第45話
夫婦って、最高じゃないか!
俺だって健全な男子だ。
そっち方面に興味があるのは普通の事だから、興奮するのは許してくれよ?
願望に近い、ただの妄想。
しかしそれが現実味を帯び、これからそうなっていくのだろうと思うと、ニヤつきが止まらない。
だが若干のテレや恥ずかしさから、耳を赤くしてクネクネ悶絶する。
突如結婚する流れになった事で、戸惑いや驚きを感じていた数分前の自分が嘘のようだ。
「くぅぅぅぅ!」
嬉しさから悶えていると、自然に声が漏れていた。
目の前のドアが、いつの間にか開いていたのに。
おそらく『最高だ』と叫んだ後だろうな。
「カイル、何をやっているの?」
母の声にハッとする。
変な所を見られたと瞬時に悟り、恐る恐る視線を上げる。
アレは何だろうな。
『怪訝な』というのが、一番正しいのだろうな。
母は息子の奇怪な行動に、自らの眉をひそめて、冷ややかに見ていた。
冷や汗がブワッと全身に湧き出始める。
どうする?
何て言えばいい?
今の俺の姿を説明しよう。
クネクネ悶絶しながら、『くぅぅぅ!』と声を漏らしながらな、その。
あれだ。
ティナを抱きしめる妄想をしていたから、自分の体に腕を絡ませていたんだ。
さぞかし変な姿を晒しているだろう。
『何をやっているの』だと?
フッ。
母よ、逆に何をしているように見えるか、俺に教えてくれないか。
そうすれば、突破口も見出せるんだがな。
だが、母は『私は問うた側。早く答えよ!』の構えで動かず。
こちらの出方を伺うように、ジッと俺の目を見てくる。
その視線は冷や汗を増幅し、心が焦り出す。
どうする!
背筋に冷たい汗が伝うのを感じる。
やはり問われているのはこちら側なのだから、俺が何かを言わなければならない。
しかし何を?
考える時間はあまりない。
間を空けすぎたら、余計に変な状況へ追い込まれるかもしれん。
そうなってしまえば、カイルは『いやらしい妄想して舞い上がってました』と自白しかねない。
そうならない為にも、投げやりだが作戦を発動する。
えぇい!もう投げかけてしまえ!
『逆に聞いてしまえ』作戦である。
そこから会話の糸口を見出し、妄想をしていた事を隠し通すつもりだ。
体に巻き付いていた腕を下ろし、スッと直立した。
「な、何をしているように見えた?」
表情をキリリとし、相対する母カータに告げる。
しかし愚直に投げかけた言葉を発した口元は、カイルの不安を表すように、ヒクヒクと痙攣した。
喋りながら震える口元。
もちろん気付いて震えないようにしようとしたが、完全に抑えることは出来なかった。
この現象がどのように影響するか、見守るしかなかった。
「そうねぇ。母さんが思ったのはーー」
母の口を開かせる事に成功し、カイルは微小な安堵を得る。
しかし何を話し出すか未知数な現状。
心臓の鳴りは、ドクドクと高いままだった。
それはまだ、これから起きる序章にしか過ぎなかったのに。
「抱きしめているのは『ティナちゃん』かしらね?」
心音が『ドクドク』から『バクバク』に変わる。
「おそらく新婚生活を想像したってところね。あとは、そうねぇ」
全てを言い当てられるような予感。
これ以上は深堀されない方が、ダメージが少なくていいだろうと、瞬時に判断する。
しかし話しを遮る以上、こちらも相応の事をしなければならない。
肉を切らせて骨を断つような気持ちで、俺は挑んだ。
「いや〜、さすがお母様!そうそう、そうなんですよ!ちょっとだけ!ちょっとだけなんですよ?結婚した後の事を想像してしまって!いや〜、さすがですね?なかなか、お目が高いですなぁ!ハハハッ!」
少し前に村に訪れた、怪しげな物売りの真似をした。
とても特徴のある話し方や手振り。
この話の流れを変えるくらいのインパクトはあるはずだ。
それに普段、俺は硬派な男を演じてきている。
いや、演じているわけではないが!
そうなりたいと努力している最中だという事だ!
決して無理をしているわけではない。
ん?待てよ?
それが演じているという事、なのか?
そうとも取れなくないか。
いやいや!今はそんなのどうでもいいだろ!
ともかくだ。
母の話す内容を認めた上で、強引に話しを変えにいくしかない。
そういう事だ。
集中、集中!
全力で、怪しい物売りを演じるんだ!
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