第21話

 「レディース、エンド、ジェントルマン!決勝の舞台へようこそ!」


 タキシードを着込み、煌びやかな舞台で、司会の男は群衆に向かい叫んだ。

 言い終わると同時に起こる歓声。


 フフッ。

 大盛り上がりだな。

 それもそうか。

 これから『世界一の妹決定戦』、『イモワン』の決勝なのだから!


 「今宵、ついに優勝者が決まります!数多の激戦を制してきた強者。そのどちらかが、頂点を手に致します!」


 場を盛り上げる司会者。


 「どちらを応援するかは、貴方達の自由。しかし、両者の登場には、惜しみない盛大な拍手をお願いします!」


 ドワッと起こる歓声。

 そして賛同の意の拍手。

 スタジアム型の会場が、一気に熱を帯びた。


 どちらを?

 愚問だな。

 俺の選択など、決まりきっている。

 間違って対戦相手を応援することなど、ありえん!


 「いやぁ、ついに決勝ですね!」

 「えぇ!今回は波乱続きですから、決勝も目が離せませんよ!」


 実況の男二人が、会場の熱気に当てられ、興奮気味に喋り出した。


 「そうですね!まさか、この対戦カードが揃うとは、誰も予想していませんでしたからね!」

 「そうでしょう?まったく予想がつきません!優勝候補にも食らいつく可能性がありますからね!」

 「その通りです!それでは、選手登場を見守りましょう!」


 実況の男がそう言うと、会場の照明が暗くなって行く。

 そして一筋のスポットライトが、入場口を照らした。

 静まり返る会場。

 その登場を固唾を飲んで見守る群衆。


 ここは俺も静観しよう。

 これから戦う相手だ。

 じっくり観察して、弱点を見つけなければな!


 「それでは登場してもらいましょう!強者揃いのAブロックを制した強者。いま最も頂点に近き者。ルシル!フォールディングス!!」


 「ウォォォォ!」


 テーマ曲が流れ始め、会場を騒めさせる。

 そして紙吹雪がブワッと吹き出した。

 ヒラヒラと舞う、キラキラした吹雪。

 派手な演出。

 その中心部に人影が現れた。


 「イェーイ!」


 Vサインを出しポーズを決める少女。

 おてんば娘の言葉が、良く似合いそうな出で立ち。

 そして、あどけなさが残る顔で、観衆に愛嬌を振りまいている。


 「ルシルちゃ〜ん!」

 「応援してるわ!頑張ってぇ!」

 「ルシル!ルシル!」


 群衆達が、彼女に向け観声を上げる。

 熱狂的なファン。

 老若男女問わず、彼女を応援している。


 ふむ。

 ルックスは決勝に残るだけあるな。

 おまけに人気があると来た。

 強敵だな。


 「出てきました!今大会、優勝候補筆頭!ルシル選手です!」

 「いやぁ、流石の立ち振る舞い!一部の隙もないですね。まさに本命といった所でしょうか?」


 優勝候補筆頭か。

 いや、それも納得だ。

 あれ程、晴れやかな笑顔を見せられてはな。

 ハッキリ言うが、ハツラツとした姿が良い。

 見ていると元気を貰っているように感じる。

 だが!

 俺を惑わす事は出来んぞ!

 ルシル・フォールディングス!


 「そうですね!ルシル選手は、優勝候補という重圧を跳ね除け、数多の強敵を負かしてきましたから!もはや、王者としての貫禄すら、見えているような気がします!」


 ほう?言うじゃないか。

 訳を言ってみろ。


 「そうかも知れませんね。『コスプレマスター』ミキ選手や、『最強のおにいたん使い』パーシー選手を打ち破って来ましたからね。相当な自信を、獲得出来たと見ていいでしょう」


 なるほど。

 確かに『コスプレマスター』は凄かったな。

 家族好みの服装を見抜き、それを着こなすセンスを持ち合わせていた。

 だがな、俺はもう体験している。

 俺には何のアドバンテージにはならないんだ。


 あと『おにいたん使い』のパーシーちゃんか。

 彼女も強かった。

 確かにアレは、反則級の可愛さがある。

 あんな小さい体で、『おにいたん?』と呼ばれたら悶絶物だ。

 油断したら一瞬で刈り取られる。

 しかしだ。

 あれだけ歳が離れると、もはや実子の様に見えてしまう。

 『イモワン』の趣旨から外れているんだ。

 良いキャラクターなんだが、な。


 「パーシー選手を制したのが、一番大きかったですかね?」

 「私もそう思います。彼女も優勝候補でしたから。何せ唯一の『おにいたん使い』!そして若干八歳の幼さを駆使した笑顔!あれはもはや、天使の領域でしたね!」

 「わかります!あんな妹がいたら、もう守らざるを得ませんよね!」


 分かる。

 めっちゃ守りたい。

 守って頭撫でたい。

 しかし、俺には心に決めた人がいるんだ!

 すまん!パーシー!


 「そんな彼女を打ち破り、この決勝に進んだルシル選手!『世界一の妹』の称号は、もう目の前か!?」


 白熱する解説。


 ルシルは観衆の声援に、手を振りながら応え、中央のステージに向かう。

 はしゃぐ姿。

 弾ける笑顔。

 そして守ってあげたくなる線の細さ。

 完璧に近い。


 「あ、あぁ!ルシルちゃん!」

 「お、おい!」


 そんな彼女と目が合い、キュン気絶する者が現れる。


 流石、優勝候補は伊達ではないな。

 目線一つでメロメロにするとは。


 「流石、ルシル選手ですね!手を振りながら歩くだけで魅了してしまうとは」

 「えぇ。私も見つめられたら、耐えられないかもしれません」

 「魔性の瞳という事でしょうか?」

 「いえ、彼女に、そんな邪な物はないでしょう。彼女の溌剌としたオーラと可愛さが相まり、そうさせるのでしょう」

 「なるほど!」


 ルシルは中央のステージに立つと、マイクを握りしめた。


 「みんな〜!絶対優勝するから、応援してね〜!」


 「ウォォォォ!」


 呼応する声が地鳴りのようになり、会場を激しく揺らした。


 凄い人気だな!

 元気っ子だから当然なのかもしれない。

 正統派。

 その言葉は、彼女にこそ相応しいのかも、な。


 元気いっぱいに動き回り、愛嬌を振りまく。

 そして、活発な女の子を体現する性格。

 だが、時折失敗したときに見せる、困ったような切ない表情のギャップに、魅了されたファンが多い。

 そして何より、諦めずに頑張る姿。

 逆境だろうと、前を向いて進み続ける力強さに、声援を送らざるを得ない。

 応援したくなる。

 そんな存在。


 最強の相手だ。


 「お聴きください!この大声援!会場が一つになり、大きく揺れております!」

 「いやぁ、これはもう優勝でしょう!勝ち目あるんですかね?」


 なんだと!?

 まだ戦ってもいないのに、勝手に勝敗をつけるなど、断じて許さん!


 「分かりませんよ?何せ、まだ登場すらしておらず、誰も彼女の事を知らないのですから!」


 そうだぞ!

 良い事言うじゃないか。

 実況ナンバー壱よ。


 「そうなんですよねぇ。ここまで全て、不戦勝で勝ち上がって来ましたからね。こんな幸運見た事ないですよ」

 「もしかしたら、それが彼女の『スキル』なのですかね!」


 フフッ。

 『スキル』は関係ないさ。

 全ては俺の、さじ加減次第。


 「どうなんでしょう?十五歳の少女という情報以外、何もわかりませんからね!」

 「ですね!しかし、歴代最高とも謳われるルシル選手に、何処まで対抗できるのか、いやぁ!楽しみです!」


 心配するな。

 今から思い知らせてやる。

 如何に可愛く、如何に清らかな心を持っているかをな!


 声援鳴り止まぬ中、再び照明が落とされる。

 そして、ルシルちゃんが出てきた反対側に、スポットライトが当てられた。


 「未だ、その姿を見た者は居ない。Bブロックを全て不戦勝で勝ち上がった『ラッキーガール』。果たして彼女の実力は如何程なのか。今宵、そのベールは脱がされる!」


 司会者の言葉に、会場全てが息を飲む。

 ようやく明かされる、謎多き少女に対して、皆の視線は一点に集中した。


 「登場してもらいましょう!『エンジェルスマイル』!プリシラ選手の入場です!!」


 ようやく訪れた瞬間に、観衆達のボルテージは最高を迎える。

 再び地鳴りを起こし、会場を彩り始める。

 スモークが勢い良く吹き出し、登場を煽っていく。


 さぁ行け!

 プリシラこそ、『世界一の妹』だと、世界に轟かすのだ!

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