第12話
「ちょっと待てぇ!」
「どうしたの?」
思わず叫んで、下されるファスナーの動きを封じ込める。
なんかダメだ!
そりゃ今まで、同じ部屋で寝起きしてたんだから、着替える所は何度も見てきた。
見てきたと言っても、凝視していたわけではないぞ!?
視界の端で、少し見える程度だ。
それも妹だからと、意識することなどなかった。
しかし、しかしだ!
ドレスは何か、ダメな気がする!
俺がドレスフェチだから、そう感じてしまうのだろうか?
決して妹に、欲情しているわけではないのだが、胸の奥底から何か込み上げて、心臓が高鳴りしている!
何なんだ、この背徳感に似た感情は!?
顔面に血液が集まる感覚。
俺と妹の時間が一瞬止まっていた。
そんな時間を、両親が動かす。
「どうしたの!?」
「カイル!お前」
母カータは単純に心配の声を上げたが、父ベイルの言葉と表情は違い、それに俺は気付いてしまった。
この状況を両親から見たら、どう映るのかと。
妹のドレスを、無理矢理脱がそうとする兄。
そんな構図に見えなくもない。
『お前、妹に欲情する、そんな変態だったのか』とでも思っていそうな父の顔。
フッ、焦るな。
そんなつもりで動いた訳ではない。
それに俺は、そんな変態などではない。
やましい事など、一つもないのだ!
「こ、これは、その、勘違いしないでくれ!ち、違うんだ!」
思いとは裏腹に、変な事を言ってしまう俺。
これでは肯定しているように見えてしまう。
しかし、落ち着かせる為に、母は『慈愛』スキルをかけてくれた。
おかげで、一瞬でスンとなることができた。
「プリシラが着替え出したんで、止めたんだ。もう十五歳。そろそろ女性として、異性を意識すべきだと思ってな。例え、兄だろうと恥じらいを持って欲しいと、俺は思う」
「そ、そうだったのか。そうだよな!カイル!」
父は訝し気な表情を解き、俺に近づき、そして肩を叩いた。
「父さんは、信じていたぞ!」
何をだ?
さっきの顔は、一体何だったんだ。
まぁいい。
誤解が解けたなら、何の問題もない。
「プリは平気だよ?」
「プリちゃん、あのね?もう十五歳だから、大人の女性に近づいているの。だからねーー」
母はプリシラに諭すよう、俺の意図を話してくれた。
母なりに、俺の意見が正しいと思ったのだろう。
妹は、母の言葉に『うん。うん』と相づちを打ちながら頷いている。
「でも、プリちゃんの一番好きな男の人は例外!その人には裸を見せてもいいけど、それ以外はダメよ?」
「一番好きな人?」
「そうよ」
「じゃあ、お母さんは、お父さんにしか見せないって事?」
予想外の言葉に、両親は顔を見合わせた。
そしてポッと顔を赤くして、お互い視線をずらす。
「そうね!お母さんは、お父さんだけよ」
「ゴホン!」
父は恥ずかしいのか、わざとらしい咳払いをした。
そして。
「ベイル」
「カータ」
見つめ合う両親。
顔を赤くして、お互い、目を輝かしている。
そして母は手を伸ばし、父は、その手を取った。
父が抱き寄せ、顔を近づける二人。
やめろ!!
実子がいるんだぞ!?
何をする気だ!
「父さん、母さん」
俺の呼びかけに、二人はハッとして離れた。
「あら、やだ!もう、お父さんったら!」
「ハハハッ!」
照れ笑いする父。
笑い終わりに、また両親は目が合う。
そして、ポッと擬音が聴こえて来そうな勢いで、二人は頬を赤らめた。
いや、エンドレスか!
まったく。
仲の良い両親だな。
それはそれで、幸せな事だ。
そんな事を思い、妹を見た。
俺の視線に気づき、妹と目が合う。
すると、プリシラはポッと顔を赤らめ、視線をずらした。
何の『ポッ』だよ!
どういう意味なんだ、まったく。
変な家族だな。
だが、うん。嫌ではない。
プリシラは母の顔を見る。
「お母さんが言うなら、そうする!プリは一番好きな人にしか見せないよ!」
「うん!プリちゃん偉い偉い」
「えへ〜!」
どうやら納得したようだな。
そして母は、自らの両手を用い、パンッと手を叩いた。
「それじゃあ、プリちゃんのお着替えの為に、カイルは一旦部屋から出ましょう。カイルは朝食の用意を手伝って?」
「あぁ、わかった」
両親の後に続き、俺も部屋を出た。
扉を閉めようとした時、白い細腕が俺の手を掴む。
プリシラだ。
開いた扉の隙間から、手招きをしている。
なんだ?
おそらく内緒話だろう。
そう思い、耳を近づける。
妹は小声だった。
「お兄ちゃんになら、いつでも見せてあげるからね!」
「そうか、わかった」
プリシラは、にへっと笑った。
俺は扉を閉め、外に向かう。
「カイル?どこ行くの?」
「すまん、ちょっとだけ」
「ちょっとだけ?なら、早く戻ってきなさいよ。もう、ご飯食べるんだから」
「あぁ、すぐ戻る」
俺は近くの井戸に行く。
そして中を覗き込み、大きく息を吸った。
「どういう意味だぁぁぁぁ!」
井戸に向かい大声で叫んだ。
プリシラは何か勘違いしてるじゃないか!
家族で一番好きな人って話じゃないんだぞ!
見せられても俺が困るだろうが!
「わぁぁぁぁぁ!」
もう一度、井戸に向けて咆哮した。
ハァ、ハァ。
意外と大声を出すことは良い事だな。
スッキリした。
よくよく考えたら、現時点での話だ。
今は家族以外に、好きな異性が居ないのだろう。
もしそんな存在が現れたら、自然と対象が移る事になる。
そういう事なのだ。
俺が変に意識する必要はない。
そうだろう?
深く考えすぎの自分を諫め、妙に納得した所で家に戻った。
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