第39話 - 騎士の行方

ニャーゴは勢いよく運ばれてしまう三人を見て戦慄する


(あの速度、巨体で壁に挟まれたらみんな死んでしまう!まずい)


ニャーゴはみんなから離れたところに残されてしまい、影の移動ができなかった

ニャーゴは全力で走る


(間に合ったところで一緒に潰される…どうしたらいいんだ)


地竜の通った後に大量の血痕が残っているのに気づく


(あの量の血…)


ニャーゴは必死で皆の元へ走った、追いつけなければ意味がない

どんどん皆と離されていく


(クソッ!あと少し!!)


もう壁はすぐそこまで迫っている、クレアたちは壁を目の前にして目を閉じた


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…ギィシァァァァァァァァ


突然竜が立ち上がり苦しみ出した

深い傷を負った腹からは大量の血が吹き出している

しばらくのたうち回り続け、次第に竜は動かなくなっていった


横たわる竜の腹から黒い血がドクドクと溢れている


間一髪、助かったクレア達はホッと胸をなでおろして周りを確認すると、ニャーゴがいない事に気づき大声で叫んだ


「ニャーゴ!どこ!?」



「ニャーゴ!お願い!返事をして!!」


必死に訴えるクレアを見てデルバートとバルトールも声を上げて探し始めた


少し時間をおいて竜が急に痙攣を始め、腹からどんどん血が溢れてくる

クレア達は息を飲み、まさか生き返るのではないかと思い、言葉を失いながら眺めた


次第に出血は収まっていく、出血が止まると黒い物体が腹の中から零れ落ちた

黒い物体はモゾモゾと動き出す

クレア達は息を飲み、武器を構え、硬直した


「ぶはー!」


黒い物体は竜の血にまみれのニャーゴだった


「ニャーゴ!!」


クレアは勢いよく走り出し、ニャーゴの近くへ寄った

デルバート、バルトールも続く


「ニャーゴ!心配したよ。大丈夫?怪我はない?」

「なんとか…竜が大量に血を流しているのに気づいて、腹の中に潜れるくらいの傷があるんじゃないかと思ってね、ギリギリ竜の尻尾の影が射程に入ったんだ、間に合ってよかった」


デルバートとバルトールは顔を見合わせ、賞賛した


「まさか本当に竜を倒してしまうとは…地竜は他の竜より堅く、倒すのが困難な竜です。いくらか傷をつけて退却するものと思っていましたが…感服いたしました」

「俺も倒せるとは思ってなかったけどね…」


地竜の魔石といくつかの鱗を剥いで、ダンジョンを出た

クレアがデルバートに質問する


「あのままでいいんですか?」

「さすがにあの量の素材は持って帰れないので…後程騎士団員に運ばせましょう。倒した証拠は鱗で十分です」

「そっか、わかった」


帰りは穏やかなもので、鱗を持っているためか魔物にも合わず王都へ帰ることができた

クレアは一緒に死線を潜り抜けたデルバートにただならぬ想いを寄せ、言い出せないまま王都へ帰り着いてしまう


王へ報告をすると大いに称えられ、望む褒美を与えると約束された上に、地竜の魔石も討伐した証として賜り、城を出る


クレアはデルバートに屋敷まで送ってもらう事になった

馬車を用意してもらう間、クレアはデルバートに話しかける


「魔石もらっちゃってよかったのかなぁ」

「討伐したのはクレアとニャーゴなので当然でしょう?これからは竜殺しの二つ名もついてきますよ」

「そ、そんな大げさな…」


デルバートは屈託のない笑顔を見せ、挨拶をする


「この度は我々も大いに学ばせて頂き、良き旅となりました。いずれまたお会いすることがあればいつでもお力添え致します」


クレアは赤面し、言葉を選びながら話しかけた


「あ、あの…騎士様…」


どこからともなく女性の声が響き渡る


「デルー!」


貴族の女性が駆けつけ、デルバートに抱き着くと涙を浮かべて話し出す


「デル、無事に帰ってきてくれてありがとう…」

「君にもらったお守りのおかげかな」


クレアは少し悲しい顔をした


(あぁ…騎士様だもの、当然だよね…)


クレアは胸に拳を当て、ぎゅっと握りしめる

胸が苦しく、切なくなった



夕方


屋敷へ送ってもらったクレアは自室へ戻るとベッドに体を投げ出した


「はぁー…騎士様かっこよかったなぁ…」

「残念だったね」

「うん…でも…素敵な思い出に…する」


クレアは窓を見ると一筋の涙をこぼした

ニャーゴはため息をつきながら黙り込む



「鉄塊のメンバーを酒場に誘ってみる?」


クレアはうつむいて考えたあと、顔を上げた


「そうしよう!ベアトリスに話す!」


無理して元気よく振舞うクレアを見てニャーゴは思った


(これは朝まで付き合わされるな…)

「あ、ぼくはバステトと話してるから楽しんできて」


クレアは般若のような形相でニャーゴを見た


「ハァ~?君ぃ~…まさか傷心の乙女を一人酒場に置いていくつもりじゃないだろうなぁ」

「ウッ…ま、まさか…後で行くよ…」

「うそつけー!絶対逃がさないからな!」


クレアはニャーゴに飛び掛かり拘束する


「ギャー!竜殺しになったんだからモテなくても仕方ないだろー!」

「うるせぇぇ!だいたいニャーゴが倒したのになんであたしが竜殺しになるんだよー!」

「俺は従魔なんだから仕方ないだろー!はなしてぇぇぇ」


しばらくもみ合いになり、鉄塊のメンバーは酒場に来れず、結局二人で朝になるまで付き合わされた

ベロベロに酔っぱらったクレアを抱えて帰るニャーゴ

クレアは途中で何度も吐き、ずっと「騎士様ぁ…」ってつぶやいていた

ニャーゴは思う


(初恋の失恋って質が悪いな…)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る