第52話

 「いやぁ!さすがカレラさんですね?実は」


 ここまで聞いて、カイルはようやく動き出す。

 このまま何も対策せずに、話を進めてはマズイと思ったからだ。


 「父さん!」


 急に父を背後から呼びかけ、会話へ強引に割って入る。

 ベイルは振り向き息子を見た。


 『カイル、どうした?何かあったのか?』の表情をする父に、カイルは声に出していうと感づかれてしまう可能性がある為、今まで使った事はないが、無言で伝えるアイコンタクトを使用した。

 『いずれ広がる話だが、まだ今日は発表しないでいいだろ?ほら、今から色々あるわけだし』と、俺の気持ちを察してくれと必死に訴える息子の目に、ベイルはハッとする。

 『あぁ、なるほど。フフッ。任せておけ、息子よ』と言わんばかりに口元を緩ませて微笑すると、再びカレラに視線を戻す。

 そんな父の背中を見て、カイルは安堵と共に尊敬の念を抱いた。


 みなまで言わずとも、俺の気持ちを察してくれた。

 初めて使った連絡手段だが、フフッ。

 真の親子が成せる技、という事だな!

 これが他人同士なら、決して通じる事はないだろう。

 そして任せておけと見せる頼もしい背中。

 この格好良さは、なかなか真似出来るものではない。

 さすが俺の父だ。

 父さん。

 俺も、そんな格好良い男になるよ。


 全てを父に託し、カイルは背後から見守る。

 どんな感じで難敵『カレラさん』を撃破するのか、大人の対応というやつを学ぶためにも。


 ベイルはニコッと笑い、カレラに話し出す。


 「実はウチの息子がですね、お隣のティナちゃんの、許嫁と言いますか婚約者と言いますか」

 「うぉぉぉい!!」


 予想外過ぎて咆哮するカイル。

 その声量に驚きながら振り向くベイルは、『どうしたんだ一体!?』の表情をするので、カイルは思わず口にする。


 「父さん違うだろ!それを話してどうするんだ!」

 「えっ、なんで?違うのか?さっきお前、『良い機会だからカレラさんに広めてもらおうじゃないか。良い事だからな』みたいな目つきしてたじゃないか!?」

 「してねぇぇよ!!」


 全然通じてないじゃないか!

 おまけに真逆過ぎだろ!

 あぁ、もうダメだ。

 一時間後には、村中に話が広がってしまう。


 なぜそう思ったのは、『婚約』という言葉に、カレラさんが目を輝かせていたからだ。


 俺のミスだ!

 こんな事になるなら、ハッキリと言葉にして言えば良かった!

 アイコンタクトなんて慣れないことをしたから。


 クッ!


 今更後悔しても仕方ないが、それが一番の原因。

 大失敗だ。

 あぁ、こんな事になるなら、父と正確に意思疎通できるレベルで、アイコンタクトを鍛えておけばよかった。


 頼もしい背中からの期待外れの大外れ。

 あまりの衝撃に、『アイコンタクトのレベルを最高までに極めなければ』と、変な思考に誘われるカイル。

 そんな彼をほっといて、カレラはテンションを上げる。


 「ついに二人の関係性が発展するんですね!?」


 出来立てほやほや。

 おまけに待ちに焦がれた情報に、彼女の興奮はグングンと加速した。


 「ティナちゃんを甲斐甲斐しく守るカイルくんだから、いずれその時が来るとは思っていましたが!幼なじみ同士が夫婦になっていくなんて、最高の特ダネじゃないですかぁ!」


 情報が無常の喜びである彼女にとって、最高の瞬間だった。

 無邪気に喜ぶカレラの姿を見て、カイルは思う。


 あ、俺とティナって、他の人からそんな風に見られてたんだなと。

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