已己巳己
君に渡すはずだった花束に、僕は顔を擦り付け、花粉を肺一杯に吸い込んだ
花を呑み込み茎と葉を貪って、申し訳程度にこびり付いた根の繊維の一本一本を奥歯で噛んだ
およそ植物とは思えない、骨を噛むような砂壁の味がする
寂れた公園に咲く、名前のない花に、君の名前を付けたんだ
だけど次の日には、その花だけが手折られていた
蝉の脱け殻から、誰かが瞳を覗かせていた
涼やかなのは神社への参道だけじゃない
脱け殻になる準備をするたくさんの蝉たちが
樹齢幾百年の大木に群がり願掛けをしていた
モーター音を響かせながら 摩擦音を響かせながら
追い越し追い越し コピーのようにそっくりな音色を奏ながら
供えられたみたいな君の顔、見たこともない服を着て、生真面目な顔をしている
どこに目を向けたらいいか分からない、瞳はどうしても直視できない
およそ生きているとは思えない、平面の瞳がこちらを見ている
並列繋ぎの蝉たちが、直列繋ぎの蝉たちの生き方をなじる
死に急ぐことにどれだけの意味がある? 電池切れは待ってくれないのに
落ちる落ちるまた一つ 事切れ、手折られ、地面に落ちる
電気仕掛けの蝉たちが ぜんまい仕掛けの花たちが
逃げ水に足を浸して、微笑を向けるのはいったい誰だろう
つばの広い白い帽子を被っているから、そう見えるだけ?
のっぺらぼうみたいな顔なのは 頬だけで人は笑えるんだね
日が陰るのを皮切りに、蝉の群れが辺りを覆い何もかも消し去った
君に渡すはずだった花束に、僕は顔を擦り付け、花粉を肺一杯に吸い込んだ
花を呑み込み茎と葉を貪って、申し訳程度にこびり付いた根の繊維の一本一本を奥歯で噛んだ
およそ植物とは思えない、骨を噛むような砂壁の味がする
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