視線のシルエット

こんなにも人が多いなら、誰かが必ずこちらをのぞくだろう

心音はやわらかな肋骨に包まれながら、読唇術どくしんじゅついそししむ

視界の隅のシルエットが手を振りながら行き過ぎる

隣人のすえた体臭が立体的に思えてならない

バス待ちの人々の虚ろな瞳は、

驚くほどに開けっ広げで、どこか危うい


会議疲れの会社員が人殺しの妄想にふけ

隣町では今しがた、真面目に生きた老人が、

人違いにより、その頭を鉄パイプで叩き割られた

照れながら陰口をのたまう愛妻家

目の前をあるく性別不明者の足音が、

さっきから私の心音を追随して逃がそうとしない


猫は見詰める、空を飛び交うカラスの群れを

そこに、我が子をさらわれた感情は残っているのだろうか

八分咲きの夕暮れが誰かの頭痛の種になる

この空の向こうでは、朝と夜が広がっているという不思議

終わらない讃美歌さんびか鎮魂歌ちんこんか、それなら、始まりなんてないのだろうか

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