第1話 ロリ狐ンと胸糞世界の始まり
意識を取り戻すと、我は森で仰向けになっていた。
ちょっと高いところから放り出されて頭を地面に打ったのか、後頭部が痛い。
自分の体を見渡す限り、大きな怪我はしていないが、それ以上に重大な問題に気が付いた。
蚊に刺された場所があるとかそんなのはどうでもいい。服を一切着ていなかったのだ。
画像で上げたら即垢BANされてしまいそうな状況だ。
人に会ったら不味そうなので、とりあえず近くの葉っぱと蔦を引き千切って、色んな意味で防御力皆無の腰蓑風スカートを拵える。胸元も忘れない。
どこかの原住民のような出立ちだが仕方がない。
誰か人に会ったら、変態ロリコンに捕まって服を剥かれた所で命からがら逃げ出してきたと言おうそうしよう。
先程までの記憶が確かなら、我は今、転生後の世界にいるはずだ。
この世界について何の知識も無く、言葉が通じるのかさえわからない。
転生する前についても記憶が曖昧なので、自分がどんな人物だったのかはわからない。
一つだけ言えるとしたら、狐娘を心の底から愛していることくらいなのだが、自分がその狐娘にされてしまった。狐娘はなるものではなく、愛でるものだというのに。
水溜まりがあったので覗き込むと、幼い狐娘がそこにいた──あっ、我ながら可愛い。
文字通り狐色の澄んだ金髪から、三角錐状のモフ耳がニュッと突き出ている。
とか、そんなことをやっている場合ではない。
ぐぉぉぉぉぉ! とお腹が鳴る。幼い見た目に似合わず、獣のようなエグい音だった。
自分の体を見る限り肥満とか痩せ過ぎとかそういう感じでもなく、お腹が少しプニプニしている幼児体型と言うやつだ。
周りを見回すと、自分では手の届かない少し高い所に一つだけ赤い木の実がなっていた。
空腹の体に鞭打って手を伸ばすが、あと少しの所で届かない。
木登りを試みるが、この体にはそんな筋力はなかった。
突ついて落とそうと周りを探しても見つかるのは細い枝ばかりで太い枝は一本も落ちていなくて、美味しそうな木の実を前にひもじさで涙を飲んだ。
枝を探しているうちに喉も渇いて、近場に水もないことに絶望した。
転生したんだから何か魔法が使えるようになっていたりしているのではないかと、手から何かを出すイメージをして、ウォーター!なんて叫んでみたがそんなに世間は甘くなかった。
赤い実がなる木の側に座って寄り掛かり、上を見上げる。
そよ風が吹いているくらいで、枝はそう大きく揺れてはいない。落ちてくる気配は全くなかった。
いきなり人生ハードモード過ぎるだろう。
幼な子にこの仕打ちなのかと呆れ果てた。
それから数時間は経ったのだろう。日が傾き始めた。
見つめ続けた赤い身は落ちる事もなく、頭上にある。
その赤い実以上にこの体は水を求めていた。喉がカラカラで声もあまり出ないかも知れない。
意を決して、自身の姿を確認した水溜まりの前にやってきた。
蒸発したのか、水溜まりは小さくなっていた。
肉体通りの精神力なのか、頬を一筋の涙が伝った。
小さな水溜まりの側にしゃがみ込み、両手で水を掬おうとして全然掬えず、ただ水が濁ってしまう。
絶望に耐えかねて濁った小さな水溜まりの側に四つん這いになり、畜生よろしく濁った水を舌で舐めるように飲もうとした。
口の中に広がる土の味。
それでも僅かに得た水を嚥下する。
僅かに口の中を湿らせる程度だった。
もう歩く気力も無くなり、転生1日目にして空腹と渇きに死を覚悟した。
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