第05話 α世界に立つ。セーフティールームだけど

 で、α世界へとやって来ました。そのご感想は?


「特にありませんよ」


 乗り突っ込みなどやってはみましたが、だだ滑りですね。誰もいなくて助かりました。


「……ここが、セーフティールームですか……」


 一年間、ダンジョンマスターが住むことができる異空間ルーム。わたしとわたしが認めた者だけがここに入ることが許され、暮らすのに必要なものはだいたい揃っています。


「とは言え、それは選択次第。知らずに来たら最低のセーフティールームになる、か」


 それに何人気づいたことやら。アドバイスを求めた以外の方は知らないでしょうね……。


 わたしだってアドバイスしているときに気づいたくらい。気づく方がどうかしてますよ。


「ポイントなしで選べる最高級ランク、ですか。自分の──いえ、もう元でしたね……」


 築三十六年。日の当たらない北向の2K。狭いユニットバス。線路沿いの悪環境。お陰で家賃三万円と激安。アパートとしてはよくある物件。これと言って不満はありませんでした。


「……約二十畳。風呂とトイレが別。システムキッチン。業務用かと思う冷蔵庫と冷凍庫。何十万としそうなソファー。キングサイズのベッド。なんの為にあるかわからないウォーキングクローゼット。当然のように冷暖房付き。これまたなぜあるかわからない喫煙ルーム。わたし、吸いませんがな」


 他にも収納に優れ、物置までついている謎の拘り。不幸に見舞われたはずなのに優遇されているこの状況。複雑すぎて怒りも喜びも湧いてきませんよ……。


「やることはいろいろありますが、まずは一息入れしょう」


 備えつけの棚から高級そうなウィスキーを取り出し、ロックでいただく。


 それほど高給取りではなかったのでウィスキーは週に一回。水割りで飲むのが贅沢でした。


 それが高級なウィスキーをロックで飲めるこの幸せ。今は己の不幸は脇に置いて……は置けませんね。初日ボーナスを失うわけにはいきませんし。あ、でも、注いだ分は美味しくいただきます。


 ウィスキーを棚に戻し、サポートキャラかサポートシステムを構築できる初日ボーナスを実行しますか。


 わたしが選んだのは、サポートキャラの方。誰もいない場所で一年を過ごすなど拷問。話し相手は精神安定のために必要な存在です。


「癒しがないとやってられませんよ」


 謎の空間で決めていたので、サポートキャラ製作――まあ、イメージして出ろと念じるだけの簡単仕様になってます。


 ……スゴく雑と感じるのはわたしだけですかね……?


 なんの感動も感慨もなく、サポートキャラが現れた。


 わたしが選んだサポートキャラは猫。ですがタダの猫ではありません。身長四十センチのぶち猫で手の先と足の先が白の二足歩行するサポートキャラです。


 もちろん、服は着てますよ。女の子ですし。ちなみに今は大正ルック。わたし、ハイカラさんが好きなもんで。キモいとか言わないでください。人それぞれの趣味趣向なんですから。


「初めまして、マスター。貴方のサポートキャラを務めさせていただきます」


 ニャーはつかないんですね……。


 敢えて設定はせず、猫なんだからと希望的妄想にかけてたのですが、現実はこんなものなんですね……。


「マスター。どうかしましたか?」


 可愛く首を傾げるサポートキャラ。可愛いです……。


「あ、いえ。貴女がとっても可愛いので見惚れていただけですよ」


 わたし、猫派。猫、可愛い。猫、万歳!


「フフ。マスターは口がお上手ですね」


 なにやら精神年齢が高い対応をするサポートキャラさん。性格も決めなかったのですが、ランダム設定なのでしょうか……?


 ま、まあ、見た目が可愛いですし、賢そうなのでわたし的にはグッジョブです。


「さて。サポートキャラと言うのも味気ないので、貴女に名前をつけましょうかね」


「はい。よろしくお願いします」


 さて。どんな名前にしましょうかね。サポートキャラを見てからと思ってたので考えてないんですよね。


「和風か洋風か、さて、どっちらがよろしいでしょうか?」


 わたしの好みとしては洋風なんですが、ぶち猫は日本猫ですからね~。


「和風でお願いします」


 え? なんですって?


「和風でお願いします」


 まさかのサポートキャラからの要求。そう言うものなんですか……?


「じゃ、お菊。お菊さんでどうでしょうか?」


「却下で」


 あれ? まさかの拒否ですか? 自己主張強くないですか、わたしのサポートキャラさん……。


「で、では、さくら子。さくら子さんでは、如何でしょうか?」


 なぜわたしはへりくだっているんでしょうか? 不思議です。


「はい。では、さくら子さんとお呼びください」


 ん? あれ? その言葉に違和感を感じるのは気のせいでしょうか? なにか見下されたような感じなんですが……。


「どうかいたしましたか、マスター?」


「あ、いえ、なんでもありませんよ」


 多分、これは気にしたら負けのパターンです。気にしない。それが今を乗り越えるベストな選択です。


「では、マスター。ダンジョンの説明をしてもよろしいでしょうか?」


 説明? ああ、そうしたね。あのタブレットを見ないときの救済で、サポートキャラからの説明されるんでした。


「いや、それは大丈夫ですよ。説明書はしっかり読んできましたから」


 全てを、とは言いませんが、大抵のことは──あ、一つだけありました。不可解なシステムが。


「あ、さくら子さん。初日ボーナスのことなんですが、あれはなんですか?」


 セーフティールームに唯一そぐわないものが、棚の横に鎮座しているものを指した。


「ガチャガチャですが?」


 さも当然のように返されました。いや、明らかに不自然ですよね? セーフティールームには不必要ですよね? ある意味がわかりませんよ!


 あ、いや、説明は読みましたよ。スキルや道具が入っているもので、初日ボーナスで十回回すことができ、二日目からは魔力100を消費して回せることができると。


「ダンジョンを造るのになぜガチャガチャなのですか?」


 その意味が、まったく、これっぽっちもわかりませんでしたよ。


「なんでも流行っているようなので、今回から取り入れたそうです」


 なにかいろいろ突っ込みどころ満載ですが、もうこれ以上はわたしの精神がおかしくなりそうです。ここはラッキーと思って置くのが平和的解決ってものです。


「で、あれは、回すだけでよいのですか?」


 ボーナスなら使って置くのが賢い選択。もらえるものはもらって置きましょう。


「はい。初日は回すだけで大丈夫です。明日からは魔力を注いでください」


 だったらコイン入れ、いらないんじゃね? とか思いましたが、欲しい答えなど返ってこないんですから沈黙です。


 とりあえず、回してみますか。


 ガチャガチャポンっと、カプセルが出て来ましたが?


 さくら子さんを見ますがリアクションはなし。はい、そうですか。では開けます。


 で、開けて出て来たのはたくさんの指輪でした。なんですかコレ?


「一日三グラムの塩が出せる指輪一ダースですね」


「なんでやねんっ!」


 東京生まれ北海道育ち。就職してからは富山在住のわたしは本能のままに突っ込みました。


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