第13話 - ネズミ対策

「何言ってるのニャーゴ!ここまで来たのに帰るわけないじゃない!」


バルトゥスが話しかけてきた


「どうした?ネズミ以外にもなんかいたのか?」

「ニャーゴが無理だからやめろって言うの!ここまで来たんだからあたし絶対帰らない!」

(オイオイ身の程知らずもいいとこだな…クレアは昔から言い出したら聞かない…どうするか)

「ハハッ、きっとニャーゴが対策を考えてくれるんじゃないか?少し待ってみよう」

「ニャーゴ!あたし帰らないからね!!」


ナ~…

(分からず屋め)


さてどうしたものか、100匹近いとはいえバルトゥスがいるならなんとかなるんだが…問題はクレアを傷つけずに勝つ方法だ。おそらく民家に住むネズミでここまで群れると言えば


スウォーム・ラットとジャイアントラットだろう

小さいネズミの魔獣が大軍を成して群れ、群れの統率者として10倍近い大きさのネズミがいる。群れに襲われると犬猫だったら一瞬で骨にされるほど獰猛だ


正直バルトゥス一人突っ込ませて扉を閉めても成功するだろう

それくらいバルトゥスは強い


ワイルドウルフに突っ込んでくるクレアの事だ、絶対中に入る

とするとなにかネズミたちの気を引く餌がいる


ニャァーゴ

(クレア、バルトゥスに干し肉と酒があるか聞いてくれ)


「おじさん、干し肉とお酒ある?」

「ん?あるぞ……(罠が必要なネズミ?)!なるほど、スウォーム・ラットか」


(さすがバルトゥス。気づくのが早い)


俺はバルトゥスの肩に乗って顔の前に尻尾を出すと火を灯した


「ほぉ、なるほどな。ヨルンに任せる」


クレアは不思議そうに話す


「おじさん?ニャーゴだよ?」

「ん?あ、そうだな、そうだニャーゴだ」


バルトゥスは緊張した面持ちでクレアに話しかける


「さ、クレア。入るよ、必ず10歩俺から離れ、見失わないでくれ」


クレアはいつもと違う雰囲気に息を飲んだ


「は、はい…」


ゆっくりと扉を開け、全員入ると閉めた

異臭にクレアがたまらず声をあげる


「うぅ…くっさい…」

「シッ!声を出さないで…静かに進むんだ」


クレアは小さくうなずいた


俺はバルトゥスの肩に乗り、一緒に進む

地下倉庫の一番広いところに着くと、バルトゥスは干し肉の束そっと置いてお酒を少し垂らし、数歩下がった

俺は尻尾に火を灯し、酒に火をつける

酒の匂いと肉の匂いが入り混じって部屋いっぱいに広がる


すると恐ろしい数の足音が聞こえ始め、あらゆる方向からおぞましいネズミの声が響き渡る


ザザザザザザザザザザザザザザザザザザ


赤い目をしたネズミたちが集まってくる


広間を埋め尽くさんばかりの数になり広間中央の干し肉にかぶりつく

バルトゥスは鞄から魔石を取り出すと4つほどバラまいた

ネズミたちは一斉に干し肉へ群がっていく


「ヨルン!頼んだぞ!」


バルトゥスは盾を構えると衝撃に備える

クレアは腰を抜かしてへたり込んだ


「ひっ…やっ…」


俺は尻尾に火を灯すとバルトゥスが投げた魔石へ火を投げつけた


ドォォォォォン!


大きな音と共に地下倉庫の広間に火が広まる

ネズミたちは火だるまになりもだえ苦しむ


バルトゥスも巻き込まれているが盾を構え、微動だにしない

ネズミたちが燃え、あちこちに走り出すと大きな音が聞こえてきた


「ヂゥーーーー!ヂゥゥゥゥ!!」


ジャイアントラットだ

ジャイアントラットは倉庫の奥から通路の先に現れた


バルトゥスは盾をジャイアントラットに向け、スキルを使う


ガァン!ガァン!ドォン!


盾を武器で叩き、地面へ叩きつける


”意識強制” (タウント)


盾から赤い光の波紋が広がるとジャイアントラットの目が怪しく光る

ジャイアントラットは盾に向かって突進してきた


ギィィィン!


バルトゥスは盾でジャイアントラットの突進を受け止める

盾にかじりつこうとするジャイアントラットを武器で殴ると距離を取り、さらに次のスキルを使う


”盾突撃” (シールドチャージ)


盾を構え猛烈な勢いでジャイアントラットに体当たりするとジャイアントラットの首は折れ

力なくジャイアントラットは崩れ落ちた


戦闘が終わったことを確認するとバルトゥスは構えを解いた


「ふぅ、まさか10級にこんなのが出てくるなんて思わなかった」


ニャーゴ~

(ほんとだよ)


クレアを見ると足元に水が広がっている…漏らしていた


「あぁぁ…うあぁぁぁ…」

「おっと、クレア大丈夫か?」


バルトゥスが手を差し出し、捕まるクレア。まだ足腰がガクガクと震えている


「ハッハ!最初は俺も漏らしたもんだ!小さいのによく頑張ったな」

「ややや!あうぅぅぅ…」


クレアは恥ずかしそうに赤面してうつむいた


「さ、魔物どもの魔石を回収するか。俺はジャイアントラットだけでいい、他はクレアが全部持って帰ってくれ。いい小遣いになったな。俺は旅の酒が増えたぞ、ハハハ」


ザクザクとバルトゥスは解体を進め、魔力鞄にすいすいと素材を放り込んでいく


クレアは足が震えて動けないままだった


(やれやれ…さっきまでの威勢はどこいったんだ…小さいのの魔石は俺が貰おうかな)


俺はスウォーム・ラットたちの腹を割き、魔石を取り出しては飲み込んだ

20体ほど解体しただろうか


バルトゥスが俺が魔石を飲み込んでいるのに気づく


「へぇ、ヨルンそんなもの食べるようになったんだな。じゃあこれもやるよ」


バルトゥスはジャイアントラットの魔石を取り出して床に置いた


ナ~

(いいのか?酒代だろ?)


「ハハ、何言ってるかわっかんねーや。まぁ食ってくれ、会えてうれしいよ」

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