20話:オトナになっても
「そんな……無理だよ……お金のことだってあるし……」
「難しいことがあるのは分かってる……。でも……どうにか出来ないか二人で考えよう」
今すぐにどうすればいいかは分からない。
それでも美奈を放っておくという選択肢だけはなかった。
「俺さ……美奈のことが……好きなんだよ……ずっと……ずっと」
過去でも伝えた「好き」という言葉……今はその時よりも更に重い言葉だ。
「──っ──!? ……そんな……」
「……正直に言う……。確かに……俺は、少し記憶が混乱してる……。美奈も今更、なんだって思うかもしれない……だけど、その気持ちだけは本当なんだ……」
俺の言葉を聞いた美奈は少しの間うつむいて──
「私も……達也のこと……好きだよ」
昔と同じ言葉で返してくれた。
「……今すぐにでも行こう。とりあえず俺の家へ。後のことはそこで考えよう」
「……うん……」
美奈は静かに頷いた。
「……荷物はどうしよう……家は近いけど……」
「……鬼黒はいるのか?」
「ううん……一人暮らしだけど……たまに来るから……」
確率が少しでもあるなら戻らない方がいいだろう。
俺にも今すぐ鬼黒を倒すだけの作戦がない。
「貴重品は?」
「うん……最低限必要なものは持ってきてる……」
「じゃあこのまま行こう。服やらは、俺の家の途中で買えばいいさ」
「うん……ありがとう」
俺と美奈はそのまま俺の家に向かうことにした。
帰りの電車は、まだ時間が昼間だということもあって空いていた。
街と街の合間には畑なども見られる。
座席に座って、自然と美奈と手をつないだ。
「……なんだか……駆け落ちみたいだよな……」
「ふふっ……似たようなもんじゃない?」
と美奈と笑い合ったりする。
正直言って、そんな気楽なことをしているわけじゃないのに、不思議とリラックスしていた。
──やっぱり俺の隣には美奈がいて、美奈の隣には俺がいるのが二人にとって一番良いんだと、感じられた。
俺の家の最寄り駅に着くと、美奈と買い物をする。
まずは服だ。
駅前のショッピングモールで買うことにした。
「ゆっくりでいいよ」
「うん……達也とデートって懐かしいな」
「デートかぁ……確かに、そう考えると楽しいな」
別に今慌てる必要ない。
二人の時間を楽しめば良いと思う。
「ねぇ、達也、これどう?」
美奈が服の感想を求めてくる。
シックな感じの黒のカーディガンだった。
「え? う〜ん」
服のアドバイスなんて、センスのない俺には難しいけど……
「……こっちの明るい青の方がいいんじゃないか?」
「え〜? ちょっと若い人向けすぎない? 女子大生が着る服みたいだなぁ」
「大丈夫だって、まだ若いから。女子大生でも通じる」
女子大生に混ざってたら分かんないんじゃないかな……ってのは俺のひいき目だろうか。
「また、そういうこと言って……。でも……ん……分かった、じゃ、これにする」
「……いいのか?」
言ってはみたものの、俺のセンス自体には自信がなかった。
「うん……達也が好きな服を来たいし……」
「お、おう」
少し恥ずかしがる美奈に、ドキドキしてしまう。
──俺は今、同じ女に二回恋をしているのだろうか。
服を数着買うと、次は下着だ。
「えと……俺、あっちのフードコートで待ってるから」
「え? いいのに」
「は、恥ずかしいし。おっさんが下着売り場には入れないだろ」
そう言って美奈だけで行かせた。
「もう……昔は一緒に行ったのに……」
去り際に美奈がつぶやいているのが聞こえた。
「……え!?」
──えええ!?
俺って美奈と下着を買いに行くような事があったのか!?
い、いや。
彼氏彼女ならそういうイベントもあるか……。
でも……一緒に下着を買い行くってことは、多分「そういう事」もしちゃってるよね?
……むしろ冷静に考えて、しちゃってない方がおかしいか……?
少なくとも高校三年間一緒にいて、最初からあれだけラブラブだったんだし……。
悶々としながら、美奈が戻ってくるのをちびちびとコーヒーを飲みながら待った。
おっさん高校生、青春ラブコメをやり直す 〜 幼馴染が結婚の知らせを送ってきたので「あの頃に戻れたら、ぐいぐい行くのに」と叫んだ結果 ⇒ 戻ってきました平成に 〜 竹井アキ @Takei_Aki
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