名刺交換は魂こめて

――これはご丁寧に、わたくしも、三途の川ごしに失礼を――


――珍しいお名前ですね、失礼ですが、これは何とお読みするのですか?


――はい、これはチョメチョメと読みます――


――ははぁ、これでチョメチョメと?


――ははぁ、ふむふむ、なるほど、なぁそれで名付け親は誰なんだ?


――はい、両親の合議の末に決められたと伝え聞いております――


――お前の両親の身体による合議の末に、お前が産まれたのと同様にというわけだ――


――はい、まったくその通りでございます――


――チョメチョメね、チョメチョメ、それでお前は気に入っているのかよ、自分の名前を――


――はい、よい名を頂いたと感謝しております。

この世を生きるには充分すぎるほど、私には勿体ないほどです。

出来るものなら私は、外国の風習のように、自らの子供に私と同じ名を付けたい。

性別如何に関わらず、お役所の声に耳を貸さず、親族の反対も押し切って、チョメチョメをそっくりそのまま委託したい、との思いは叶わぬ願い、実を申すと私はまったくの不能でございまして。

名刀なまくら刀がちょこなんと、ですからチョメチョメは私の代で途絶える定め――


――おい、だったら、そのチョメチョメ俺にくれないか?


――よろしいのですか?


――ああ、頂けるものなら頂きたいね――


――ああ、これはかたじけない。何とお礼を申したら――


――で、どうしたらいいんだ?


――はい、でしたら、先程お渡しした名刺をぱっくんちょしてください、もぐもぐやって、ごっくんしてください、多少お腹がごろごろ致しますが、しばしのご辛抱を、そして数日経った頃には、あなたはもうチョメチョメに。

これで胸のつかえが落ちます、私はこれでようやく自らの使命を果たせます。

神様からの督促状が連日届き、私の家の郵便受けは日々、逆流性食道炎による胸焼けに苦しめられ、胃腸は弱り慢性的な消化不良に苛まれておりました。

そして、ようやく終わる胸焼けの日々。

だけれども快気祝いは別腹で、いくらでも腑に落ちる。胃下垂が功を奏するまでもなく、すとんすとんと落ちていく。ああ、感慨無量、感無量……

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