13話:未来改変 中編
◇ ◆ ◇
「うえ〜、あんな怖かったっけ、あれ」
「なんか……だいぶパワーアップしてたね……」
ジェットコースターは最近の増築で、思った以上にスリルが増していた。
乗り終わると、二人してベンチに腰掛けてぐったりしてしまう。
「……ちょっと早いけど、昼たべようか」
「うん……弁当あるからさ」
この時代は、飲食の持ち込みにも緩い。
戻ってくる前の時代は、弁当を持ち込める施設も減ってたからな。
「んじゃ、あそこの芝生で」
芝生になっているスペースにレジャーシートを広げて二人で並んで座った。
まだ若干お昼の時間に早いせいか、他に人はいるものの、そこまでは混雑はしていない。
十分なスペースが確保できた。
美奈が二人分の弁当が入った弁当箱を開けてくれる。
「……スゲーな」
なんのパーティーですか?
というぐらいの料理が並んでいた。
パスタ、ハンバーグ、オムレツ、グラタン、唐揚げ、サラダなどなど、それぞれの分量は少しづつだが、とにかくたくさんの種類が並んでいる。
「へへっ……ちょっと張り切っちゃった」
美奈は家庭科部であり、ちょくちょく学校にも自分で作った弁当を持ってきていたので、料理の腕前が高いのは俺も前から知っていたが、ここまで気合いが入ったものをみたのは初めてだ。
「ありがとな」
「どーいたしまして。さっ、食べて食べて」
そう言われて、オムレツから手を付けてみた。
見た目はプレーンなオムレツなのだが──
「うまっ!」
ふんわり感に適度な甘さに絶妙に塩っ気が加わって、完璧な調和をとっている。
冷めているのにこんなに柔らかく作れるものなのか……。
「……感動で涙が出そうなぐらいうめーわ」
「えぇっ!? お、おおげさだよ!」
美奈は謙遜したけど、おおげさじゃないと思う。
「高級レストランのシェフにでもなれそうなぐらいだぞ」
「え〜……なりたくないよ、そんなの」
「そうなのか?」
「そうだよ……」
そう言いながら美奈は、今度はハンバーグを箸にとって、「あ〜ん」と言って俺に食べさせてくれた。もちろん、これも超絶に美味しかった。
「……私は……こういうのがいいんだからさ」
「ん?」
「……なんでもなぁい」
そう言いながら、次々に料理を俺の口に放り込んでくるのであった。
「はぁ……腹一杯」
「はい、お茶」
「ん……サンキュ」
美奈が水筒から暖かいお茶を渡してくれる。
まだ少し肌寒さがあるので、これぐらいがちょうど良い。
お茶を飲みを終わると、二人で肩を寄せ合ってまったりする。
「改めて……ありがとな」
「改めて、どーいたしまして」
と、隣に座った美奈が頭を俺の顔の前に出してくるので撫でてやる。
ツヤツヤとした髪の上を指を滑らせて感触を楽しむ。
「美奈って、髪がほんとキレイだよなー」
「そう?」
美奈が少し首をかしげると、それに合わせて美奈のポニーテールが少し揺れる。
俺は、前から言ってみたかったことを伝えることにした。
「なぁ……ショートカットにしてみない?」
「え?」
「いや……今のままでも、めっちゃ可愛いんだけどさ……美奈ってショートカットの方がもっと似合う気がするんだよな」
「え〜、達也、そんなの分かるの?」
「……わ、分かる……たぶん」
実はこの先、美奈は高校三年生でショートカットにするのだ。
もともと美少女だったのだが、それによって更に磨きがかかって、芸能界からスカウトされるほどにまでになる。
俺としては、早くその姿が見たいわけで……。
「ふ〜ん……。自信ある?」
「あ、ある」
髪型変更アプリみたいなのがこの時代にもあれば、説得力が出るんだけどなぁ……。
「……そしたら、もっと好きになってくれる?」
「え……うん、なるよ」
正直、これ以上美奈のことを好きになるというのが今はまだ想像できないけど……。
「それじゃ……今から切りに行こうかな? 美容院が空いてたらだけど……」
「え!? い、今から?」
「だめ?」
「いや、いいけどさ」
この遊園地も俺たちの家からそこまで遠いわけじゃない。
来ようと思えば別の機会を作ればいいだけではあるが……。
「なんか……一分一秒でも早く、達也の好みに合わせたくなっちゃった……」
そんな事を言われて断れるはずがない。
「分かった、行こう」
ラッキーなことに美奈がいつも使っている美容院に電話をかけると、二時間後ぐらいには空いているということだった。
俺たちは遊園地をあとにして、少しだけ散策しつつ自分達の家の最寄り駅に向かった。
戻ってきて、美奈が美容院に行っている間、俺は近くの書店で時間を潰すことにした。
ドラゴ○ボール、スラムダ○ク、ダ○の大冒険など懐かしい漫画が雑誌に載っている。
あっという間に時間が過ぎて、予定時刻が近づいてきたので美容院の前で待つ。
しばらくすると、髪を切った美奈が現れた。
天使だった彼女は、女神にランクアップを果たしていた。
いや、妖精と言った方が正しいかもしれない。
「ど、どう?」
と言って美奈は俺の前に立つ。
ふわりと軽く仕上げられたショートカットは、彼女の透明感を引き立てている。
あどけなさが残っているようで子どもっぽくはない。
綺麗な首筋には大人の魅力も感じる。
「え〜と……だな」
美奈にどう伝えて良いか、口下手な俺ではなかなか言い言葉が浮かんでこなくて──
──かわいいとか、似合ってるとかの言葉では言い表せないから。
「とりあえず……抱きしめたい」
そんな気持ちを素直に口に出してしまう。
それを聞いた美奈は少し恥ずかしがった後に俺に近づいて目の前に立って、俺が抱きしめやすいように両手を少し開いた。
「……ん…………優しく……ね」
「おう……」
妖精の体を傷つけてしまわないように、大切に抱きしめた。
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