猫になった冒険家

どーん

第1話 - 生き返った冒険家

俺は今竜に呑まれようとしている



ある山の中腹で俺たち4人は竜と戦った

険しく、切り立った崖の側で、四本の足で立つ竜と


竜が火を吹く


ゴォォォォォォォォ


盾士が大きな盾で炎を受け止めた

パーティのメンバーは盾士の後ろに隠れ、やり過ごしている時に弓士が俺に話しかけてきた


「ヨルン、このままじゃまずい。竜の息吹は防いでいるけど、熱がやばい。なんとか反撃の隙を作れないか?」


俺は竜に目をやった


竜の息吹が終わらない、このままやり過ごしたいが、熱すぎる。息吹が終わっても熱を持った武器に触れなくなるかもしれない


「わかった、閃光爆薬を投げて視界を奪おう。」


盾士、弓士、治療士が小さく頷くと、みんな移動する体制を整えた

俺は閃光爆薬を空高く投げると、カウントダウンを始める


「3、2、1、ゼロ!」


パッと空が強い光に包まれ、皆うつむいて直視を避ける

竜は驚き、大きく叫ぶとブレスが止まった


「ゴアァァァァァァ!!!」

「今だ!回り込め!!」


崖から離れるように俺たちは一斉に走り出す

視界を奪われた竜は前足で顔を覆いながら暴れている


俺たちが走り終える頃、竜は冷静さを取り戻した

まだ視界は戻っていないようだが、怒りに任せて一回転すると、強烈な尾撃が襲ってきた


一番先頭を走っていた俺は慌ててスライディングをすると尾の下をすり抜ける事ができた


ドドドドド


尾が岩にぶつかる音がする、みんなは無事だろうか?

後ろを振り返ると、盾士、弓士、治癒士、みんな尾に直撃し、崖の上を飛んでいた


みんな崖に吸い込まれていく、俺は慌てて崖まで走り、崖下を覗いた

崖の下は急流の川が流れており、三つ水しぶきが見える


「バルトゥス!ティベレ!ティシール!」


しばらく眺めていたがみんな流されたのか、浮いてこない


「ゴルルルルルルル」


唸る音にハッとし、竜を見るともう目の前にいる

竜は前足で俺を払う


メキィッ!


竜の攻撃は直撃し、ゴロゴロと転がる、起き上がろうとするも、吐血し、足の感覚がない


(まずい、背骨がやられたか?くそっ)


竜は大きく口を開けると、俺を大きな顎で挟み、空高く持ち上げる

すると大きな口が開き、俺は竜の口の中に吸い込まれた

何度も口が開いては閉じ、舌の運動によってどんどん奥へ飲み込まれていく


必死に抵抗したが、竜の力には逆らえず、目の前は真っ暗になった


暗闇が続く、俺はこのまま竜の胃の中で死ぬのだろうか?

骨まで溶けるんだろうか?溶けなければ口から吐くんだろうか?尻から出るんだろうか?


呼吸ができない、体は巨大な筋肉によって締め付けられ、身動きが取れない

意識が遠くなる…




目が覚めると、木で出来た家の床で寝ていた


周りを見るとあらゆるものがデカい、巨人の家に来たのかと思うほど

家具、テーブル、椅子、全て


”にぁー”


猫の声?

声の方向へ顔を向けると同じくらいの背丈はあろう大きな猫がよちよちと歩いていく

歩く先を見るとさっきの猫の5倍はあろうデカい猫が横たわっている


どういうことだ?俺は竜に食われたはずだ

ふと、竜の言い伝えを思い出した


”生きたまま竜に食われた者は新たな生命を得る”


もしかして生き返ったのか?小人になって??

自分の手を見ると毛だらけだった、肉球がある

腹へ目をやると、ここも毛だらけだった


尻に違和感がある…尻尾がある


わかった、皆がデカいんじゃなくて俺が小さいんだ

全身真っ黒な毛に覆われた子猫だ


俺は子猫になっていた


立ち上がろうとするがうまく手足が動かない

猛烈に腹が減る感覚がある、何か食べなきゃ…

兄弟たちであろう猫を見ると母猫の乳を飲んでいる

なるほど、産まれてまだ間もないのか


俺も、いかなきゃ


初めての四本足はまったく慣れなかった

うまくバランスが取れない、ブルブルと震え、すぐに転んでしまう

しばらく悶えていると、声が聞こえる


「あらあら、お腹が空いたの?」


女性の声だ、ふっと体が軽くなり、母猫のお腹の前まで運んでくれた


誰だかわからないがありがとう、お母さんお乳を飲ませてくれ

母猫のお腹に群がる兄弟たちの間に挟まるように乳を探した

やっとの思いで小さな突起を見つけ、しゃぶりつく


乳が出てこない…


一所懸命吸ってるとほんの少しだけ出てくる


ングググググーーーー!!!


疲れる!!お腹が膨れる前に顎が取れる!

兄弟たちはどうしてるんだ?


周りの兄弟たちを見ると、小さな手で乳をモミモミしながら飲んでいる


そういやそうだ、猫は飼ってた事がある

柔らかい毛皮なんかの上でよくモミモミしてたっけ


俺も真似て必死でモミモミしながらお乳にしゃぶりついた

お乳は勢いよく出てくるようになり、それほど強く吸わなくても飲めるようになった


生きるって、大変なんだね...


お腹いっぱいになると母猫はどこかへ行ってしまった

お腹も膨れたし、体を動かす練習がてらこの家を見てみよう


俺は黒い母猫と兄弟6匹、そして女性が一人で住む家に生まれたらしい

女性は30歳くらいだろうか?それほど若くはないが胸や尻は大きく腰はくびれ、街に出ればいろんな男から声がかかるであろう美しさだった

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