第38話

 「あ!カイルが来たぞ」

 「本当だ!」


 ラクラス村の住人が、俺の接近に気づく。


 「カイルが通るぞ!道を開けてやれ!」


 その声を発端に、人混みの中から門外に通づる道ができる。

 俺は、そこを突っ切った。


 「頼んだわよ、カイル」

 「まかせたぜ」

 「カイルさん、お願いします」


 「あぁ」と返事をしながら通ったが、皆、不安そうな顔をしているのが見えた。

 嫌な予感がする。

 そして人混みを抜けた先の光景で、嫌な予感は動揺に変わる。


 四人組で、男性のみで構成されている武装したパーティ。

 戦士三人と、魔法使いらしき者一人。


 動揺に焦りが伴い始める。


 先頭の男は、『俺は勇者』と言わんばかりの兜を輝かせ、両手剣を背中に携えている。

 そして脇の二人は『槍使い』『弓使い』と、どの距離にも対応できる、バランスの良いパーティ構成。


 そして極めつけの魔法使い。

 いかにも『魔法使いますよ』的な、鉄杖を携えている。

 おまけに筋肉量が多い体つきをしており、白兵戦もこなせそうだ。


 『勇者』だけでもまずいのに、『魔法使い』までいるとは。

 マズイかもしれない。


 カイルは魔法使いを見たのは初めてだった。


 俺の『一刀両断』は、魔法にも通用するのだろうか。

 どんな物でも切り裂く事ができるが、魔法に対して効果があるのか疑問だ。


 魔法を試し切りをした事は一度もない。

 もしスキルが通用しないのなら、敵わないかもしれない。

 だが、戦う事になるのであれば、立ち向かわなければならないのだ。


 穏便に済めば良いが。


 荒ぶる息を整え、カイルは勇者らしき男に向けて、口を開いた。


 「何の用だ」


 俺がそう言うと、男は確認をする。


 「君が責任者かい?」


 責任者。

 本来であれば、村長が責任者になるだろう。

 しかし、その場にいない様なので「そうだ」と答える。


 「良かった。お聞きしたい事と、お願いしたい事がありまして」

 「なんだ」


 回りくどい言い方。

 見方によっては丁寧とも取れる。

 俺は、勇者らしき彼の発言に注視した。


 「まずお聞きしたい事ですが、この辺りで『魔王』、もしくはその軍勢を見ましたか?」


 俺の全身に、雷の様な衝撃が走る。


 「魔王だと?」


 思い当たるのは妹の事。


 騎士団が。

 いや、元騎士団の連中が、プリシラの事を『魔王様』と呼んでいた。

 おそらくだが、妹のことを指している。


 そう思うと、カイルは明らかに動揺し、その感情が表情に出てしまう。

 それを彼は見逃さなかった。


 「その顔、何か知っていそうですね」


 心を覗き込む様な眼差しを俺に向ける。

 時すでに遅しだが、俺は表情を引き締め直し、彼に問うた。


 「知っていたとして、この村に何の用だ」


 俺の警戒する気配を感じ取った彼は、誤解を招かない様に、諭す様に言った。


 「安心して下さい。我々は、魔王を討ち滅ぼすのが目的なのです。悪の軍勢により、危害を加えられていたり、脅されていたりするのであれば、我々がお救いします。だから、そんなに警戒しないで下さい」


 本心からくる柔らかい笑顔で言う勇者(仮)の男。

 警戒を和らげる為なのだろうが、それを聞いたカイルは、冷静ではいられなかった。


 プリシラを討ち滅ぼすだと!?

 それはつまり、俺の妹を亡き者にするって事だよな?

 俺の妹を?


 プリシラの愛らしい顔が浮かぶ。

 俺や両親に向ける、天使の様な笑顔。


 なぜ?何の為に!?

 そんな事、断じて容認できない!

 容認できるわけないだろう!

 アイツが何をしたって言うんーー。


 ポヤンと、『暴虐』でラクラス村を滅ぼしかけた昔の記憶が蘇った。

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