第25話 対死神制圧連合部隊


 今から数時間前。


 皇国治安維持部隊の本部にとある人物が来訪し、一つの密告を述べていったらしい。



 ────皇選の候補者であるリューリが、死神に捕まっている。



 死神の異次元な強さを承知している護士の面々は敬遠の体勢を取っており、滅多なことが起こらない限りは彼と接触するのはあえて避けていた。


 しかし、此度は事情が違う。


 その密告をしてきたのは、ただの一般人ではなく────グウェナエル=ジード、だったのだ。


 元々、大庭園の『武庭』にて優秀な人材として評価も高く、皇選の候補者ともなれば、皇室との関係性は限りなく高いといえる。


 そんな人物が直々に密告してきた以上は、護士も総力を上げて死神の検挙に動かざるを得ない、というわけだ。


(……オマケに、ちらほらと『異端ギルド』の人間が見えるわね……死神相手ともなると、いよいよ手段を選んでいられないって訳かしら……?)


 『冥土の底棲』、ギルド屋敷前。


 そこに展開するは、護士と異端ギルドの中でも、高いLysを持つ精鋭たちで構成された────計百人規模の対死神制圧連合部隊。


 この大人数相手では、流石の死神も多勢に無勢。


 太刀打ちするどころか、ギルド屋敷ごと木っ端微塵にされてもおかしくはないだろう。


 まるで厄介払いをされたように後方支援を任されたマシャル=ドゥデンヘッダーは、連合軍を眺めながら、あくまで客観的な目線でそんなことを考えていた。


 すると突然、正面扉がゆっくりと開かれて……一人の獣人が姿を現した。


「今、我が親愛なる主様はお休みの最中。お引き取りをお願い致しますわ」


 ヨシコ=ライトセット……やはり、出てきたか。


 百人に及ぶ軍勢を前に、丁重に頭を下げて平和的解決を示すが……精鋭たちは、むしろ目をギラつかせて、武器を取り出しながら正面扉へと迫り寄っていく。


 圧倒的劣勢……鬼も逃げ出しそうな状況を前に、ヨシコは呆れたように溜め息を吐くと……。


「……折角、忠告してあげましたのに────『地鳴らしの脚クェクト』」


 一発、その場で地面を踏み鳴らした。


 直後、忽然と周囲の地面が触れ始め、次第にマトモに立っていられない程、大きく、強く、大地震へと変貌をしていく。


 それは決して自然的に発生したものではなく……自らから発せられる魔力の波動で尻尾をたなびかせ、不敵な笑みを浮かべている『ザ・ワン』の仕業であることは、最早明確だった。


「────さぁ、死にたい奴から前へ出ろ。我が親愛なる主様の安らぎを妨げる者には、死あるのみですわ」


 これぞ、ヨシコ=ライトセット────『Lys96』・『災喚の隷獣さいかんのれいじゅう』。


 卓越した『魔術』により、独自的な役職の進化を遂げた、世界最高峰の怪物の一人。


 さて、今彼女の周囲を百人の軍勢が取り囲んでいる訳だが……追い込みをかけているのは、果たしてどちらになるのだろうか。

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