第三回:宴の企て・後編

俊基が女性にもてるのはたしかだ。目元の涼しい美男子であるうえに、帝の覚えが殊の外めでたいときている。


独身・既婚なにより男女のいかんを問わず、この頃の宮廷の自由恋愛はおおらかである。


考えようによっては、紫式部が平安の世に「源氏物語」で謳いあげた時よりも、おおっぴらに悪くいえば乱れきっていた。


たとえば父親である天皇が愛した女性を、後に即位した皇太子が側室に迎える。


そんな事がここ何代かにわたって公然と行われている。武家から見れば破廉恥極まりないありさまだ。


更に朝廷を混乱させるのは、帝位を譲って引退したはずの上皇が、息子である天皇の政(まつりごと)に口出しするといういわゆる院政が続いていることだ。


自由恋愛の末に生まれた複数の異母兄弟と、上皇になってもなお隠然たる影響力を振るう父親。


これらの積み重ねが結果として、天皇家やその後の日本の歴史に深い影を落とすのだがそれはおいおい述べるとして。


「ところで、旅の首尾はどうであったかな。関東まで足を伸ばしたとのことだが」


「相模守殿は相変わらずの物狂いの様子。

政を親類筋にあたる長崎一族に任せきりで、闘犬や女色、深酒にうつつを抜かしているありさまです。

有力御家人の一部では、なぜあのようなのが自分たちの主かと不満を持つ者もいるようです」


「いい気なものだ。やはり天下の政を鎌倉に任せるのは考えものじゃのう」


幕府の十四代目執権高時の治世となって以来、世が乱れてきたのはたしかだ。


地方で起こる飢饉や内乱に対し打つべき手をまったく打ってないためである。原因は高時に代わって実権を握っている長崎一族にある。


実務能力がないに等しい執権の代理を務めているものの、賄賂を御家人から受け取ることに血道を挙げているありさまだ。


あんな馬鹿者共に政を牛耳らせてよいのか。人一倍プライドや理想の高い後醍醐帝にとっては我慢のならないことだった。


ましてや帝の場合、自分の後の皇位継承権を巡っての複雑極まる事情も絡んでいる。


いずれにせよ、重なり合ったいくつかの要因が一つの結論に達したのはいうまでもない。


「帝に謀議を持ちかけられて三月(みつき)。六波羅の目を盗んで事を運ぶなど無理と思っていたが、どうにか光が見えてきたのう」


「それも資朝殿の働きがあってこそ。まさか連日連夜の宴が、密談の場となっていようとは六波羅も気づいておりますまい。

後は時機を見て決起するのみ。さすれば足利など北条に押さえつけられている有力御家人たちも我らにつきましょうほどに」


「そうだな、そうであってほしいものだな。さすれば……」


もう行かねばならぬ。うなずいて離れていく資朝は、小さく己に言い聞かせるようにつぶやいた。


「さすれば、我らの倒幕は間違いなく成功する……」


次回、「露見」に続く。


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