稲穂のまなざし

稲穂の黄金こがねの波打ち際で、ひとりたたずむ、夕暮れの気持ち

いなくなった人と想い人の、似て非なる感情をかぞえた


いくらでも噛み締められそうな奥歯、なのにどこにも噛み合わない

感情にも、涙腺にも、悔恨かいこんにも、ひっかかりさえしない

影を投げかけるカラスは鳴かない、ただの一羽も、ただの一度も


渇いた土くれ、なに不満なく地面に横たわるのは、なぜだ

こんなに近くで、こんなに波打ち、それでも静かなのは、なぜだ

押し合い触れ合い、愛を交わす稲穂の沈黙、ただ視線のみを感じる

ひとつぶひとつぶ、いちべついちべつ、空からは見えない瞳


曇りの祭日、いちめん影におおわれ、微風の愛撫、薄影のもよお

紅色皆無の追憶の底、底冷えの季節の溜め息、息継ぎ知らずの絶叫皆無

こうべを垂れる稲穂の意思を、ひしひし感じる胸の穴

あと何日生きられるんだ、教えてほしい

見返りなんて求めない、それだけでも教えてほしい

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