第40話 決着



 宙で舞い踊るように飛び回り、予測もつかない攻撃を繰り出す様は……まさに、『亡霊』そのもの。


 なんとも不可思議で忙しない動きだ。しかし、まるで乱舞のような華やかで美しさすら感じる洗練された攻撃と、リューリの研ぎ澄まされた真剣な顔つきも相まって……片時も、目を離すことが出来ない。


 気付けば、誰もが無意識の内に、彼女の動きを目で追っていた。


「…………リューリ、と……シオ……」


 そう呟いたのは、特別観覧席で試合を観戦する皇王。


 彼女の呟きと共に、グウェナエルが上空のリューリに狙いをすませて、大きく岩石剣を振るう。その鋭い軌道は、間違いなくリューリの身体を切断した……と、思ったが。


 彼女の姿は、煙のように空間に溶けて消失。


 観客も、グウェナエルでさえも、誰もが彼女の行方を見失い、慌てて辺りを見渡していたが……ただ一人、皇王だけはその純粋無垢な瞳で、ある一点だけを見つめていた。


 天高く、眩い日の光に紛れて……一つの人影が、グウェナエルに向かって急降下してくる様を。


『今だっ!!リューリッッ────いッけぇぇぇぇぇぇぇぇええええぇぇッ!!』



穿某せんぼう流・天地の型 『むすび』〕



「────ッッッはァァァァァァァッ!!」


 その接近に気付いた時には、もう遅い。グウェナエルを狙って振り下ろされた刀は、鮮やかな弧を描き……。



 ────彼の身体を、ものの見事に斬り裂いた。



 グウェナエルが地面に叩き付けられて砂埃が舞い上がると、リューリがそれを掻き消すように勢い良く着地して、ゆっくりと身体を起こす。


「……すぅ…………ふぅーーっ……」


 まるで歴戦の勇士を思わせる静かな佇まいに、頬から滴り落ちる汗が煌めき……その姿を一層美しく彩っていた。


 そんなリューリの傍らに現れたのは、シオの姿。彼女は、フラついて倒れそうになるリューリの身体を支えると、ニッコリと笑って、リューリへと拳を差し出す。リューリは息遣いを荒くしていたが、小さく笑みを返して、その小さな拳に自身の華奢な拳をぶつかり合わせるのだった。


「…………すご、い…………カッコいい……っ」


 皇王が漏らしたその言葉は、決着の合図。


 第三次実戦演習の結果は、誰もが予想だにしていなかったであろう、大番狂わせも大番狂わせ……。



 ────リューリの勝利で、幕を下ろしたのだった。


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