第34話

 カイルは残された男らしさを振り絞り、ティナを心配させまいとする。


 「大丈夫だ。少し、一人にさせて、くれ」

 「う、うん。お母さんの手伝いが終わったら、また様子見に来るね?」

 「あぁ」


 ティナは「また後でね」と言い残し、その場を離れた。

 カイルは自分のターンに、トラップカードを仕掛けて『ターンエンド』を宣言した。


 トラップカードか。

 何を仕掛けたんだろう?

 しかし、恐れず行くしかない!


 三度目の攻防が幕を上げる。


 作者は苦悩していた。

 手持ちカードは『ベイル』『ハッシュ』『ニーナ』『ガイナス』が残っている。

 その選択肢の中、必然的なのだろう。

 作者は『ガイナス』カードに手を伸ばしていた。


 不自然には、なってしまう。

 いきなり他人の家に上がり込み、ドアをぶち破るなんて、どうかしてる。

 そんなの狂人の行いだ。


 だけど、現状を打破するには『ガイナス』しかいない。

 『ベイル』と『ニーナ』では期待するのも酷だし、『ハッシュ』に至っては、何故手札にあるかのすら不明だ。


 『ハッシュ』の固有スキルは『普通』。

 ラクラス村の門番で、全てにおいて普通の脇役キャラ設定にしてあるんだから、何かを打開する力はないはず。


 そうなると、おのずと『ガイナス』しかいない。

 彼に頼る他、選択肢はないんだ。


 作者は苦悩の末、『ガイナス』カードを掴んだ。


 『作者のターン』


 出来れば使いたくなかったです。

 なぜなら、これにより、両家の関係に不穏な空気が流れ、亀裂が生じてしまうかもしれない。


 しかし!


 例え、そうなろうとしても。


 そうなる可能性が、高いにしても!


 私は、主人公を救わなければならないっ!


 作者は力強く打ち付ける様に、カードをフィールドに出した。


 『ガイナス』をカイルの家に特殊召喚します!

 打ち破れ!

 元最高ランク冒険者、ガイナスよ!


 どこからともなく、黙示録のようなテーマソングが流れてくる。

 この作品が築いてきた、ほっこりした空気感が破壊されてしまうかのような。

 しかし作者は、固い決意を押し通す。


 後悔はしない。


 全ては物語を完結に向かわせる為。


 その為には、如何なる犠牲にも目を瞑ろう。


 そうです。


 全てを壊してでも、私は、カイルを先に進まなくてはならないのです。


 その為に私は。


 私は!


 鬼でも何でも、なってみせます!


 作者の目が赤く閃光し、骨格が変貌していく。

 頭部に凶々しいツノを生やし、作者はクリエイトの鬼になった。

 別人の様に、低くしゃがれた声で叫ぶ。


 私の力、その一端を見せてやろうぞ!


 その声に呼応し、カイルの家を取り囲む様に、暗雲が集まり、雷光が咆哮を始める。

 天候すら、いとも簡単に操る事が出来る力。


 作者は絶大な権限を、見せつけるように発現させていた。


 『誰に?意味不明だし』という突っ込みはしないで下さい。


 暗雲の中で、雷が蓄積されていく。

 高圧な光の集合体。

 そう呼ぶにふさわしい仰々しさ。

 それが弾ければ、最大級の落雷とともに、『ガイナス』特殊召喚が行われる。


 時は満ちた。


 膨れ上がった雷光に、作者は手をかざす。


 ゆけ!『ガイナス』。

 全てを貫け!


 鬼作者は掌をギュッと握った。

 その瞬間に光の集合体が弾ける。


 本来であれば落雷が起き、特殊召喚が行われるはずだった。

 しかし落雷どころか、暗雲が霧散し、陽の光が差し込む。

 一転して広がっていく青空。


 な、なぜ?


 訳がわからず、狼狽える作者。

 『ガイナス』は召喚されず、フィールドに出したカードは消えていく。

 それは特殊召喚が叶わず、失敗に終わったことを意味していた。


 特殊召喚が、失敗?

 何故そんな事に。


 はっ!


 前のターンに、カイルの仕掛けたトラップカード。

 その何かしらの効果が、発動したに違いない。

 特殊召喚を阻害する何かを。


 そう思い、急ぎ確認する。

 しかし。


 あ、ありえない。


 トラップカードは裏返しのまま、発動すらしていない。


 ありえない、ありえない、ありえない!


 作者の動揺を、薄暗い部屋で『イヒヒ』と嘲笑するカイル。

 そんな笑い声が響き、作者は冷静になる事ができず、他者へ戸惑いをぶつける。


 どういう事なんだ!

 何故召喚されない?

 説明しろ、ゲームマスター!


 このフィールドを取り仕切るゲームマスターは、粛々と応える。


 『ご説明致します。現在、ガイナスは召喚出来ない状態です。よって、特殊召喚および通常召喚は、全てキャンセルされます』


 だから、何故召喚出来ないのか聞いているんだ!


 『ガイナスは現在、精神状態が著しく良くない為、自らの寝室より外出を拒んでいます』


 外出を拒む?

 え?

 カイルみたいって事?


 『はい。昨晩、娘が言い放った、暴露話のダメージが癒えていない様です。よろしければ、現在の状態を、モニターで確認出来ますが、ご覧になりますか?』


 う、うん。


 語気が弱まると同時に、作者の鬼モードは解除される。

 そして、ゲームマスターに促されモニターを注視した。

 ぼんやりと映し出された画面が、時間と共にクリアな映像を映し出す。

 そこに出てきたのは、芋虫の様に頭だけを布団から出し、丸く縮こまっていたガイナスだった。

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