第2話 - 森の魔女

女性は森の魔女と呼ばれていた

たびたび来る老人たちに薬を渡し、火をつける時は魔術を使う


この森に魔物がいないのは魔女のおかげだと老人たちは来るたび感謝している

魔女と言えば使い魔、母猫は使い魔なのかと思ったがふつーの猫だ

尻尾はひとつしかないし、魔術も使わない


魔女は一人で暮らしているらしく、数年前にこの森に迷い込んだ母猫を拾って一緒に暮らしているそうだ

これも老人たちと話しているところを聞いた


たまに小さな女の子が老人たちと一緒に来る

名前はクレアというそうだ

ひたすら走り回っていてあぶない、外で走れ


猫になってからは人と喋ることができないのがつらいが、暮らしは楽だった

寝て、起きて、遊んで、食べて、また寝る


ずーっと繰り返す、飼い猫なので勝手に飯が出てくる

毎日兄弟たちと遊んで、寝る


今日も兄弟たちといっぱい遊んで日向で寝た


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一年は経っただろうか


体はすっかり大きくなった

テーブルの上ならひとっ飛び、木登りもできるようになった

テーブルの上にある花瓶を落として魔女と追いかけっこするのが最近の趣味だ


お昼寝は魔女の膝の上がお気に入り

日向で椅子に揺られながら撫でてもらうのが最高に気持ちいい


たまに来る女の子、クレアが今日も来ている

なぜか彼女は俺がお気に入りで俺だけ “ニャーゴ” と彼女に名付けられた


今日もクレアが帰る時についていこう

村の高いところで村人の話を昼寝しながら聞くのだ


「ニャーゴ!おいで~帰るよ~」


クレアの声が聞こえる


”ニャ~ゴ”


俺は返事をすると彼女の元へ走って足にスリスリした


「ニャーゴ!一緒に帰ろう!」

ン~ニャ!(俺の家はここだけどな)


よく俺が村へ行くのでクレアは完全に俺を自分の猫だと思ってる


一人で狩りくらいはできるようになったので巣立とうと思えば出来てしまうんだけど、クレアの膝はまだ小さいからな、魔女くらいに成長したら考えてやろう


クレアはこちらをチラチラ見ながら帰り道を歩く

しょうがない、今日もついてってやるよ


村へ着くと俺はいつも通り一番高い屋根の上で昼寝を楽しんだ

クレアは俺を連れてきたくせにすぐ他の男の子と遊びに夢中になる

まぁ、俺は猫なんで、構われすぎないくらいがちょうどいいですけど



目を覚ますと夜だった


あかん、寝すぎた


暗くなっているのに村人たちが騒がしい

ヒソヒソとひっきりなしに噂話をしている


俺は聞き耳を立てて聞いた


「森が焼かれたんだって?」

「ここ最近村の近くで魔物が増えただろ?異端審問官が来て、魔女のせいだって言ってよ」

「森の魔女は無事なのかい?」

「いや、わかんね、誰も見てねぇってよ」


ハァ?なに寝ぼけてんだ

俺はクンクンと空の匂いを嗅いだ

森の方から焦げた匂いがする

森全体が焼かれたというよりは、家が焼かれた感じだ


血の気が引く感覚がある

どっと汗が吹き出てきた


うそだろ!母猫は?兄弟は?魔女は?もう一緒にお昼寝できないのか?


俺は森へ走った

家へ向かっていると大きな動物が遮る


その動物は目が赤く、子供ほどの大きさで、緑色の肌をしている


(ゴブリンだ!)


森にゴブリンなんていなかったはずだ!

なぜ急に出てきた


俺は慌てて森を出た、いつもの道ではなく、裏道を通ることにし、森をぐるっと回る

けもの道をゆっくりと辿りながら家へ向かい始めた


おかしい、この森に魔物はいない

考えられるとしたら、家が燃えた事がきっかけか


魔物避けの効果もあったんだろうか?魔女や母猫、兄弟たちは無事だろうか



家についた、全焼している


俺は震えが止まらなくなった、恐ろしいイメージが脳裏をよぎる

動悸がとまらない…中を見るのが怖い


勇気を出して、恐る恐る中へ入る


玄関、寝室には誰もいなかった、厨房も

一通り見て回ったが焼け跡以外何もなかった


俺はほっとした

魔女はどこかに逃げたんだな、行方を探さなきゃ


庭にあるハーブ園をまだ見ていない、そこだけ見て森を出よう


ハーブ園に着くと、俺は凍り付いた


大きな木の十字架の両端に人間の骨がぶら下がっていた

十字架の根元には焦げた木材、人の頭蓋骨と猫の頭蓋骨が転がっている


声がでなくなった、ブルブルと震え、思考が止まる

俺は逃げ出した、一心不乱に走った、涙が止まらず、どうしていいかわからないままひたすら走った


夜の草原を疲れるまで走った、疲れ切ったら、寝た



朝になった


ここがどこだかわからない、きっと森からそう遠くはないはずだ

行くとこもないので森へとぼとぼと向かった

魔女たちの骨を思い出すと足がすくむ、でも他に行くところがない


お腹もすいた、のども乾いた

朝の陽ざしは心地よく、魔女の膝の上で昼寝したくなった

思い出すたびに悲しくなる、もう魔女はいない、森は魔物で溢れた


せめて骨くらいは埋めてやろうと思い、ゆっくりと森へ向かった

なんでこんなことになったんだ...


きっと獣道を通れば魔物に気づかれずにたどり着けるだろうか?

この体で掘った穴は骨が埋まるくらいの深さになるだろうか?

魔物に見つからずに掘れるだろうか?


何度も恐ろしくなってはウロウロしたが、他に行くところがない事を思い出すたびに、森へ向かって歩いた

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