31点
テストの点数を見て、僕は心の奥底から喜びが湧いた。
「よっしゃあああああっ!」
日本史のテストの上部には「飯島 周平」、つまり僕の名前が書いてあった。その右側には、赤ペンで力強く「31」という数字がある。
「ギリギリ赤点じゃな~い!」
僕は人目もはばからず、嬉しさをアピールした。
「そんなことぐらいで何を喜んでるの」
隣の席にいた寡黙なメガネ女子の栗原舞が、僕に冷たく問いかける。
「あなたは確かに、前回の日本史の中間テストでは29点で補習を受けていましたね」
「そう、2点差で赤点になったから確かに補習を受けるハメになった。おかげで野球部のレギュラーからも外された。『補修に時間を取られて練習できなくなるようなマヌケはチームには入れられない』って監督にも怒られたしな」
舞は鼻で笑うような仕草で、僕から目を逸らした。
「おい、何だそのリアクションは」
「私には理解できない世界ですね。『30点以下は赤点』というボーダーラインのせめぎ合いで戦う人の世界なんて。だって私は97点ですもの」
舞は一応というような態度で僕に点数を見せてきた。
「いいよな、97点取れる人間は何も恐れるものがなくて。対して俺はギリギリのところで戦っている。日本史のテストでは31点だけど、現代文では48点、古典では41点、英語は37点、数学は一番得意だから62点、理科34点、世界史45点。一番苦手な日本史をしのげたのは、僕にとって運命の分かれ道だったけど、今は天国につながる道に行けて幸せだったってこと」
「飯島、天国への道って何だ?」
教壇から日本史の先生がいきなりツッコんできた。舞は何事もなかったかのように席に座り直し、正面を見据えた。僕も戸惑いながら先生の方を見る。
「この学校の補習ルール、もしかして忘れた?」
「えっ、何のことですか?」
僕は状況がさっぱり分からなかった。
「今回の日本史のテスト、総合的にみんなデキがよくてな。お前が最下位だったんだ」
「で、でも、赤点じゃないですよ?」
僕は自分の答案を掲げながら先生にアピールした。
「学年で最下位だった人は、点数に関係なく補修になるんだよ」
時が止まった感じがした。僕は補修という運命から、どの道逃げられなかったのか。
「あと、理科と英語もお前が最下位だから、そこも補修な」
「えっ、じゃあ、30点台の3教科はすべて補修ってことですか?」
「あと、古典もお前は最下位タイだから、41点で並んだ他の3人と補修だって」
「41点で!? ウソでしょ!?」
僕はさらなる悪い知らせに、愕然とした。
「当たり前だろ、だってここは都内どころか、世界で有名な『神の進学校』だぞ。みんな勉強はできて当然。赤点ラインで感情的にせめぎ合っているのはお前だけだからな」
先生の冷徹な一言が、僕の心を撃ち抜いた。僕は脱力しながらイスにつき、絶望に打ちひしがれながらつぶやいた。
「4教科も……補修……」
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