第33話

 こんにちは。

 『闇の住人』、カイルです。


 いや、『闇の住人』というのは、おこがましいかな?

 とりあえず、『闇見習い』としておきましょう。


 どういう事か、ですって?


 仕方ないですね。

 説明して差し上げましょう。


 カーテンを通り抜ける弱々しい光。

 そんな薄暗い部屋で、ベットの上で体育座りをするカイル。

 暗鬱げな表情で、シーツのシワを指でなぞり、イジイジといじけている。


 私は今、もう昼だと言うのに、薄暗い自室に閉じ籠っています。

 そう。

 この暗がりが、今の私には丁度良いのです。

 今日は誰とも会いたくないですからね。


 幸い、警備のシフトは入っていないから、今日は部屋を出なくていいのです。

 一日中、こうやって引きこもる事が出来るんですよ。


 フヒヒと怪しげな笑みをするカイル。

 しかしその目は、悩みを抱えて淀んでいた。


 ずっとこのままがいいんですけど、明日は、どうしたらいいんでしょうか?


 明日は警備のシフトが入っている為、否が応でも出なければならない。

 引き籠れるのは今日だけだ。

 だがカイルは、性別が変わったの如く、乙女のような思考回路で悩んでいた。


 ハッシュ君に、シフト代わって貰おうかしら?

 でも、ハッシュ君が連続勤務になっちゃうし、迷惑かけちゃうよね。


 そうよね、うん。


 ハッシュ君が可哀想よ。

 頼めないわ。

 それに部屋から出たくないんだから、連絡手段もないし、どうしようもないわ。


 カイルは女々しく苦悩する。


 あぁ!でもでも!

 他の人に顔を合わすのは避けたいわ!

 まだ私の心は、そこまで修復出来てないのよ?

 恥ずかしくて耐えられないわ。


 カイルは昨夜、恥ずかしメーターが振り切ってしまい、情緒が不安定になっていた。

 些細な事にも耐えられる自信がなく、もはや別人の様だ。


 どうしたらいいの?

 私、どうしたらいいの!?

 教えてよ!妖精さん!


 架空の存在に教えを乞う主人公。

 作者が戸惑うほど、カイルはキャラ崩壊を起こしていた。


 このままでは、今まで築き上げてきた硬派なキャラが台無しになってしまう。

 彼のイメージを守る為にも、どうにかしなければ。

 作者は手札をきった。


 『作者のターン』

 開幕して直ぐで申し訳ない。

 しかし早く大筋の物語を進めたいので、最強の手札を使わせてもらいます。

 行きなさい!

 『慈愛』の使い手、カータ!


 作者はカータを召喚した。


 コンコン。


 「カイル、もうお昼よ?ご飯要らないの?」


 カイルの返事はない。

 カータはドアを開こうと、ドアノブに手をかけた。


 返事をできないほど疲弊していても、『慈愛』スキルで心を落ち着かせれば、こっちのものです。

 適当に宥めて、次のイベントに進んでもらいましょう。

 さぁ、カイル。

 元の硬派キャラに戻るのです!


 しかし。


 トラップカード発動。

 『ドアに鍵掛け』の効果により、カータの侵入を防ぎました。


 「あら、開かないわ?おかしいわね」


 カータは部屋に入れない。

 視野に入れる事ができない為、『慈愛』効果は適用されませんでした。


 何だって!?

 カイルの部屋に、施錠できる鍵など設置していないはずなのにーー。


 戸惑う作者をよそに、ゲームは進む。


 『カイルのターン』

 カイルは効果カード『深まる闇』を使用しました。

 これにより闇属性が一段階上がり、より硬派率が下がります。


 硬派率が下がる?

 どんな効果があるの?


 ゲームマスターが解説する。


 硬派率が下がると、男らしさが失われていきます。

 今のカイルは、硬派率がゼロに等しいので、『深まる闇』効果により、硬派率がマイナスになります。


 マイナスに?


 はい。


 どうなるの?


 会話の間に「イヒヒ」と気持ち悪い笑い方をするようになります。

 

 主人公が「イヒヒ」なんて笑い方したらマズイでしょ!

 それじゃあ悪役か、裏切り者みたいに思われちゃうよ。

 何とかしないと。


 しかし父ベイルを召喚しても、部屋に入れないから、『汚れ落とし』効果は期待できないよね?

 ドアに掛かる鍵をなんとかしないと、突破口が見えないから、えぇと。


 手札には、『ティナ』『ベイル』『ハッシュ』『ニーナ』『ガイナス』がある。


 どれも鍵を攻略出来そうにないなぁ。

 唯一『ガイナス』のパワーで破壊できる可能性はあるけど、いきなり他人の家に上がり込んで、ドアを蹴破るのは不自然だし。

 どうしようかな。

 やっぱり、困った時はヒロインかな?

 なんだかんだで、良くなるかもしれない。

 だって、『ヒロイン』なんだから。

 よし!


 『作者のターン』

 カイルの弱点と言っていい、『ティナ』を場に召喚します!

 これで彼もイチコロでしょ!


 ティナをカイルの部屋に隣接する外壁へ召喚しました。


 「カイル〜?まだ寝てるの〜?」


 ティナは間延びした声で、カーテンが閉まる窓から呼びかける。


 何故外壁に出したか、だって?

 外壁に召喚することによって、子供の頃にあったシチュエーションを再現したんですよ。

 ほら、壁越しに話し合ったアレです!

 過去を思い出し、自分の本質を今一度、想起してもらう戦法ですよ。

 あの頃の俺は、こんな女々しい男じゃなかっただろう?ってね!


 それに彼女の声を聞いて、心に安らぎをもたらす効果も期待できる。

 さぁ、どう出る?カイル君。


 「ティナ?」


 効果抜群だ!


 カイルは少し自分を取り戻し、呼びかけに対して応えた。


 「寝てるわけじゃないよ。ちょっと、な」

 「ちょっと〜?」


 良いよティナちゃん!

 グイグイ攻めちゃって!


 しかしティナは、持ち前のアレを発する。


 「昨日の事かな?」


 空気を読まない発言。

 それにより、カイルのトラップカードが発動した。

 『それ以上言わないで』カード。

 これの効果は、今は触れないで欲しい言葉を投げかけられると、精神へのダメージが二倍になる。


 まだトラップカードが?

 しかもティナちゃんとの相性最悪な効果だよ。

 天然で抜けてて空気読まない感じが、この娘のいい所なのに。

 完全に裏目だなぁ。

 どうしよ。


 作者の予想を裏切らない、ヒロインのティナ。


 「今度はカイルから、私、キスされたいな〜」


 カイルの精神に著しいダメージ。


 「ふふ。昨日、好きって言ってくれたの、凄く嬉しかった!」


 カイルの精神負荷が限界を迎えました。

 これにより『闇見習い』から『闇の住人』へと進化しました。


 進化しちゃったよ!

 失敗したなぁ。


 カイルの体に、暗黒の闘気が立ち上り始める。


 あ〜あ、闇のオーラを纏う様になってしまった。

 これ以上ティナちゃんを使うと、カイルが『闇の支配者』にランクアップしちゃうよ。


 仕方ない。

 ティナちゃんは一回、離そうか。


 「あっ!いけな〜い!私、そろそろ行かないと」

 「イヒヒ!どこ行くんだい?」

 「えっ!?」


 聞き慣れない声色と口調に驚くティナ。


 「その、お父さんがアレだから、お母さんの手伝いにーー。カイル、大丈夫?」


 彼女は異変を感じ、カイルの心配を始める。


 『イヒヒ』使い始めちゃったよ。

 聞いた事ないから、ティナちゃんが戸惑い始めちゃったじゃない。


 はぁ。


 こんなの、作者が思う主人公じゃないよ。

 それになんか、オネェって言うよりは、毒リンゴ持ってる魔女みたいな話し方になってるし。

 うぅむ、どうしたらいいんだろう。

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