第37話
ハァ、ハァ。
非常事態用の皮鎧を装備していると、少しだが動きづらさを感じる。
そのせいか急ぎ走っていても、普段より若干速度が遅い。
しかし相手が武器を所持している以上、最大限に備えなければならない為、装備を身軽にするわけにいかない。
どんな用件で来たのだろう。
走りながら、色々考えを巡らす。
『非常事態』とはラクラス村、ひいては村人に対して、外部要因の脅威が迫っている事を指している。
その段階はレベル『1』から『5』までランク付けしており、レベル『1』は顔見知りではない武装した人物、もしくはパーティが、この村に近づいて来ている場合だ。
例え貧相な装備だとしても、実力は未知数の為、油断をせずに警戒する為に、俺がそう定めた。
レベル『2』は、ラクラス村に対して、明らかな敵意や悪意を感じる人物、もしくはパーティが訪れた場合。
レベル『3』は、自警団だけでは対処出来ないかもしれない脅威が訪れた場合。
十人程度の、腕の立つような集団がコレに該当する。
レベル『4』は、ラクラス村の存亡が難しい程の脅威が訪れた場合。
訓練された軍隊や、百人以上の荒くれ者達などを想定しており、村を放棄して逃げる選択をしなければならないレベル。
そして最高レベルの『5』。
これはティナの為に設けた段階。
レベル『4』ではカテゴライズ出来ないような、計りし得ない力を持つ人物が訪れた場合だ。
この世界に本当に居るかどうかわからないが、風の噂で聞く『勇者』や『魔王』などの伝説級の存在がそれに該当する。
なぜ『勇者』が該当するか、疑問だよな。
ティナの『絶対人質』。
おそらくだが、そんな伝説級の人物達にも、例外なくスキルは発動するだろう。
そうなった場合、誰が彼女を救えるだろう。
無論、俺は無条件で救おうと行動するが、果たして何処まで自分の力が通用するか、分からない。
毎日鍛錬し、ある程度自信はついている。
ついてはいるが、ティナを救う為に、俺の命と引き換えになるかもしれない。
いや。
それも、烏滸がましい考えかもな。
そうならない為にも、レベル『5』に該当する様な事態が発生したら、即座にティナを連れて逃げる事を決めている。
だがこの村以外に、ティナは安息を得るのは難しいのだから、それも茨の道になるだろう。
悲しいスキル。
本当に、何の為に存在する能力なんだろうか。
改めて思い、苦々しさから目線が下がる。
流れる地面を見ながら悲哀にくれていたが、大きな声に気を取り直した。
「責任者は、まだですか!」
二十代前半らしき男性の声。
その声は、人だかりが出来た門外から響いていた。
無理に押し通る事はせずに、『責任者』の到着を待っている。
だがその事実が、カイルの心に焦りを生じさせる。
荒くれ者ではないのか。
ハッシュがレベル『5』も有り得ると言っていたのは、この事か!
良く出来た人物。
その人物が率いるパーティ。
『勇者』一行かもしれないと、カイルも疑わざるを得なかった。
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