父の誘惑、羊の劣情


まえにし猿棚 様作


───男は、性癖による罪を償ってもなお、苦しみ続ける。


【主人公が抱える罪】


主人公はある罪により、服役していた男である。あえて男と言うには理由があるのだが。読者は、彼の挙動から、一体どんな罪を犯したのだろうか、と不思議に思いながら物語を読み進めることとなる。何かを諦め、何かに怯える彼。何処にも自分の居場所がないと感じるのは、自分自身の性癖のせいなのか。その罪と罰から解放されたはずなのに、心が休まる間もなく、試されていくこととなる。


【本格派、BL書いているのが勿体ないほど巧い】


確かにBLというジャンルでは、不人気になってしまうかも知れないが、途轍もなく文体、言い回しなどが巧い方である。表現、言い回し、言葉選び。全てが本格派の印象。大人向けの小説とは、なにも性描写が含まれるから大人向けではない。文学として通用する腕の持ち主である。正直、「なんで、プロじゃないの?」と思ってしまったほど。


【テーマの在り方が深い】


肉体的に性癖から解放されても、心までは解放されないことを知る。それが犯罪と繋がるとなれば、なお、苦しみ続けるしかない。自分の意志に背き、肉体は求め続け、また自分が罪を犯してしまうのでないかという、不安、恐怖と戦うさまが描かれている。それだけではない、肉体的に変化を遂げた自分が、周りから誹謗中傷されるのではないかという、精神的に自分自身を追い詰めるものへの恐怖感も浮き彫りとなっている。


【周りの人を通して感じるのは人の裏表】


人は強いものには従い、敬い、怒らせないように気遣うなと、心を尽くすものだ。しかしながら、自分より下と感じる相手に対しては、ぞんざいな対応をしがちである。この物語の中では、注目される人、されない人への周りの対応というものも描かれており、BLというジャンルの前にまず”ヒューマンドラマ”であるということを感じる。主人公は自分が犯罪者であることを自覚している。だからこそ、周りに対し過剰反応してしまうと、いうことにもリアリティがあり、それらはとても丁寧に描かれている。


【描かれていく、それぞれの人間像】


この物語では確かに、主人公の人生の一部が描かれている。純粋な愛と、肉欲に溺れた愛どちらにも心が揺れながら、そして自分が周りからどう見えるのか気にしながら。

その中で、若さゆえの性に奔放な少年たち、崇高で汚すことのできない神父、主人公が迷惑をかけたくないと願う尼たち。

神父を崇拝する人々。そして、そのもとで労働をする人々。


彼らは、物語の中で確かに生きている。時に感情的になることもある。人を傷つけることもある。

そんな人間らしさも丁寧に描いているからこそ、生を感じる。


彼が自分自身と戦ったその先に、幸せはあるのだろうか?

あなたも彼の人生に触れてみてはいかがでしょうか?

考えさせられることがあくさんあります。他人の痛みや苦しみを、傍で見ることもできます。

是非、お手に取られてみてくださいね。おススメです。

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