起源者――災禍を振りまき歩くもの

『神為らぬ者』がいたとされる研究オフィスはいくつかあり、APC(簡単に言うと『覚醒遺伝』対策の組織だ)によって粗方見つけられている。

そこには彼らが主に活躍した生化学や遺伝子工学の他に、文化人類学や史学といった分野外のものも多く見つかった。また部分的にではあるが、人体実験をしたと思しき資料も見つかり、APCは彼らが狂気に堕したのだと推測する。人体実験については部分的な数値データから、生きた人間を使ってデータを取っていたことはわかった。だが、それは何に活用されたのか。

研究オフィスの調査を任された者たちは、口を揃えて言う。


―――決まってる。『覚醒遺伝計画』のためだ。


そうならば、『覚醒遺伝計画』の最初の成果物があったはずだ。生きた人間が神格や英雄の一側面を有しうると証明した人間が。

それは『起源者センアンセスター』と呼ばれた。同時に、その『起源者』がすべての『覚醒遺伝計画』の発生装置と目された。理由として、世界を覆う『覚醒遺伝計画』がランダムかつ小規模集中的に伝承者を増やしていたこと。発生原理がわからない以上、『起源者』が伝承者を増やす伝承者であることが順当だという判断だった。

起源者の正体はわからない。性別も、元の人種も、姿かたちも、何一つわかっていない。

ただ、それは存在するはずだ。行方も知らぬそれを捉えたとき、この世界についての観測は、一歩前に進むだろう。

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