第26話 戦う覚悟を



 屋敷の裏口から別の裏路地へと入り、彼岸花を辿って街道に出る。その頃には既に疲労でヘトヘトで、膝に手を着いて肩で呼吸をしていた。


「はぁっ、はぁっ……」

「ふーっ……ここまで離れれば、一先ずは大丈夫な筈ッス」


 彼らを誘き寄せたのは、私のせいだ。


 だから、私が表に出て説得しようとしたが、それは死神に止められる。皇選の候補者が、死神と一緒に居るところを見られてはいけない……そう判断した彼らが、エルトンに護衛を頼み、私たち二人を裏口から逃がしてくれたのだ。


「死神さん……ヨシコさん……ハタさん……皆さんは、大丈夫なんでしょうか……」

「死神の図太さは随一ッス!だから心配は要らねッスよ!それより今はほとぼりが冷めるまで、何処かで身を隠して……ぐがッ!?」

「エルトンさん……!?」


 背後で何か鈍い音と共にエルトンの呻き声が聞こえ、慌てて振り返る。


 そこには既にエルトンは倒れ伏せ、代わりに十数人の取り巻きを引き連れた、一人の男が立っていた。


「────奇遇じゃないか、リューリよ」

「グウェナエル……!?ど、どうしてここに……!?」

「何を驚いている?私が人を連れて外を散歩しているのがそんなにオカシイか?」

「……っ……死神の屋敷に、護士をけしかけたのは……あなただと、聞いています……」

「だとしたら?」

「今すぐに、彼らを引き上げさせて下さい……あの人たちは、何も関係ない……これは、私とあなたの戦いじゃないですか……!」


 心の奥から沸き上がる憤怒の感情を全身で表現するように、グウェナエルへと威嚇するが……彼は、目の前に倒れているエルトンの姿だけを見ていた。


 すると、その傍で屈み、彼の図太い首を鷲掴みにして、その巨体を軽々と持ち上げ始めたのだ。


「ぐァ……ッ!?」

「な……ッ!?なにをやってッ……エルトンさんを離してッ!!」

「落ち着くがいい、リューリ。これは提案だ。受け入れるのならば、これ以上手荒な真似はしない」

「提、案……?」


 嫌な予感がする……ただ、そんな弱々しい感情を悟られないように、私は警戒心を剥き出しにして、グウェナエルを睨み付ける。


 しかし、そんな心情すら既に見抜いている様子で、小さく笑みを浮かべた彼は、私の方へゆっくりと手を差し出してきた。


「私たちと共に来て貰おうか、リューリ」

「だ、誰が、あなたなんかと……!」

「断るか?まぁ、それも良いだろう。貴様の協力者たちがやられるだけでなく、目の前で、コイツの首がへし折れるのを見るだけだが……なッ!」

「ァッ、ギ、ィ……ッ……ゴボ……ッ!」


 突如、グウェナエルが無防備なエルトンの脇腹に、容赦なく膝蹴りを叩き込んだ。それだけに留まらず、相当強い力で首を締め付けられいるのか、今にも消え入りそうな嗚咽を漏らすエルトンは、顔を真っ青にして泡を吐き始めている。


 このままでは……彼の命が危ない。


 そう察知した私は、ブワッと全身から嫌な汗を噴き出しながら、思わず声を上げていた。


「ま、待って……ッ!」

「言いたいことは、それだけか?」

「……ッ……従います。だから、彼らには手を出さないで下さいッ……お願いします……ッ」

「……ふん、及第点といったところか。まぁ、いいだろう。望み通り、連れていってやる」


 グウェナエルに下ろされたエルトンを近くの壁に持たれ掛からせ、まだ呼吸があることを確認すると……私は、取り巻きの者たちに両腕を拘束され、彼らに囲まれて何処かへと歩き出した。


 大丈夫……これで、いいのだ。


 傷付くのも、辱しめられるのも、私だけでいい。エルトン、ヨシコ、ハタ……そして、死神のことも……今度こそ、私がこの手で守ってみせる。

 

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