第2話 ロリ狐ンとうまい話には裏がある

 気絶する様に意識を失っていたようだ。

 普通なら誰かに助けられて暖かいベッドの上で目が覚める所だろうが、今は大雨の冷たさに叩き起こされた。

 上を向いて口を開けるが、まだ足りない。

 恵の雨に感謝しつつ最後の力を振り絞って立ち上がり、地面に生えていた大きな葉っぱを引き千切り、蔦で縫い合わせて簡易的な器を作って少しでも水を得ようと試みる。

 胸の前に掲げて、窪ませた葉に口をつける。先程よりは水が集まっている気がする。

 バケツをひっくり返したような雨なので、もしかしたら要らなかったかも知れないとか考えつつ、口の中に溜まった雨を嚥下する。

 しばらくそうしていると、水でお腹が一杯になった。

 プニプニボディがお腹タプタプボディになってしまったがしょうがない。

 満足──した所で別の問題が起こる。

 気温が下がり始め、腰蓑で着飾った雨でずぶ濡れの全裸の幼女状態だったが為に、程なくして体が震え始める。

 無理ゲー過ぎて泣けてくる。実際に涙を流しながら大きな葉っぱを集めてとりあえず屋根を作ったわけだが。

 雨は一向に止む気配はなく、徐々に気温が下がっていく気がした。

 雨雲に覆われて太陽は見えず、気温が下がっていく事を考えるともう夕方とかそんな時間帯なのかも知れない。

 ふと鼻を掠める美味しそうな匂いに気が付き、その方向へ体が自然と歩き始めた。

 狐娘になったお陰で鼻の能力がアップしているのか、僅かな匂いでも正確に方向がわかるようになったのかも知れない。


 一キロほど歩いた所で、大岩の影に隠れるように建つ掘っ立て小屋を見つけた。

 煙突からモクモクと煙を吐き出し、その煙に混じって美味しそうな匂いを吐き出していた。

 中に人の気配がするのでノックしようとドアに手を伸ばす。もし言葉が通じなかったらどうしようという不安が過ぎるが、口の中に溢れる涎を抑えることが出来なかった。

 ドアをノックすると、小屋の中から人の良さそうなオッサン2人が出てきて“何か”を話し掛けてきた。

 何か、というのは異世界転生モノではほとんどあり得ない、言葉が全く通じないというやつだ。

 少し目眩がしたが、必死にジェスチャーで雨で濡れて寒い、食べ物が欲しいの2点の意思伝達を試みる。

 オッサン2人は何かを言い合いながら考える素振りを見せたが、すぐに“中へどうぞ”とジェスチャーしてくれた。

 入るなり、オッサンの片方が柔らかい布を渡してきたので、濡れた体を拭けという事だろう。遠慮なく受け取り体を拭いた。

 小屋には入ってすぐに4人掛けのテーブルと椅子があり、煙突に繋がる暖炉とかまどがあり、奥の方には簡易ベッドが2つ並んでいた。

 家というには少しおかしな感じを受けたが、構わず暖炉に駆け寄り火に当たった。

 冷え切った体に染み渡るように温もりが広がっていき、恍惚の表情を浮かべた。

 体が充分に暖まった所で、ずっと気になっていたテーブルの上の食事に目をやる。

 特別豪華というわけではなかったが、2人分の美味しそうなシチューのようなものと堅そうなパンが置いてあった。

 またジェスチャーで食べさせてくれと懇願してみると、オッサン2人は気味悪くにやりと笑みをこぼしすと、“どうぞ”とジェスチャーで返してくれた。

 慌てるように席につき、暖かいシチューと見た目通りに堅いパンを貪る。かなり堅いパンだったので全力で引き千切ってシチューに浸したりなどした。

 オッサンは優しいらしく、シチューが無くなるとおかわりをよそってくれたりもした。

 お腹がぽっこりと膨らみ、もう食べられなくて苦しくなるまで、無我夢中で食べた。

 疲れ果てていたこの魅惑のプニプニボディは、お腹がいっぱいになるという至高の充足感に耐えられず、パンに齧りつきながらガクンと睡魔に負けた。


 次に目が覚めると、なんだか体がとてつもなく怠く、吐き気や発熱・発汗その他もろもろ風邪の諸症状に襲われていた。

 気がつくと、ベッドに寝かされていたので、オッサンたちは気のいいイケメンなのかも知れない。何故かピッタリサイズの肌着を着せられていたことは目を瞑ってやろう。

 雨の中全裸で森をさまよったのだから、風邪の一つや二つくらいひいてもおかしくはないだろう。

 オッサン1が気遣ってくれて、額に大きな手を当てて熱を測ってくれたり、柔らかい布をで汗を拭ったり、吐いたら背中をさすってくれたりした。

 オッサン2はテーブルで薬草のようなものをゴリゴリすり潰してくれている。

 惚れてまうやろ、オッサンズ!

 しばらくしてお粥のようなものを食べさせられ(オッサン1のふーふー付き)、オッサン2がゴリゴリしていた超苦い薬を飲まされたりした。

 薬を飲まされてまたしばらくして、瞼が重くなり、睡魔に負けて目を閉じた。


 でも、世界はそんなに甘くなかった。

 また次に目が覚めると、身動ぎする度にジャラジャラと金属音がした。片足に足枷を嵌められ、ベッドに鎖で繋がっていたのだ。

 貞操の危機かもと怯えたがそういう訳でもなく、2人の姿がなかった。

 手の届く範囲に椅子が1個あってその上に食事が置いてあった。何に使うのかわかる形をした瓶も置いてあったりした。することは酷いが、気が利いている。

 起き上がってベッドの縁に腰掛けて、食事に手を伸ばす。

 また堅いパンと今度は優しい塩味の野菜スープだったが、美味いことだけが救いだ。

 この後何をされるのか、どう扱われるのか。不安に震えながらの食事になった。

 足をよく見ると、足枷が当たる場所には布が巻かれていて、直接肌に触れないように考慮されていた。酷い扱いをしようとしている中に何か優しさのようなものを感じて首を傾げてしまう。

 食事を食べ終わると、ちょうどそのタイミングで小屋のドアが開いた。

 オッサンズが入ってくると、その後ろに強面の大男がいた。

 いかにも山賊や盗賊の頭領といった感じの厳つい顔をしていて、我を見るなりオッサンズに何か話しかけている。

 頭領が近づいてきて我の顎をグワしっと掴み、右に左に上に下にグリグリと動かす。顔立ちを確認しているように感じる。

 手を払い除けようと試みるが、まるでびくともしない。顎を掴まれて体ごと持ち上げられそうな腕の太さだった。

 頭領は我から手を離すと自身の懐をまさぐり、小さな布の袋を取り出した。

 その中からさらに金貨2枚を取り出し、2人に一枚ずつ放り投げた。

 何か話し合っているが、生憎我にはわからない。日本語でも英語でもフランス語でもロシア語でもない、不思議な言葉だった。

 何かに満足したようにオッサンズは頷くと、我の両手両足をベッドに押さえ付け、間髪入れずに頭領が鉄製の首輪を装着した。

 首輪にはゴツい鍵が付けられて、何かにぶつけた程度では簡単に取れなさそうだった。

 片足タイプだった足枷も両足タイプに変更され、手枷と目隠しのオプションが追加され、まな板の鯉状態になった所で──麻袋に袋詰めされて“出荷”された。


 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ロリ狐ン賢者はこの胸糞世界を生く 黄昏狐 @tasogaregitsune

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