声がきこえる

ベランダから身をのりだすと、

近くの公園の林のなかで、

ねこが「ニャーニャー。」と言っていた。


まるでそれにこたえるように、

目の前の電線にとまるが、

「電気的な何かをかんじる。」とつぶやく。


するとのバネ指が、

「もしもし。」と言って赤くなった。


一瞬、脳挫傷のうざしょうのようなノイズをかんじた。

バネ指は、

ますます赤くなる。

電線をながれる会話の声が、なぜかきこえる。

「ヤジロベエの説明書が見当たらない。」

「それなら、カカシだったころを思いだすといいよ。」


ふたたび注視ちゅうしすると、

いつのまにかけの皮をいでいて、

ねずみの集合体になっていた。


わたしはうすく口をあけたまま、

小さく息を吸いこんだ。


するとそいつは、

それにあわせるように、

こちらにふり返った。


たくさんのがみている。

ぼそぼそごえがきこえる。

そいつは口を使わずに、

まばたきでしゃべるようだ。


わたしのバネ指は、

勇気をふりしぼって言った。

「どちら様ですか?」


そいつは喧騒けんそうみたいな声をかえした。

「わたしは森の木立こだち。それよりも、飛び降りるのは得策とくさくじゃない。夢のない走馬灯そうまとうをみちゃうわよ。」

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