換気扇
回る回る換気扇。
換気設備が外へ吐き出す、気だるげな溜め息。
溜め息にしては息が長すぎるけれどそこはご愛嬌。
唯一の長所と思っていただけたならなお結構。
外気温、それは外からやって来た。
換気扇回るよ。ずっとずっと回るよ。いつまでも回るよ。ひたすらに回るよ。換気扇飽きるよ。換気扇さぼるよ。換気扇喋るよ。
時計回りで失礼します。初めましてこんにちは。私は一換気扇に過ぎませんが、換気扇を代表し申し上げます。
私は代弁者でございます。換気扇も一枚岩ではありません。思慮深きもの、そうでないものと色々でございます。
あなた方人間の一生は換気扇とそう変わらない。あなた方の生き方は一見高度で高尚だが、行きすぎたそれの内実は驚くほど陳腐で簡素だ。
あなた方人間の生き方は、歩きやすいように、いいえ、歩き方さえも道端の標識が指示してくれています。
生きるためのお膳立ては十分すぎるほどです。
あとは食べるだけ、いいえ、食べる必要すらない。
胃袋に直通のチューブのようなもの。
消化するだけ、いいえ、消化の必要すらない。
血管と針で、サイフォンの原理で、水は低きに流れる的食事。
あとは心臓の仕事です。あなた方はただ、どきどきしていればいい。
人も換気扇もなにひとつ変わるところはないのです。
置かれた場所で回りましょう。
軸が折れるまで、羽が錆びるまで。
疲れ果てることもあるでしょう、心底嫌気が差すこともあるでしょう、どうしようもなくて頭を抱えることもあるでしょう、そんな時は、溜め息を吐くことをおすすめします。
言いたかったのはこれでした、溜め息を吐くこと。
最後にとって置きました。
苺のショートケーキ的心理が働きました。
美味しいものは最後に、大事なものは最後に。
クリームとスポンジの面目は丸潰れ、胃の中は怨嗟の海、感情面はぐちゃぐちゃで、身体面はどろどろで、苺が降りてくるのを、手ぐすね引いて待っている。
私なぞ、溜め息ばかりです。千年万年溜め息ばかり。
溜め息にかまけてばかりです。
溜め息に掛けては、私どもの右に出るものはないでしょう。溜め息は前に出ます。
溜め息を一つ吐くたび、幸せが逃げていくと申しますが、私はここで異を唱えます。
溜め息一つ吐くたびにあなたは幸せになっていきます。と私は考えますが無論検討外れということも。
ならば最悪の事態に備えましょう。
そうです想定しましょう。
溜め息を吐いてもあなたは幸せにならず、定説通り不幸になるとします。しかし他人の不幸は蜜の味。
あなたの不幸が、あなたの近辺を幸せにしているのです。
災い転じて福となる。諺が物語っています。諺が立証してくれています。
諺は言語的、方程式です。まず間違いはありません。信じるに足る、確固たるあやふやさがそこにあります。
外気温、それは外からやって来た。
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