第35話

 「嗚呼、俺は今後どうしたらよい。義理の息子となる存在に、どう接していけばよいのだ」


 ガイナスは悩んでいた。


 「ニーナと一緒に入浴している事が、バレてしまった。今後は控えなければいけないが、あの時間を失ってしまうのはーー。嗚呼!考えただけでも悲しい!」


 妻との入浴。


 彼の人生において、大切な事柄の一つ。

 一日過ごした疲れを、温かい湯に浸かりながら取り、夫婦の会話を楽しむのが、ガイナスにとっての幸せだった。


 「しかしニーナとイチャついているのが、ティナにバレていたとはーー」


 改めて娘の発言を思い出し、布団の中で悶絶しだす。


 「くぅぅ!痛恨のミスだ!ニーナに甘えている俺の姿を、ティナには見せたくなかったのに!」


 ガイナスは迂闊だった自分に後悔していた。


 彼は昔から、『漢らしい男』のイメージを守り続けてきた。

 それは冒険者として、他の者にナメられない為に始めた事だった。

 それを長年続けた事により、いつしかそれが板につき、『漢らしい男』キャラが定着したのだ。

 しかしその実は、『漢らしい男』を無理に演じる、甘えたがりの恥ずかしがりであった。


 そう。


 カイルの本質とは若干の違いはあるものの、

ガイナスとカイルは同類なのだ。


 「くぅぅ!娘と顔を合わせるのも気まずい!ニーナは『いいじゃないの〜。私達夫婦なんだから、気にしなくても〜?』なんて、呑気な事言っていたが、俺は娘に、男らしい父親と思われたいんだよぉ」


 そう言いながら、苦悩していた。


 さすがに今日の登板は、無理強い出来ないな。

 強制的に連れ出した場合、今後のイベントで使命を果たす事が出来なくなるかもしれない。


 しかし、カイルの硬派率を上げる為には、どうしたらいいのだろう?


 『ガイナス』の特殊召喚が失敗に終わったが、召喚されずに失敗したからこそ、作者のターンは継続されている。

 手札は『ベイル』『ニーナ』『ハッシュ』の三枚。

 ベイルとニーナでは、堅固なドアを突破出来る手段がない。


 そうなると残りは『ハッシュ』のみ。

 彼は普通の門番。

 スキルも『普通』で、特に顕著な能力を持たせていない。

 しかし使うしかない。


 どうなるか分かりませんが、行くしかありませんね?


 作者は期待をしていないが、『ハッシュ』カードに指をかけた。


 門番、『ハッシュ』をフィールドに召喚!

 お願い!何か起こして!


 祈る気持ちで『ハッシュ』カードを、バシッと叩きつけた。

 カードが輝き、ハッシュが姿を現す。


 ハッシュを召喚。

 これが作者にとって、光明が差し込む一手となる。


 彼は焦った表情で、カイルの家に向けて走り出した。

 そして叫ぶ様に訴える。


 「カイルさん!大変!大変です!」

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