第16話 幕間 王女の貞操(前)
「おいエロス、早く脱げ」
「ちょっと、まだそんなこと言ってるの?」
「これは譲れない。何だったら、自重しようと思ってた強制を使うぞ」
わたくしを脱がそうとしていたことを、どうやらこの男は思い出したようだ。
しかも卑怯なことに、強制力をチラつかせて。
「脅して無理矢理言うことを聞かせるなんてズルいわ!」
「いやいや、お前だって散々俺を痛めつけて、無理やり言うことを聞かせてただろーに」
「違うわ! わたくしは王女で、捨てられたシェーンを拾ってやったのよ。だからわたくしの言うことを聞くのは当然じゃない」
放り出されてしまうところを、王女であるわたくしが救ってあげたのよ?
それに、恐怖心でもって言うことを聞かせるのは、ペットを飼う主人としての務め。
わたくしは何も間違えていないし、むしろ感謝してほしいわね。
「分かった分かった。そういうのはいいから、つべこべ言わずに脱げ」
嫌よ!
「自分の意思ではなく、強制的に脱がされたいのか?」
ぜ、絶対に、嫌。
……嫌だけれど、わたくしの意思を無視して強制的に動かされるのはもっと嫌。
「……わ、分かったわよ、脱ぐわよ。でも絶対に、厭らしいことはしないでよね?」
「しねーよ」
一応釘を差したけれど、この男は信用できない。
それでも仕方なく私は鎧を脱ぐことにした。
「ふにゅ……、ほにゅ……」
「…………」
「へにゃ……、はにゃ……」
「……何やってんの?」
身の回りのことは何でもしてもらっていたわたくしは、当然のことながら自分で鎧を脱ぐことができなかった。
「……脱げ……ない」
「はぁ~?」
「だから、脱ぎ方がわからないのよ!」
「マジか……」
バカ男……シェーンは呆れながらも、鎧を脱がそうとしてくれた。
しかし感謝などしない。
きっとこの男は、脱がすフリをしてわたくしの体を触ろうとするはず。
「変なところを触ったらぶち殺すわよ!」
だからわたくしは、触られる前に牽制しておいた。
「ふむ」
戦闘ドレス姿になったわたくしを、シェーンは不躾にも頭の先から爪先まで舐めるように見ている。
ペットだった頃の弱々しい視線と違い、今のギラついた目で見られるのは、物凄く居心地が悪いし、何より気持ち悪い。
「厭らしい目だわ……」
「手を下ろしてまっすぐ立て」
シェーンの言葉に強制力は感じなかったが、悔しさに耐えて従った。
そしてふと気づく。
これってもしかして、私が躾けられているの?
「まあなんだ、強く生きろ」
「何のことよ?」
嫌な可能性に気づき、得も言えぬ不安感に襲われていると、シェーンは訳の分からないことを言ってきた。生暖かい視線を添えて。
しかもその後、あろうことかこの男はわたくしの胸を凝視していたのだ。
「ちょ、ちょっと、どういうつもりよ! やっぱり何だかんだ言って、結局は私の豊満な肉体が目当てだったのね?! 汚らわしい!」
シェーンを信用したわけではないが、まっすぐ立てという言葉に従っていたために、胸を隠さなければならないことを忘れていた。
「いやいや、お前全然豊満な肉体じゃねーじゃん」
「どこからどう見ても豊満じゃない!」
わたくしは均整の取れた大人の色気を纏った誰もが憧れるような体型、言うなればそれは、世の男を魅了する豊満な肉体の持ち主だ。
小さくない小さくない、わたくしは小さくない……。
「いいからいいから。まあ確かに、あんな立派なモノを持つ妹と比べられると、姉としては恥ずかしくて隠したくなるよな。でも大丈夫、世の中にはいろんな嗜好の持ち主がいるから」
「ち、違うわよ! わたくしは動きやすいように、胸まで押しつぶすコルセットを付けているだけだから!」
確かに妹のレニャは、低身長で胸だけが大きい。
あの胡散臭い肉塊に比べたら、わたくしの胸は小さく見えるだろう。
しかし、戦わないレニャと違ってわたくしは戦闘のしやすさを重視している。
だからコルセットで動きやすさを確保しているだけ。
決して小さくないどころか、わたくしは平均以上の豊満な肉体の持ち主で、レニャが異常なだけなのだ。
わたくしは小さくないのよ!
「ほう。それはそれで、本当かどうか確かめないとだな」
その言い草はわたくしのコルセットを外す、つまり全裸にすると言っている。
この男は策を弄してわたくしを油断させ、じわじわ追い込むつもりだ。
「結局そうやって、ゆっくりわたくしを追い詰め、最後には襲ってくるのね? 獣のように……」
汚いなさすが異世界人きたない。
「おいエロス、取り敢えず今日のねぐらを確保するぞ」
「……ねぐら?」
唐突に話題が変更された。
「なんか暗くなってきただろ? だったら早めに寝る場所を確保した方が良い」
「寝る場所? 誰が?」
「俺とエロスが」
「…………」
わたくしとシェーンが一緒に寝る?
嫌、そんなの嫌よ!
犯されるのは嫌だけれど、閨を共にするのも絶対に嫌よ!
「鎧を着せてよ」
「面倒くさい」
「ふざけないでよ! わたくしの鎧をこのまま捨てておけって言うの?」
大事な鎧を放置することはできないし、単に身を守るための装備を固めたいだけ。
決して胸を鎧で隠したいわけではない。
「そうだ。あれは使えるかな?」
「あれ?」
何かを思い出したようにシェーンが鎧に手をかざすと、一瞬で鎧が消え去った。
「ちょっ、わたくしの鎧が消えたわ! 何をしたのよ?」
「収納にしまった」
「え、なんなの? シェーンは収納持ちだったの? そんなの聞いてないわよ」
使役師は調教師などと同類であるらしいが、実はどのようなスキルを持っているか明確になっていない。
もしかすると収納持ちの職業だったにも関わらず、隠していた可能性がある。
「気にすんな」
わたくしが戸惑っていると、シェーンは能天気にもそんなことを言う。
気にするなと言われて、はいそうですかと納得できる訳がない。
それにより、この男は
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