こんな遅刻魔はイヤですか?
「やべえ、急がなきゃ」
バターロールを口にくわえながら、僕は必死で学校へ走っていた。
スマートフォンの時刻を確かめると、8時25分だった。
始業まであと5分。
僕はバターロールをかじりとると、覚悟を決めてペースを上げる。
「よし、ここが最後の曲がり角だな」
僕はそう確かめながら、柵で区切られた細い歩道をダッシュする。
300m走ると、右側に正門が見えた。
「おはようございます!」
「増沢くん、遅い」
日本史担当の女性である柴田先生が、あきれたように言った。
この日も先生は純粋にさらさらとした黒髪を、結びもせずにたなびかせていた。どこかツンとしていながらも大きく輝いた目元が、若さを感じさせる。
「すみません。やっぱり遅かったですか」
「だって、今、8時35分。この時点で5分遅刻。あなたのいる1年2組の教室までじゃ、ここからさらに3分ぐらいかかるんじゃないの? そこ分かってる?」
「でも5分程度しか遅れていないなら、まだマシじゃないですか」
僕は罪の軽さを少しでも認めてもらおうと柴田先生の同意を期待した。
「5分程度?」
柴田先生は唖然とした様子だった。
僕はそれを見て気まずくなったが、この雰囲気をすぐに和ませようともう一言だけ、念を押してみた。
「ほら、今こういう時間でしょ」
僕はスマートフォンに示してある8時36分の時刻を彼女に見せる。しかし彼女のドン引きした様子に変わりはなかった。
「今、午後8時36分なんだけど」
柴田先生は否定しがたい現実を見せつけてきた。そう、あたり一面真っ暗だったのだ。
「呆れた。ここまで一気に遅刻記録を更新するなんて。12時間6分の遅刻なんて聞いたことないんだから」
柴田先生は僕を軽蔑する目で言い放った。そして去り際に一言付け足す。
「明日になったら校長に報告するから。とりあえず家に帰りなさい」
……やっぱりダメだよね。
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