第39話 努力の結末へ
「シオドーラ=マキオン。意気揚々と乱入してきたところに悪いが……貴様はもうただの部外者。この戦いに参加する資格は、既に無い筈だ」
冷たい目付きで正論を口にするグウェナエルに、シオは不敵な笑みを浮かべて、友達感覚な馴れ馴れしい言葉を返した。
「グウェムぅ~……あん時は、よくも私の身体を勝手に使ってくれたねぇ……?あれ、マリアの憑依術を使ったんでしょ?」
「さぁ、何のことやら?」
「いいよぉ、別に惚けてくれても。ただねぇ……普段は温厚なこのあたしでも、今回ばかりは結構頭に来ているんだ。こともあろうことか、あたしの親友にさぁ……要らないだの、消えろだの────ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ?」
「……!」
「シオ……っ」
今、一瞬だけ空気がピリついたような……そう直感する程の覇気を放ったシオだったが、直ぐに笑みを取り戻すと、スキップ混じりの足取りで私の傍をクルクルと周り始める。
「確かに、皇選から離脱したあたしは部外者だったのかも。だけどね、例えばこのあたしが────リューリの『所有物』になったとしたら、どうなるかな?」
「所有物……?…………まさか……っ!」
グウェナエルが何かを直感した様子で顔を強張らせ、シオが陽気な笑い声を漏らして私の前に立つと……その姿は、光を帯びながら景色に溶けるように透過していく。
彼女の人間の形が完全に消え去った時、代わりにその場に現れたのは────一本の刀だった。
「『刀人』だと……!?馬鹿なっ……いや、あの『爆弾人間』の例もある……有り得ないことではないのか、この天才児め……!」
「シ、シオ……?『これ』……シオ、なの……?」
『今のあたしは、“刀剣”の役職を持った“刀人”だよっ!さぁ、リューリっ!』
「……うんっ」
自らを差し出すように近付いてくる刀の姿をシオを前に、私は不思議なほどにスンナリとその現実を受け入れ、その柄を優しく握ろうとした、が……。
『はぅっ!?あっ、ちょっと待ってっ、何かくすぐったいからもう少し優しく握ってくれない……!?』
「えっ!?ちょっ、わっ、わわわっ!?シオっ、ちょっとっ、あまり暴れないでっ!?」
『ううふふぅぅぅ~っ!なんかムズムズするんだけどぉぉぉ~っ!』
なにやら私に柄を握られたまま、前後左右へと目茶苦茶に暴れ始めた。
改めて、この刀がシオであることは認識出来たが……こんなに暴れられては、そもそも戦うことすら出来ないではないか。
「……通常、『刀人』を扱うのは、至難の技だと言われている。それを一度握っただけで扱える訳がなかろう。ただ、私も遊びに付き合っている暇はないのでな……二人まとめて木っ端微塵にしてくれるわ」
シオの動きを制御しようと努めるものの、そうしている間に、グウェナエルがトドメを刺そうと岩石剣を振り上げて走り迫ってきた。
「ぃ……ッ!?」
『リューーリーーっ!“あれ”だよっ!“あれ”を使ってぇっ!』
『あれ』……?
唐突の提案に、一瞬だけ戸惑ってしまったが……直ぐに自分の『力』のことを思い出して、シオを握り締める両手に意識を集中させる。
『亡霊化』。自身の両手を亡霊状態に変えた瞬間……あの時、この力を見出だした時と同じ、カチッと私の中で何かが噛み合う感覚が走り……私は、渾身の力を込めて、刀と化したシオを、迫り来る岩石剣へと振り上げた。
刀と剣が衝突した瞬間。
まるで爆弾が破裂したかのような衝撃と共に、こびりついた岩石を撒き散らしながら、岩石剣が大きく弾け飛んだのだ。
「なにッ!?」
「……ふ、振れる……この感覚、すごい……っ!」
『ピュ~、今の気持ちい~!』
切れ味と破壊力が、通常の比ではない。
剣士は自らの持つ武器と心を通じ合わせることが出来るというが……この感覚が、まさにそれだ。
私の『無限』と、シオの『才』、二つがしっかりと手を取り合って、互いに互いの能力を引き出し合い……そして、通常は考えられない『力』が、まるで奔流のように私たちの中から沸き上がってくる。
「……シオっ!」
『よっしゃ~っ!いくぜいくぜ~っ!』
これなら……いける!
私は刀を後ろに引きながら、グウェナエルへと突進。彼も慌てた様子で岩石剣を振り回すが、私たちが刀を振り返す度に、それは弾き飛ばされ、岩石が辺りへと散らばっていく。
「馬鹿なッ!?こんなッ、こんなその場しのぎの芸当でッ、この私が……ッ!?」
『その場しのぎ?分かってないなぁ、グウェムぅ?』
「……ここまで積み上げてきたモノが、今、あなたの前に立ち塞がっているんです。それは、私という等身大を見ているだけでは……きっと、気付くことは出来ません」
シオという絶大な協力者を得た影響からか、『ボウレイカ』の力は両手両足だけに留まらず、全身へ浸透していき……。
私の髪色は────まるで、水面に写っているような、透き通った煌めく紫色に変化。
枷を解いた私の身体は、大きく振るわれたグウェナエルの岩石剣を、“宙に浮遊して回避”。そこから、宙を蹴って四方八方へと飛び回り、縦横無尽の連撃を彼へとお見舞いしていった。
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