「……いえ、なんでもありません」
鞘に戻し、テーブルの上置いた。
十秒ほど瞑想し、『剣を振り回してるばいい運動になるでしょう』と、自分を納得させました。
武器に銃を選んだとは言え、この世界は剣と魔法のファンタジー。剣あることに越したことはないでしょう。いや、知りませんけどね。
二度回しただけで疲れ果ててしまいましたが、不思議と楽しくなって来ました。さあ、次はなんですかねっ!
ヤケクソ気味にハンドルを回す。
「……コップ……?」
なんの変哲もない二百ミリリットル入るかどうかのガラスのコップ……ですよね?
「一日五百リットル涌き出るコップです」
「その心は?」
「そのままの意味ですが? あ、ですが、傾けたり倒したりすると垂れ流しになるのでご注意ください」
謎が謎を呼ぶ摩訶不思議なコップ。これをどう納得すればよいのでしょう。
「……まあ、それは追々考えましょう」
時間はあるとは言え、それに費やす気力がありません。
倒れたら大変なのでお風呂に置いておきましょう。万が一倒れても排水されるでしょうからね。
脱力感が激しいのでちょっと休憩しますか。まだ十分も過ぎてませんがね。
冷蔵庫を漁ると、スパークリングワインを発見。ラベルは謎の言語でしたがわたしにはわかります。これは高級なものだと。
謎の空間でスパークリングワインは選びましたが、冷えてない状態だったので冷蔵庫にあるものをいただきましょう。
「トレビア~ン」
なんて言っちゃったりして~。やはり高級なものは美味しいですね。
「マスター。そろそろ続きを」
あ、いかんいかん。ガチャガチャのことすっかり忘れてました。
安いスパークリングワインしか口にしなかったからか、半分も飲んでしまいましたよ。
さくら子さんを見れば、なにやら蔑むような気配を感じるのは気のせいでしょうか? あ、さくら子さんも一杯どうですか?
「では、遠慮なくいただきます」
おや、飲める口ですか、さくら子さんは?
「生命体として具現化しましたので食べれますし、飲めますよ」
そ、そうですか。生命は神秘ですね……。
「ま、まあ、もう一杯」
飲み相手がいるのは嬉しいこと。相手が二足歩行の猫だとしてもね。
一本空けたのでガチャガチャを回しますか。
「で、出たのは……肥料、ですか?」
よくホームセンターの入り口前に置いてある肥料袋、のようなものが出て来ましたよ。
「砂漠の砂でもその肥料を混ぜたら雑草でさえ大樹に育つスーパー肥料X10です」
……あ、あーうん。それはスゴいね。機会があればなにか植えてみましょう。ちょうどここ、砂漠ですし。
ハイ、次です次。ガチャガチャポン。
「種?」
出て来たのは三日月型の小さな種のようなもの。肥料が出たから種、ですか?
「重力魔法の種ですね。スーパーレアを出すとはマスターは運がよろしいです」
さくら子さんはなにやら驚いているようですが、重力魔法ってなんです? スーパーでレアな魔法なんですか?
「えーと、どんな使い方があって、威力はいかほどで?」
「まだレベル1なので小石を浮かべたり重くしたりするぐらいですが、レベル100になれば小惑星を落とせます」
ウン。それ自殺と同じですよね。この世界、終わっちゃいますよね。例えレベル100になったとしてもわたしは使いませんとここに宣誓します。
とりあえず、飲んでおきますか。物が軽くできるのは便利ですし。
……と言うか、魔法ってどう使うんですかね? 空瓶よ浮け! とかでいいんで──って、浮いたっ!?
「……まさに魔法ですね……」
デタラメにもほどがありますが、変に使い難いよりはいいでしょう。ビバ魔法。
さあ、パッパと次にいきますかね、ガチャガチャポンっと。
「──って、また指輪ですか? しかもまた一ダースって……」
なんなんです、これ? 指輪シリーズでもあるんですか、このガチャガチャ!?
「ライト指輪ですね。二百三十ルクスで魔力を4込めると二日は持ちます」
アハハ。それは便利で高性能ですね~。ハイ、サバイバルグッズの分類で管理しておきましょう。では、次です。ガチャガチャポン。
「……二連続指輪ですか……」
もちろん、一ダースですよ。
「同じくライトの指輪ですね」
ダブりキター!
くっ。まさかここでダブりが来るとは。ガチャガチャ恐ろしや。ダブり憎らしや。ヌォーッ!
「マスター、落ち着いてください」
そ、そうです、落ち着きなさい、わたし。これがガチャガチャ。避けられぬ宿命。これを乗り越えてこそのガチャガチャ道です!
いや知らんがな。と言う突っ込みが是非とも欲しいです。突っ込みは人を冷静にしてくれます。誰かわたしに突っ込みをっ!
チラ、チラとさくら子さんを見ます。
「わたしに求めないでください」
バッサリと切られました。お陰で冷めました。そのクールに感謝です。
「さーて。次はなんですかね~? いいの出てこ~い」
ガチャガチャポンっと。
「……杖? ですか……」
なにか先端部に赤い水晶がついた一メートルくらいの金属製っぽいシンプルな杖です。
「またスーパーレアですか。本当にマスターは運がよろしいようで」
出来れば平均的に出て欲しいものです。今のところなに一つ喜べるものが出てないんですがね……。
「それで、どんな杖なんですか?」
「火炎竜の杖で、火炎を自在に操ることが出来るものです。ただ、魔力を充填しないと使えませんが」
まさに使えねー! ですね。
「ちなみに、どのくらいの魔力を充填すればよろしいので?」
「魔力が入っていればそれに合わしたことは出来ます。完全に充填させるとなると八万は必要ですね」
ハイ、倉庫いき決定! 次です次! ガチャガチャポン!
そして出たの……え、電卓? なんですか、これ?
「またまたスーパーレアですか。スゴいですね」
「これがスーパーレア、なんですか?」
どう見ても電卓(手のひらサイズ)なんですが。
「それは異次元工房の鍵です。その中でならあらゆるものを創り出せます。もちろん、材料さえあれば、ですが」
ええ、そんなことだろうと思いましたよ。ポイントとか魔力とか使って得るしかなんでしょ。って言うか、ある意味手のひらの創造とかぶってますよね。材料が必要なだけ使い勝手が悪いです。
はい、最後です最後。ガチャガチャポンっだゴラー!
「ピヨピヨ」
「…………」
さくら子さんを見る。
「飛行機雀の雛ですね」
「……して、その心とは?」
「飛行機雀の雛ですがなにか?」
「……いえ、なんでもありません……」
心が静まるまでしばらくお待ちください。
「……ハイ、理不尽どんとこいです!」
「なにを言ってるんですか、マスターは?」
だったらこの理不尽を説明できる方を連れて来てください。理不尽に抗ってる自分が余りにも可哀想です!
「なんでもありません。それで、なんでしたっけ、この雛は?」
「ピヨピヨ」
両手のひらにのる巨大灰色の雛さん。つぶらな瞳が意外と愛らしいです……。
「成鳥になればその背に乗れます。ただ、マスターを乗せるまでには五年は必要かと。ちなみにその飛行機雀は雌で雑食ですが、虫系を好みます」
予想通り、今すぐ使えるものではありませんてした~!
クソ! 全然ボーナスになってないじゃないですか! わたしが欲しいのは今すぐ役に立てるものなんですよ、こん畜生がっ!
「ピヨピヨ。ピヨピヨ」
崩れるわたしに飛行機雀が『大丈夫?』とばかりにスリスリして来ました。
「慰めてくれるんですか?」
「ピヨ~! ピヨピヨ」
慰めてあげるぅ~とばかりにスリスリする飛行機雀さん。前言撤回。貴女が一番のボーナスです!!
「貴女はわたしの癒し。希望です。一生わたしの側にいてくださいね!」
「ピヨピヨ~!」
うんうん。貴女もですか。ふふ。相思相愛ですね。
あと、さくら子さん。その蔑む目は止めてください。結構心に響きますので。
「では、ボーナスガチャはこれで終了です」
そんなクールなさくら子さんも可愛いです。
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