第53話

 いや、まぁ別に構わない。

 これから許嫁となるわけだし、いずれは夫婦として一緒になっていくのだろうから、どう思われようがな。

 しかし今日はイジってほしくない。

 冷やかしに耐えられるほど、精神ポイントが残っていないだろうからな。


 まぁアレだ。

 対策が無いわけではない。


 要は『挨拶』が終わったら、この家から出なければ良いだけの話だろう?

 ただそれだけ。

 例え村中に広まろうと、明日になれば精神力も回復するだろうから、村人からの冷やかしにも、きっと耐えれるさ。

 そうだろ?

 だから気にするな。

 気にしても仕方ない。

 そう、気にしても、な。


 カイルは事実を受け止めながらも、諦めの境地にいた。


 「それでそれで!?今、どんな状況なんですか!?」

 「え、えぇと?」


 テンション高いカレラの追撃に困り、ベイルは息子の様子を伺う。

 カイルは色素が抜けたように、体が白くなりつつあったが、父の視線に気づいて、『もう、好きにしてくれ』と言わんばかりにコクリと頷く。

 それを受けてベイルは、これからカイルとティナが許嫁、もしくは婚約者として、両家で話し合いをする事を告げた。


 「なるほどなるほど!では、私がここに居ては、お邪魔ですね!フフフ!」


 楽しそうに笑うカレラが、カイルには悪魔がほくそ笑んでいるように見えた。


 あぁ、彼女を止めれるなら止めたい。

 彼女の口さえ閉じる事が出来たら、防ぐ事が可能なんだ。

 だが、そんな事は出来ようがない。

 今なら引き止めることも出来るが、引き止めたところで、今度はティナ達と鉢合わせしてしまう。

 それはカレラさんに餌を食わせて太らせるだけの愚行だ。

 何もしない。

 それが最良の策。

 危険だと分かっているが、今は見送るしかない。

 これ以上ややこしくなる前に、難敵を退けておくのが一番いいんだ。


 そんなカイルの思惑を知ってか知らずか、カレラは場の空気を読み言葉にする。


 「では、私は退散します!また後で、詳しく教えて下さいね〜?」


 ベイルは再び息子を見る。

 息子は操り人形のように、達観した表情で、『好きにして』とただ頷いていた。


 「えぇ、後ほど」


 ベイルが応じると、カレラは「ではでは〜!」と去っていく。


 扉がパタリと閉まると、しばし無言状態が続く。

 このまま時間だけが過ぎていきそうな感覚。

 そんなシンとした空気を嫌い、ベイルが動き出した。

 息子の肩にポンと手を置き、申し訳なさそうに口を開く。


 「なんか、その、なんて言っていいか。まぁほら、悪い事じゃないし、喜ばしい事だからだな?その」


 歯切れの悪い言葉をかけるが、カイルは達観した表情のまま微動だにしない。

 そんな感情にかけれる言葉は一つだった。


 「なんか、ごめんな」


 父の言葉に、力無く頷くカイル。

 今にも倒れてしまいそうな息子を支え、ベイルは妻と娘の様子を見に、移動を開始したのだった。

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