ゴミが見つからない
イスの周りに消しカスが散らばっているのを見るや、僕はカバンからミニミニサイズのちり取りとホウキを取り出した。どちらも手持ちサイズなので、このときならサッと消しカスを集められて便利だ。きれい好きな僕にとってはもってこいのアイテムだった。
今日も僕は机の周りのゴミをひととおりかき集めると、教室の前側にあるゴミ箱へ向かい、さっさと捨てた。
「掃除なら放課後毎日やってくれるのに」
近くにいたクラスメートの秀太が言った。僕に戸惑っているというより、もうそれが日常という感じで、とがめるのを諦めたような感じだった。
「僕は落ちているゴミはさっさと排除しないと気が済まないんだよ」
「やっぱり凛太郎はきれい好きか」
秀太は苦笑いした。僕は一瞬だけ彼に微笑んで返すと、さっさと自分の席に戻った。
こんな感じで僕は、きれい好きを極めていたのである。
この日の放課後、ホームルームで先生はひとつため息をついてから言った。
「それじゃあ、今から自分の席の周りにあるゴミを10個集めろ」
ゴミ集めのイベントは、先生の気まぐれで始まった。僕は嫌な予感を覚えながら、自分の机の周りを調べた。
他の生徒たちは、順調にゴミを拾い集めている。しかし僕はというと、たった一個しか見つけられない。しかもどこから出たのかわからない、白い糸くずだ。何せこの日は3回にわたり、机の周りのゴミを自分で掃いて捨てたんだ。それで今から身の回りのゴミを10個も探し出すこと自体、ありえなかった。
マズい、10個見つけられない。
先生に怒られちゃうかな。
僕は不安で仕方がなかった。
「どうしたの?」
斜め前の席にいた千香が、僕に話しかけてきた。彼女はこんなときでも黒い眼帯をし、声色はいつも暗い。明らかに中二病の少女だ。
正直、近寄りがたい奴に絡まれていると思った。
「何でもないよ」
僕はそう突っぱねると、床に目をこらしてミクロレベルのゴミがないかを探った。でも指を押し当てても、何もつかない。自分のきれい好きな習慣がこんなに呪わしくなる日がくるとは思わなかった。
「ちょっと手、貸して」
千香の一言に誘われ、僕は思わず左手を差し出した。すると彼女はゴミの集まった手のひらから、鉛筆削りのカス、汚れたつまようじ、ホコリのかたまりと、いろいろなゴミクズを手に乗せていく。
「9個目はこれ」
千香はそう告げると、ポケットから食べかけのサンドイッチを取り出してきた。ラップに包まれたサンドイッチには、部分部分にカビが生えている。僕はノルマのためと割り切りながら、それを受け入れるしかなかった。
「あと右手の糸くずを合わせて10個目ね」
「ど、どうもありがとう」
僕は引きつり笑いをすると、早歩きでゴミ箱に行き、集まったものを一斉に放り込む。同じスピードで席に戻ると、安心して大きなため息をついた。
「どうした、凛太郎。どこか具合でも悪いのか」
「いや、何でもないです。本当に何でもないですから」
そうとりつくろいながらも、心の内では安堵していた。
とりあえず、このピンチを乗り越えるきっかけを与えてくれた千香に、感謝ということでいいのか?
いずれにしても、きれい好きがこんなアダになるとは思わなかったよ。
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