第33話 - 儚い名声
エクセ家の指名依頼でヴァンパイアを倒した鉄塊の名声はうなぎ上りになった
貴重な文献や資料を救出したこと、2級のヴァンパイアを討伐したこと、40匹にも及ぶ魔物の討伐、その他行きと帰りにも討伐した魔物の数など合わせて100を超えており特例で試験なしで昇格し、鉄塊のパーティメンバーは全員が1級冒険者となった
自室でクレアがニャーゴに話しかける
「もう1級冒険者なんて夢のようだよ~バルトゥスさんにまた会いたいなぁ。褒めてくれるかなぁ」
「時間ができたらリスホルンのゴードンさんとアイサさんに挨拶しなきゃね」
「そうだ!でも往復で2ヵ月くらいの時間かぁ…なかなか難しいねぇ」
「そうだね、村の人たちも埋葬したいし」
「ほんと、やりたいことはあるけどもう少し先になっちゃうのかな」
…
数日後
ヴィクトーが屋敷に戻ってくると大声でみんなを招集した
「王宮から指名依頼がきた」
依頼の内容はリスホルン周辺にあるヘルネ村跡地の魔物討伐
6~7級で討伐できる魔物だが広範囲に巣を展開しておりとにかく数が多いという事だった
ヘルネ村の近くにある森から魔物が大量発生し、ヘルネ村を占領後徐々に拡大したそうだ
クレアが必死の形相でヴィクトーに迫った
「お願い!この依頼受けて!あたしとニャーゴだけでも行く」
「ど、どうしたんだ?受けるけど…何かあったのか?」
クレアは生まれた村がヘルネ村であること、魔物の発生地がニャーゴの故郷であることを説明した
「なんてこった…クレアとニャーゴの故郷なら俺たちがいかないわけないだろ!」
鉄塊のメンバーはみんなやる気に満ちた目で賛同し、クレアは涙を流しながら感謝を何度も述べていた
お世話になった人達にもお礼をしながら向かうという事でオーヴィルへの一日滞在も日程に組み込まれる
クレアがハッとして心配そうにニャーゴを見つめる
「ゴードンさんとアイサおばさん、今のニャーゴ見たら気絶しそう…」
「ニャハー!たしかに。それはそれで楽しみだ」
「ニャーゴが笑うとこ初めて見た…ニャハーて」
「う、うるさいな!いいだろ猫なんだから」
やっと恩が返せる、お墓が作れると思うと気が楽になった
サバイバルしてる時のクレアは見ている方が辛かった時もあった。大きくなったなぁ
…
リスホルン
移動には馬車を借りることができたので2週間ほどでたどり着き、ゴードンさんとアイサさんに挨拶をし、メリッサとギルにも顔を見せた
1級冒険者になった事とやっとお墓が作りに行けると言うとみんな涙を流して喜んだ、10歳かそこらで迷い込んだ時の事を思うと涙がとまらないそうだ
その日はゴードンさんの家に泊めてもらった
ちなみにニャーゴの姿には腰を抜かしそうなほど驚いていた
…
ヘルネ村
村の周辺にたどり着くまであと半日というところで、ゴブリンたちの生活圏にたどり着いた。かなり遠くまで縄張りを広げている
あちこちにゴブリンが作ったと思われる穴のような住居があり荒れ果てている
鉄塊のメンバーは馬車を降り、戦闘の準備を始めた
あまりにも広大に広がりすぎた縄張りを全て潰して回るのは不可能と判断し、まずは元凶と思われる魔女の森の制圧、その後リスホルンに滞在して少しずつ数を減らしていこうという判断になった
馬車を守りながらゴブリンたちを殲滅していく、何度か変異種やゴブリンロードなどの上位種なども片付け、順調に魔女の森へたどり着く
ヘルネ村も一時的に解放し、簡単なお墓を作っておいた
あとは魔女の森だ
魔女の森の入り口に差し掛かったころ、ニャーゴが不穏な空気を察知した
「まって!まずい、おかしいぞ」
ヴィクトーが質問する
「何があるんだ?」
「館から感じる魔力がおかしい、何年も経ってしまったけどこんなに強くて禍々しい気配なんてなかった。一応、逃げる準備はしておこう」
オーガスが慎重な表情になる
「ニャーゴがそういうなら…」
慎重に森を抜けていくと館に出た
ゴブリンなどはおらず、森は一見前と変わらなかった
ニャーゴの勘違いではないかと結論づけようとした時、現れた
黒いとんがり帽子、地につくほどの長い外套、森の魔女の姿がそこにある
ニャーゴが涙を浮かべ近寄ると、変わり果てた魔女の姿があった
魔女はリッチと化していたのだ
体は骨となり肉を持たず、禍々しい怨恨にまみれた魔力を放つ
ニャーゴは必死に魔女に訴えた
「森の魔女!俺だよ!ニャーゴだよ。なぜそんな姿に…」
「…」
魔女は無言のままニャーゴに襲い掛かる、火、水、風の強大な魔術がいくつも襲い掛かってくる、ヴィクトーはニャーゴに問いかけた
「どうしたらいいんだ?」
「わからない…なんで答えてくれないんだ…」
10分ほど戦闘を続け、一向に衰えない攻撃にヴィクトーはしびれを切らした
「ニャーゴ!対策がないなら倒そう!これ以上耐えるのは難しい」
「わ、わかった。ごめん」
ニャーゴは涙を拭いて決意を固めた
「森の魔女、ごめんよ」
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