第46話

 いやいや、ちょっと待て!

 怪しい物売り自体を演じてどうする!?

 そんな事をしても、意味がないだろう!

 くっ!

 やはり動揺が尋常ではないな。

 何か話題は?

 何かーー。


 ここでカイルはハッとする。

 忘れていた事を思い出したのだ。


 そうだ!

 本来の目的は、『プリシラの服が合わなくなっているからどうする』だろ?

 それでいこう!

 それがベストだ!

 そんな事を忘れているなんて、まったく。

 俺のおっちょこちょいめ!


 起死回生の話題だと思い、フフッと無意識に笑みを出してしまう。

 それを見た母は、ますます眉間の堀を深めた。


 「変な話し方したり、いきなり笑ったり。変よ?カイル」


 ややこしくなりそうなフラグが立つ。

 しかし無意識な反応だった為、今さら後悔しても仕方ない。

 怪しげな物売りのマネをした事も、この際飲み込んでしまおう。

 今は話題を変える事に集中だ。


 気持ちを落ち着ける為に、コホンと咳払いをする。

 そして、いつもの声色で話し出した。


 「母さん、プリシラの服なんだけどな。サイズが小さいみたいなんだ」

 「まぁでも、お父さんとの結婚が決まった時、私も色々、幸せな想像をしていたから、ね?」

 「だから、どうしたらいいか聞きに来たんだが」

 「それが一つ一つ、叶っていって。そしてカイルとプリちゃんが生まれてきてくれて。そう思うと本当に、私は幸せだわ」


 母は幸せそうに微笑む。


 まったく会話が噛み合わん!

 俺の声が聞こえないのか?

 それほど俺のことなど、まったく意に介してない!

 幸せそうに微笑みやがって!

 どうしたらいいんだ!


 焦る心は、思考回路を加速させる。


 俺の晒した醜態から、昔の自分を思い出したんだろうが、状況をややこしくしないでくれもらいたい!

 幸せ?

 大いに結構じゃないか!

 俺とプリシラが、それに貢献できているなら尚更だ。

 だが今それを伝えられても、なぁ?


 なんて答えよう。

 悩む時間が少ない中考え、そして口を開いた。


 「そうか」


 たった一言、そう言った。


 答えようが無ぇよ!

 何なんだよコレ!

 難しすぎるだろ!

 例えば『母さんにも、俺と同じような時期があったんだな』なんて言ってみろ。

 話題が蒸し返されて、さっきはいやらしい妄想をしていたんだろうと追求されかねん!


 かといって、『母さんが幸せなら、俺も幸せだ』とでも言えと?

 そんなの恥ずかしくて言えるか!!


 そりゃ、母さんが幸せなら嬉しいさ。

 そんなの当たり前だ。

 俺の存在が、母親の幸せに関わっているなら、自分にグッジョブをあげたい。

 でも思春期真っ只中な俺に、そのセリフを求めるのは酷だろ?

 酷なんだぞ?

 だって、思春期なんだもん。

 わかるだろ?

 そうなんだって!


 わかってくれぇぇぇ!!


 魂の叫びを脳内にこだまさせ、グッと目を瞑った。

 今後の展開が読めない恐怖と、処理しきれない状況から、目を背けたかったのだ。


 もう、好きにしてくれ。

 どんな流れになろうとも、それに身を任せ、俺は生きていくよ。


 罪人が裁判の判決を待つ。

 どんな裁定が下ろうとも、全てを受け入れてから、今後の事を考えよう。

 そんな心境だった。

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