第44話 - クレアの決意

洞窟の奥から地響きと共にオークキングが現れる

洞窟が狭いと思えるほどの巨体だった


救助に来た冒険者たちは腰を抜かして怯えだし、叫び声をあげる


「な…なんだよあれ。ウワァァァァァァ」


オークキングは地響きを立てながらお構いなしい迫ってくる

ニャーゴは叫んだ


「ここは俺が引き受ける!負傷者を抱えて全力で走れ!」


冒険者たちは足を震わせながら騎士たちを抱えて走り出した

クレアもレオを背負い、何度も振り返りながら走っていく


「ニャーゴ!無理しないで帰って来てね!!」

「…」



クレア達はなんとか生存者を後方の馬車まで連れて戻った

鎧をつけた男たちを抱えて走るのは辛く、手も足も震えが止まらない

心臓は破れそうなほど鼓動を強め、水さえ口にできないほど疲れ切ってしまった


「はぁ…ニャーゴ…待ってて…」


クレアは震える手を握りしめ、よろめきながら歩き出す



ニャーゴは苦戦していた


連戦が続き、疲労がたまっている

オークキングの攻撃を躱しては攻撃を加えているが、敵は大きく皮膚が厚い上に鎧まで着ているため深い傷を与えられなかった


オークキングは振りかぶり、斧を振り下ろす。ニャーゴは影に潜ってオークの後ろへ回った

足や腕の関節を攻撃しては距離をとる


皮を裂く程度の傷でオークキングの勢いはいつまでも衰えなかった

力任せに洞窟を破壊しながら攻撃を続けるオークキング

影に潜りながら攻撃を躱し続けるニャーゴ


オークキングがまた振りかぶる、影に潜って背後に回るニャーゴ

オークキングが壁に武器を叩きつけ、岩が飛び散る。影の位置が悪く影から出てきたニャーゴに岩が直撃してしまった


頭から血を流し、片目がふさがるニャーゴ


(これは参ったな、ピンチだ…)


片目がふさがったニャーゴは一気に劣勢になった

うまく距離感が掴めなくなったニャーゴは掠るような被弾が増えていく

残った魔力で魔術を使い一気に仕留めに行くも、オークキングは耐えきり口から血を流しながらも暴れ続ける


(クソッ、もう何も出ないぞ!)


1時間ほど戦闘が続いた


ニャーゴ、オーク共にボロボロだった

お互いスタミナが切れ、攻撃は力強くとも明らかに頻度が落ちている


「ゼェ…ゼェ…いい加減、倒れろよ…」


息を整える度にお互い攻撃を重ねる。スタミナが切れてしまえば獲物が小さく片目も見えないニャーゴは圧倒的に不利だ


とうとう、オークの攻撃をまともに食らい、ニャーゴは吹き飛ばされて地面を転がる


(だめだ、体が動かない…)


立っているのもやっとだったニャーゴは一度倒れてしまうと立ち上がる力が残っていなかった


「ニャーゴ!!」


クレアが洞窟にたどり着き、フラフラになりながら入ってくる

オークキングはクレアを見つけると、クレアに向かって歩き出す


クレアは武器を構え、オークキングに必死に攻撃を加える

何度かオークキングの頭にムチが当たるとオークキングの兜が取れた

チャンスと見たクレアが大きく振りかぶりオークキングの頭を狙ってムチを振るう

大振りを読んだオークキングは走り出し、クレアのムチを弾いて突進、体当たりをするとクレアは倒れ、気を失ってしまった



ニャーゴは少し気絶をしていた、ズシン、ズシンと響く音に気づいて目を覚ます


(オークキングは…どこだ…)


ニャーゴが周りを見渡すと、オークキングがクレアの足を握り、引きずって奥へ運んでいるところだった


(やらせて…たまるか!!)


ニャーゴは最後の力を振り絞り、オークキングの影から飛び出すと、むき出しの頭に短刀を突き立て、黒い刃を伸ばした。黒い刃はオークキングの頭から体を貫き、オークキングはビクビクと痙攣し、前のめりに倒れた



次に目が覚めたのは馬車の中だった

オークの集落から助け出された女たちも治療を手伝い、すし詰めの馬車の荷台で目を覚ます

手足が鉛のように重く感じる、感覚もあまりない。目を閉じると気持ちよかった



1週間ほどたって、クレアとニャーゴは体力が回復した、レオはもう少しかかりそうだ

クレアは回復してからずっとレオにつきっきりだ


以前よりもずっと親しげに話すようになっている

そして少し様子がおかしい、屋敷の荷物を少しずつまとめ始めている


レオが回復したころを見計らってジョルノ伯が尋ねてきた

クレアに報酬を渡し謝辞を述べ、エクセ家の領地の一部を与えるという話しだった

クレアはその話を断った


ジョルノ伯は困った顔で質問する


「…クレア…他に私にできることがあったら教えてほしい」


クレアはしばらくうつむいた後、ジョルノ伯を見て静かに、力強く話し出す


「ジョルノ伯、多大な恩に報いることができず申し訳ありません」

「…」

「冒険者をやめる決意をしました」


ジョルノ伯は肩を落とし、小さなため息をつくと、顔を上げた


「……ほかならぬクレアの言う事だ、認めよう」

「わがままを聞いてくださり、ありがとうございます」

「これまでエクセ家に尽くしてくれた事は忘れぬ、ここを出たとしてもいつでも頼ってほしい」

「…」

「辞めた後はどうするか決まっているのか?」


クレアはうつ向きながら話した


「はい、ヘレネ村へ戻ってレオとニャーゴと一緒に静かに暮らしていきます」

「そうか、王都へ寄る時は顔をだしてくれ」

「はい、ありがとうございます」

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