第23話

 馬車が見えなくなると、俺は両親に聞いた。


 「どうして、あんな大人数で迎えに?」

 「あぁ。それはだな、このまま仕事に向かうらしい」

 「このまま?」


 父の返答に、俺は驚くと同時に心配の念が沸いた。

 そうだとしたら、プリシラの休暇は、実質一日程度という事になる。

 就業体制が、どんな感じなのか分からないが、働きすぎではないのだろうか。

 ましてや、休暇が終わり次第、仕事に向かわなければならないとは。


 「その、どんな仕事なんだ?危ない仕事なのか?」


 プリシラの体調を心配する以外にも、もう一つ心配事がある。

 まるで戦に行くかの様な、仰々しい格好をする連中が二百人程度。

 そんな集団に付いていくのだ。

 荒事に巻き込まれるに決まっている。


 俺の質問に、母が答える。


 「この近くにね、悪さをするグループが出たらしいの。それを討伐しに行くって団長さんが説明してくれたわ」

 「悪さをする?」

 「そう。その為には、プリちゃんが必要なんだって」

 「そうか」


 やはり荒事じゃないか。

 うぅむ、心配だな。


 俺が顔を顰めていると、母は陽気に背中を叩いた。


 「大丈夫よ!プリちゃんは強いから!」

 「母さん」


 母カータの慈母の様な笑顔を見ると、俺の杞憂は薄れる。


 そうだよな。

 プリシラは『暴虐』の持ち主。

 身体能力はズバ抜けている。


 「魔王と呼ばれるくらいだしな」

 「そうよ!でも魔王って悪者の一番上らしいわね?」


 やはりそうだったか。

 俺の常識は間違っていなかったんだな。


 「そうだと思ったよ」

 「ウチのプリちゃんを、悪者扱いするなんて許せないから、その呼び方はやめてもらう事にしたわ!」

 「そうか」


 珍しく声を荒げる母。

 余程気に入らなかったのだろう。


 だけど、最初喜んでいたんだがな。

 まぁ、ズレが一つ修正出来たから、良しとするべきだな。


 「それに自分達の事、『魔王軍』なんて名付けているのよ?プリちゃんに対して、酷いと思わない?」


 まだ言い足りない様だ。

 大人しく聴くとするか。


 しかし自らを魔王軍と称するとは。

 ん?

 という事は、プリシラが一番偉い立場なのか?

 いや、それはないか。

 まだ半年しか働いていないんだ。

 それはない。

 それはない、よな?


 正直なところ、妹の『暴虐』に平伏し、隷属的な扱いを受けていたとしても不思議ではない。

 安易に想像できる辺り、それが真実であると思えてくる。


 「聞いてるの?カイル」

 「あ、あぁ」


 まだ話が続いていたか。


 「だからね?魔王軍って名称を変えたの!」

 「そうか」


 なんだろうな。

 元々騎士団なのだから、また騎士団と称すれば良いと思うが。

 俺が名付けるとしたら、そうだな。

 『雷鳴騎士団』だな!

 プリシラの呼ぶ雷雲を捉えた、素晴らしき命名だろう!


 だが、母の口から出た言葉は、騎士団からはかけ離れていた。


 「今日から『プリちゃん戦隊』になったのよ?正義の味方みたいで、格好良いわよね!?」

 「僕もそう思うよ!困っている人達を救うヒーロー達!いやぁ、僕も子供の頃、憧れたなぁ!」

 「あら、そうなの!?それじゃあ、今度プリちゃんが帰って来たら、私達も入れてもらいましょう?」

 「い、良いのかな?」

 「良いに決まってるじゃない!私達、家族なんだから!」

 「そうか、そうだな!よぉし!」


 ツッコミどころ満載の会話が、俺を置き去りにして流れていく。


 何が『よぉし!』なんだろうか。

 それに母の『私達』には、俺も含まれているんだろうか。

 というか『プリちゃん戦隊』ってネーミングセンス。


 「カイル!」

 「な、なんだ」


 父の鬼気迫る圧に、思わず気圧される。


 「父さんは、『プリちゃん戦隊』で、人助けをするぞ!」

 「そうか」


 父の決意。


 子供の頃夢見た存在に、彼は成ろうとしている。

 彼の人生だ。

 たった一度きりの時間だ。

 いまさら目指したところでどうするなど、誰が言えようか。

 というか好きにしてくれ。


 「母さんも、『プリちゃん戦隊』で頑張るわ!」

 「そうか」


 父ベイルの夢を、寄り添って応援する母。

 素晴らしい夫婦。

 お互いに補いながら、戦隊としてやっていくのだろう。

 そんな二人を誰が止めれようか。

 というか好きにしてくれ。


 「カイル!後方支援は私達に任せて、お前は、プリシラと一緒に、敵をやっつけるんだ!」


 やはり、俺も含まれていたのか。

 拒否権はないのだろうな。


 「まぁ!もうそんなビジョンまで見えてるの!?貴方、流石ね!」

 「フフッ!全てを見通し、的確な指示を出す。僕は、そんなボス的なポジションを担うよ!」

 「もぅ!父さんったら、素敵!」

 「そうかい?ハハハッ!」


 リーダーはプリシラ。

 『プリちゃん戦隊』って冠が付くからな。

 そのリーダーやメンバーに、最適な行動を取らせるボス、か。

 妹に指示を出せるのは、両親しかいないから、適任なんだろうな。


 うん。


 好きにしてくれ。


 「いやぁ!プリシラ早く帰って来ないかなぁ!」

 「フフッ!父さんったら。そうだわ!」


 母が何か閃く。


 「お揃いのコスチュームが要るんじゃない?」

 「そうだね!プリシラがメインだから可愛い感じになるだろうけど、僕とカイルの分は少し男っぽさが欲しいなぁ!」

 「そうなのね!これは忙しくなるわぁ!」


 子供の様に、はしゃぐ両親。

 このテンションについていけない俺は、人としておかしいのだろうか。

 だが、一つだけ想うことある。


 両親が仲良くて良かったなぁって。


 という事で、『プリちゃん戦隊』の次回予告をどうぞ。


 遂に結成された『プリちゃん戦隊』!

 ドストラーデ率いる、悪の軍団を退治する為、プリちゃん戦隊は突き進む!

 全ては家族の為!何より兄の為に、全てを討ち滅ぼすプリシラちゃん!

 しかし圧倒的な数に押され、味方は一人、また一人と消えていく。

 そして、プリシラちゃんにも、疲れが見え始めてしまう。


 プリシラ「ちょっと、疲れてきちゃった」

 ドストラード「フハハ!もはやここまで!楽しませてもらったぞ?人間の小娘よ」


 追い詰められたプリちゃん戦隊は、この苦境を抜け出す事が出来るのか!?


 『プリプリプリティ⭐︎プリシラちゃん』


 次回、『希望は捨てない!』


 プリシラ「ここで私は死ねない。死ぬわけにいかない!生きて、お兄ちゃんに抱っこして欲しいから!」


 絶対見てくれよな!

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