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『理外者』の痕跡を抹消する為、『世界の意志』は自動的に修正を始める。
この瞬間こそ、“世界が完全に無防備になる”状態……即ち、世界の仕組みに介入することが出来る、唯一無二のチャンスなのだ。
「『死神』と『生神』……オマエたちはよく働いてくれた。これで、ようやく……ワレの望みを、果たすことが出来る。フフッ、フフフフフフッ」
『冥土の底棲』、ギルド屋敷。
そこには、全ての力を使い果たし、いつ目覚めるかも分からない眠りについた『死神』が、ベッドに横たわっていた。
その脇で佇み、一度深い笑みを浮かべた人物が、ゆっくりと彼の身体に手を伸ばすと……。
「────ようやく本性を現しましたわね、ハタ様」
突然、ベッドから突き出てきた手が、その腕を掴み取ると……敵意剥き出しの声を発しながら、布団の中からヨシコ=ライトセットが姿を現した。
彼女の姿を目の当たりにしたハタは、驚愕した様子で目を見張ると、直ぐに不敵な笑みを浮かべて対峙する。
「……おやぁ?何故、オマエがここに居る?『世界の修正』で、もう既に『アイツ』の記憶は残っていない筈なのに?」
「わたくしが、何故、あなた様と呑み比べをしたりして、『霊力の向上』に努めていたのか……全ては、この時の為ですわ。残念ながら、主様はとうの昔からあなた様の目論見に気付いていましたのよ。あなた様が────『生神』なる『理外者』を産み出し、意図的に『世界の修正』を引き起こすであろうということを!」
「……チッ。相っ変わらず流石だなぁ、けーし」
「そして、このわたくしに託してくれましたんですわ────あなた様という存在からこの世界を守る、最後の砦になるようにとっ!」
そう気合いを入れたような声を発すると共に、ヨシコはハタの両腕を掴んで軽く宙に飛び上がると……無防備なハタの小さな胸元を、両足で思い切り蹴りつけながら、両腕を引っ張る。
ザ・ワンの並外れた腕力により、ハタの両腕は、ブチブチッと肉が引き裂ける音を立てながら……胴体から引っこ抜けた。
「ァ、ガ……ッ……ケェ、シィィィッ……ヨシ、コォォォォ……ッ!!」
両肩から血を撒き散らしながら吼え立てるハタへ、ヨシコは容赦のない追い討ちをかける。
自身の尾に〔魔術〕をかけて分裂させると、それらをハタへ向けて飛ばし、その身体に突き立てた。
ハタが空気の漏れるような音を発したと同時に、身体の奥にまで突き刺さった尾を、勢いよく上下左右に広げ……。
────ハタの身体を、バラバラに引き裂いたのだった。
「…………ふぅっ。主様、お疲れ様でしたわ。これで、今度こそ、本当に終わり……」
どう考えても、即死だろう。
目の前で無惨な肉片に変わり果てたハタの死骸を一瞥したヨシコは、微かに呼吸を乱しながら、死神へと視線を送った……その時だ。
「……ッ!?」
突如、部屋の中に気配が走る。
一つだけではない……全部で、四つ……それも、どれもがヨシコに匹敵するほどの、とてつもなく強烈な気配だった。
「────」
四つの気配が同時に動き出すと同時に、ヨシコも慌てて応戦。当初は、武術や魔術を駆使して、辛うじて対処していたが……。
(ぐッ、ぅ……ッ!つ、強い…………ぁ……ッ!?)
突如、全身から魂が消え去ったかのように、ストンッと力が抜ける。
全く予想だにしていなかった異変に、思考も身体もついていかず、足が止まった……その瞬間。
背中に、鋭い痛みが走る。
完全に背後を取られ、背中から深々と刀らしきモノが突き立てられると……残りの三つの気配も、立て続けに手にした武器で……。
────ヨシコの身体を、串刺しにしていった。
「かっ、ふ……ッ!」
しかし、まだだ。
全身を串刺しにされながら、ヨシコは辛うじて致命傷だけは避けていた。ただ、それも時間の問題だろう……このままでは、やがては限界を迎えてしまう。
身動きが取れない状態で、何とか活路を開こうとしていたが……そんな淡い望みすら打ち消すように、彼女の目の前に『奴』が姿を現した。
「力あれば、そこに根源あり。産み落とされた力を拾い上げただけの存在に過ぎぬ筈が────大したものだ、まんまとやられたよ」
それは、ハタだった。
ほんの数秒前にバラバラにした筈なのに……傷一つ無い全裸の状態で、目の前に立っていたのだ。
ヨシコは顔に恐怖の色を浮かべ、脚をガクガクと震わせながら、今にも掠れ果てそうな声でハタへ問い掛ける。
「ごほッ……そん、なッ……どう、やって……ッ?」
「だけど、少しだけ……ほんの少しだけ、遅かった。あと、ほんのコンマ一秒だけ思考が回っていれば……このワレに、かすり傷を負わせることくらいは出来たかもなぁ?」
「……ッ……く、そ……ッ……ハ、タぁぁッ…………ァ、ガ、ハ……ッ!」
怒りを顔面に滲ませて、ハタを睨み付けるヨシコだったが、そんな彼女に最後のトドメを刺さんとばかりに。
ハタは、自身の貫手で────ヨシコの心の臓を貫き刺した。
「オマエはこれで、ワレが世界を奪うチャンスを阻害した。だが、それまでよ。ワレは再び世界に君臨し、同じことを繰り返すだけだ。オマエという最後の砦を失った今……最早、この世界にワレに相反する者は、誰一人として居ない────分かるか?負けたんだよ、オマエらは」
ハタが自身の腕をスルリと引き抜くと、ヨシコの身体を串刺しにしていた武器も抜き放たれ……彼女は、そのまま力なく、死神の眠るベッドに倒れ込んだ。
「は……ッ……ハ……ッ……!」
「フフッ。あぁ、そうだ。最後に一つだけ、冥土の土産にワレの名を教えておいてやる」
「……ァ……ぅ……ッ?」
「ワレは、“源話の一端”。『深冥の主』と呼ばれる者────『■■■■■■』だ。よーく、その頭に刻み込んでおくんだな、強き人間よ」
今、名前だけが、まるで聴覚から掻き消されたように聞き取ることが出来なかった……だが、今にも意識を失いそうなヨシコは、それどころではなく……。
「……ッ……ある、じ……さま…………ごめ、ん……な、さ……い…………ッ……」
掠れていく視界の中に、穏やかな寝息を死神を映しながら……無念と後悔と、己の無力さを悔いるように……死神の傍で静かに死に絶えるのだった。
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