第54話
ダイニングテーブルに並ぶティーカップ。
そして、母が用意したティーポットには、香りの良い紅茶が入っている。
ほのかに香る茶葉の匂いが部屋を包み、カップに注がれる時を待っていた。
「間に合って良かったわ」
カータは約束の時間までに用意が出来、安堵している。
「そうだね。なんだか少し緊張するよ」
ベイルはソワソワと落ち着かない様子だ。
「お兄ちゃん、どうしたの?大丈夫?」
プリシラは結局、普段からよく着ているワンピース姿で、微動だにしない兄を心配していた。
しかしその声は届いていない様子。
「お兄ちゃん?」
プリシラは再度声をかけながら、カイルの裾を摘んでツイツイと引っ張る。
その感触でようやく、ガチガチに緊張していたカイルは妹に気付く。
「ん?なんだ、どうした?」
「うぅん。何でもないよ」
「そうか」
いつもと雰囲気が違う兄。
そして同じ雰囲気を醸し出す両親の姿に、それ以上プリシラは何も言わなかった。
トントントン。
玄関の戸を叩く音に、部屋の中の空気がより一層張り詰める。
「ガイナスです」
今度こそ、本命が来たようだ。
チェアに腰掛けていた両親はスッと立ち上がり、静寂の中、玄関へと向かう。
その後ろをカイルとプリシラが続いた。
ベイルがドアノブを捻り、カチャッと扉を開く。
開いた先には、壁のような体格のガイナスが、緊張した面持ちをしている。
普段着ないような、お洒落な格好。
元凄腕冒険者の身体では窮屈なのか、あまり似合っていない。
その横に小柄なティナが、少し恥ずかしそうに立っていた。
「お待ちしてました。おや?ティナちゃん、よく似合っているね!」
「ホントね!可愛いわ、ティナちゃん!」
俺の両親が褒めるように、ティナは新調したであろう服に身を包んでいた。
白の布地で、所々に黄色で刺繍を施したスカートに、それと揃いのアウター。
綺麗に縫製されており、一目で高価な品物だと分かる品格がある。
そして、小さなお花で作った髪飾りも、彼女の可愛らしさを引き上げていた。
「えへへ〜!」
照れているのか頬を赤らめれるティナ。
こんなお洒落な姿、見た事なかったな。
うん、可愛い。
いや、綺麗だ。
彼女をいつも可愛いと思っているが、今日は特別可愛く感じた。
血色が良くなった肌が艶めいているし、綺麗な初見の服が似合っているからだろう。
思わず口元を緩めていると、不意にティナと目が合う。
すると彼女は、自慢げにポーズを決めて言った。
「可愛いでしょ〜?カイルはこんな格好、好き?」
「ん?あ、あぁ、その」
照れ隠しなのかハニカミながら言うティナに、カイルは視線を横にそらす。
「もぉ〜、どっちなの〜?可愛くない?それとも」
「いや、まぁ、その。可愛いと思う」
そっけない態度に見えたが、小声で『可愛い』と発言した彼の耳が、熟した苺のように赤くなっている事に気付く。
「え?あ、ぅ〜」
幼なじみゆえに、カイルの心境が読めてしまい、恥ずかしくなり何も言えなくなるティナ。
そんな二人をベイルとカータ、そしてティナの母ニーナは微笑ましく見ていた。
対象的だったのはガイナスとプリシラ。
二人の抱いていた感情は、まったく別物の違うものだった。
しかし二人は同じように、少し不機嫌そうに眉を顰めて、その光景を見ていた。
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