イーター
『…ぎくん……………櫻木くん』
心地の良いまろやかな声とともに俺の意識は眠から現実世界に一気に引き戻された。
まだ真昼間の教室に差し掛かる太陽の光を左手で遮りながら、ゆっくりと目を開けると目の前には、クラスメイトの羽鳥茉莉奈(はとりまりな)が両手を俺の机の上において立っていた。整った顔に腰まで伸ばされた髪の毛、高校生とは思えないスタイルの良さ。
彼女は学校の中でもその見た目からかなり人気がある。しかし男嫌いなのか告白してきた男をことごとく振っている。この前もサッカー部のキャプテンの一部の女子から王子様とか呼ばれているイケメンな先輩の誘いを断ったらしい。
そんな彼女だが最近やけに俺に構ってきている。こちらとしては悪い気はしないが、彼女と話していると色々な人間から恨まれそうなので、極力会話は避けようと心に決めている。
『櫻木くん 朝からずっと寝てるけど寝不足?』
彼女は声のトーンを少し上げて僕の目をまじまじと覗き込んできた。
僕は目を逸らすと、髪の毛をかきながら笑顔を浮かべて言った。
『あはは 昨日の夜動画を見過ぎてね、、、』
『ハア〜呆れた。まさかえっちいモノじゃないでしょうね〜』
彼女はさらに顔を僕に近づけて言った。
慌てて僕は、彼女から顔を遠ざけると弁明の言葉を紡いだ。
『まっさか〜 昨日は最近話題のミュージシャンの動画を見てただけだって〜あはは』
『どうだか まあどうであれ寝不足は健康によくないからちゃんと寝るように』
彼女はその言葉を残して自分の座席へと帰っていった。
昼休みの教室はやけに騒がしく、二度寝は不可能と考えて少しさっき見た夢を思い返していた。
そう俺は一度死んでいる。死んだはずだった。
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